見しらぬ世界にて(4)
夕食の後、私たちは部屋へ行って話した。
「どこもあるんだねえ。権力を使う嫌なやつ」
私とねねも顔をしかめて頷いた。
「でも、ここならそう強力なセキュリティはないわよね」
ふと、そう思った。
「そうね。防犯カメラもないんじゃないかしらあ」
ねねも同意する。
「じゃあ、やるかい?」
よりこがにやりとする。
私たちは、すぐにその貴族のいる場所を確かめた。
街灯もなく、日本ほど夜が明るくない。窓の鍵もたいしたことがないのは、ミヤン邸でわかっている。
「義賊ねえ。半年の間、そういう活動もおもしろいかもしれないわねえ」
「それも悪くないね。美女三人の泥棒の話ってあったね」
「レオタードは着ないわよ」
私たちはきゃあきゃあ言いながら、窓から抜け出して町の中に出ていった。
貴族の泊まっているところとは、王の離宮だった。私たちが召喚された通路がある建物のことで、王妃から泊まる許可を得て泊まり、明日には出発して首都に向かう予定らしい。
今晩しかチャンスはない。
私たちは暗闇の中を音もなく走り、二メートル半ほどの塀を乗り越えた。
この程度、忍びの訓練を受けた者として造作もない。
庭には時々兵士が巡回して回ってくるが、タイミングをはかれば簡単に建物まで近づくことができた。犬なども放っていない。割と呑気だ。
貴族は精霊の魔法が使えるらしいので、それだけが要注意かもしれない。
壁は現代日本の建物と違い、忍びならば手足をかけて上れるおうとつがあったので、するすると上ることができた。
そして、窓を覗いていくと、とある窓でそれを見つけた。
部屋のテーブルの上に宝石がある。それは、確かに大きくて立派な代物だった。
〈間違いないね〉
〈じゃあ、すり替えてこよう〉
そろりと窓を開け、体を忍び込ませる。
部屋の主は、隣の部屋で高いびきだ。それでも音を立てないようにして、凶獣の軟骨と宝石をそっとすり替える。そして再び外に出ると、窓を閉め、下に降りた。
〈拍子抜けするほど簡単だな〉
〈まあ、まだ注意はしないとね〉
〈軟骨に変わっているのを見てどんな顔をするのか見たかったわねえ〉
私たちは庭を横切り、塀を越えると、元の持ち主の店に侵入して店主の部屋の机に宝石とネコの絵のカードを置いた。昔流行ったマンガで、ネコのカードをその三姉妹の怪盗が置いているのを思い出したからだ。
ちょっとした茶目っ気である。
まあ、ネコのつもりで描いたのに、キツネと思われてしまったのではあるが。
翌日、例の貴族は大騒ぎをしたらしい。宝石が凶獣の軟骨に変わっていたのだから、驚くのも無理はない。しかも、こちらでは断罪の女神は手下としてキツネを使っているらしく、何も言えずにただ真っ青になって震え、早々に旅立ったという。
店主の方はただただ感謝し、その噂を「ここだけの話」としてしたらしい。
しかし、洋の東西を問わず、「ここだけの話」がここだけに収まった試しはない。その噂はあっという間に庶民の間に広まり、困ったことがあれば教会へ行って女神像の前に手紙を置いておくといいらしいと噂がまことしやかに広まったのである。
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