見しらぬ世界にて(1)
話し合いで、どうにかして再び魔術を使って私たちを帰すように王を説得し、できなければ他国に働きかけて精霊を借りることはできないかしてみるとゲイリーは言った。
教会はどの国にも縛られないという存在で、そのネットワークを使って頼んでみるらしい。
それでも、どうして精霊が必要なのか話さないわけにはいかないし、話せばオライアは警戒されることになるだろう。
それを避けるには、王は貴族を集めてもう一度儀式をせざるを得ない。
「それまでは、ここに逗留して、ゆっくりと過ごしてください」
そう言われ、とりあえず私たちは翌日から町を見物しに出かけることにした。
少なくとも半年は暮らすことになる場所だ。知っておいた方がいいし、単純に知りたい。戻れないなら、その間、観光旅行に来たとでも思えばいい。
ハルタの町は、過疎である深山村からしたら大きく見えたが、そもそも、深山村と比べれば大抵の集落は大きくなるだろう。
深山村から一番近い駅は単線で普通電車しか止まらない。駅前こそそこそこ拓けてはいるが、それでも小さい。そこから一日六本の電車に乗って急行列車が停車する駅まで行くと、デパートや大きな電気屋なんかもあって、人が増える。ちょうどこの町は、そこと深山駅前の間くらいだろうかと見当をつけた。
「ほう。本当に看板の文字が読めるね」
よりこが驚いたように言う通り、看板の文字が読める。
文字通り、読めるのは読めるのだが、全く見たことのない文字である。アルファベットでもないし、キリル文字でもない。図形に似たもので、どうしてそれが「パン」や「宿」と読めるのか、読んでいてもよくわからないという気持ち悪さがある。
言葉も含め、どういう理屈なのだろうか。ねねによると、そういうものらしい。だから、わからないけどそういうものだと受け入れるしかないということだ。
歩いている人たちは、あっさりとしたデザインのロングスカートやズボンにシャツという出で立ちで、私たちの普段着と大差ないように見えた。
それに店も、パン屋や果物屋や惣菜屋など、日本の商店街と同じようなものだ。
違うのは、武器屋が普通にあることだろうか。
「こっちの人は、みんな武器を持ち歩いているのかな?」
アメリカなどでは銃を持ってもいいように、こちらも武器を持ってもいいのだろうか。
「やっぱり、魔物とかいう凶暴な生き物がいるのかもしれないわね」
「気をつけないと危ないわねえ」
私たちは話しながら、町中の観察を続けた。
お金を使って売り買いしているようだが、貨幣の種類は残念ながらよくわからない。ただ、紙幣というものは見かけなかった。
そのうち、冒険者ギルドという看板を掲げた建物を見つけた。
「ギルドっていうのは、あれでしょ。組合」
中学の社会の時間に習った。
「じゃあ、冒険者組合だよな。冒険者って?」
よりこが訊く。冒険者と言われて思い出すと言えば、これしかない。
「三○雄一郎でしょ」
「マク○イバーだろ」
三○雄一郎といえば、六十を過ぎてもエベレスト登頂に挑んだ超人だ。マク○イバーはアメリカのテレビドラマの登場人物で、CIA職員という設定だった。
「違うわよお。何でも屋、みたいなものだったような……」
ねねもよく覚えていないらしい。
ぶらぶらと歩き、もらった小遣いで軽食を買って食べてみた。パンに野菜などを挟んだホットドッグのようなものだ。
「いただきます──ん?」
「……ん……」
「……うん?」
微妙な顔になった。
昨日はミヤン伯爵の家で夕食をいただいたが、それは美味しいと思った。
だが、この屋台の食べ物は、微妙だった。
「何が違うのかしら」
「肉は固いし、臭いがある?」
「安いから仕方がないのかもしれないけど」
改めて眺めてみると、同じようなものを売るレストランを通りから眺めてみると、肉の色が違うようだ。
「値段ではっきりと差があるのかねえ」
そう言うと、そばにいた子供が私たちを見上げて言った。
「あれは凶獣のいいところの肉だよ。だから、高くて美味しいんだよ。庶民の肉は、切れっ端や筋だからね。お婆さんたちって田舎から来たの? ここは動物の家畜は凶獣に狙われるから飼えなくて、これしかないんだよ」
もの知らずと思われたようだが、私たちは礼を言ってそこを離れ、真剣な顔を向け合った。
「優勝賞品のすき焼き肉を思い出してしまったよ……」
「美味しい肉を、食べたいもんだわ」
「いい部分があればいいんでしょう?」
私たちは頷き合った。
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