召喚(2)
執事に応接室へ通され、お茶とお菓子を出してもてなされた。
お茶は紅茶のようなもので、お菓子はクッキーだった。
「あら、美味しい」
「素朴な味わいだわあ」
「カップも、似たような形なのね」
言いながら、はたと気付いた。
「そう言えばどうして言葉が通じるの?」
ねねはおっとりと笑う。
「孫のよく読んでいるマンガだと、そういうものらしいわよお」
よりこが奇妙な顔をした。
「そういうもの、とは?」
「だから、異世界に迷い込んだりするお話があって、それだと、言葉は通じるし、文字も読めるんですって。たいていの場合」
私とよりこはふうむと唸った。
「そういうもの、か。まあ、便利だしそれでいいとするしかないわね」
「そうだな。原理を知ったところで、だからどうってもんだしね」
そうして三人でうんうんと頷く。
そのとき、ドアが開いて、三人の男が急ぎ足で入ってきた。
「ああ、申し訳ない。待たせてしまって」
そう言ったのは、貴族風の服を着た二人のうちの、背の低い方だった。
「まさか、儀式をするだなんて」
腹立たしそうに、貴族風の服のもう一人が言った。
「相手も迷惑だってことに気がつかないし、挙げ句に放り出すとは無責任極まりない」
白くて長い学ランみたいな服の下にズボンをはいた男がそう怒ったように言う。
〈どうやらこの三人は本当に王様の反対勢力らしいわね〉
〈うまく聞き出そう〉
〈まあ、悪い人ではなさそうよお〉
私たちはこっそりと会話をし、彼らが向かい側に座って落ち着くのを待った。
「あの、どういうことか説明してもらえるんでしょうかね?」
「何がなんだかさっぱりだよ」
「説明もなしに、急に役立たずだと放り出されても困るわあ」
それで、説明を受けた。
まず、この国の名前はオライアで、ここはその辺境にある町、ハルタ。大きな賑やかな町からは離れ、すぐそばには凶獣と呼ばれる凶暴な生き物が生息している危険な山と塩湖がある。
長い間、危険な場所だからと人は定住しにくい場所だったが、大昔、戦争の最中に偶然異世界から深山晴太という深山衆の子供が召喚され、忍びの技術で戦争を有利に運んだ。その報償として、伯爵という地位と、ここを領地として下賜された。そのとき、深山がミヤンと聞こえ、ミヤン伯爵、となったらしい。
「私はその四代目に当たります。タル・ミヤンです」
背の低い方の貴族の服装の男が言う。
言われてみれば、どこか日本人的に見える平たい顔立ちだ。
「わたしはライリー・クインシー公爵。タルの友人で、あの王の異母弟になる。腹立たしいことに」
もう一人の貴族らしい人が言った。
「わたしはゲイリー。教会では幹部の一人になっています。このライリー・クインシー公爵の弟だけど、教会に出家したときに姓を捨てたので、ただのゲイリーです」
白い服は、教会の制服らしい。
「出家するときに姓を捨てるんですか」
「はい。表向きは、執着を捨てるため、権力との癒着を予防するためですが、ただの習慣ですね。がっつり、権力と結びついていますよ」
おう。どこの世界も内情は生臭いものらしい。
「それで今回のことですが、今オライアは隣国と小競り合いが続いていましてね。深山衆の力を借りて、一気に戦争を起こして負かしてやろうと考えたんでしょう」
頭が痛いという風にライリーが言うと、ゲイリーも肩をすくめ、タルは嘆息した。
「日本では魔術はなかったようですよね。ここでは、精霊と契約して、その力を借りて魔術を使う、ということが昔からされていました。でもかなり昔に精霊が激減して、残っている数少ない精霊はどこも国が管理し、選ばれた貴族に貸し与えるという形を取っているのが現状です」
タルがそう言うと、私たちは「魔術」やら「精霊」やらという言葉に驚いたが、説明は続く。
「昔の名残で、深山晴太が呼び出されてきた場所との道筋は残っているというのが学者の言い分で、それでも、それを実証するすべはないままにこれまできたんです。ところが、四大貴族家に貸与されている精霊の力を死体として残っている精霊王の体に注ぎ込むと、失われた時空を操る魔術が使えるのではという学説を唱える者が出て、今回、王や四大貴族がそれを秘密裏に試してしまったということのようです」
「じゃあ、その方法で深山に帰れるんですか」
「魔力をたくさん使うので、準備にどうやら半年はかけたようですので……」
私たちは言葉もなく、まず揃って紅茶を口に含んだ。
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