召喚(1)
兵士も出て行き、私たちと数人の下っ端兵士だけになった。
「本当に町に放り出すのか?」
一人が声を潜めて言う。気がとがめるようだ。わけはよくわからないが、あの王様とやらから失礼な扱いを受けていることは確実だ。
「教会に送っていくのはどうだ。教会ならわけありでも面倒を見てくれるだろ」
「それよりミヤン伯爵に知らせた方がよくないか。同郷の子孫になるんだろうし」
彼らはそれで納得したらしい。
その前に、訊いておきたいものだ。
「ちょっといいかしら。ここはどこで、一体これはどういうことなのかしら」
「全くわからないままだと、困るわあ」
「そうだな。最低の説明はしてもらわないとな」
兵士たちは顔を見合わせ、おずおずと一人が口を開いた。
「言ってもいいのかどうかわからねえけど、昔もの凄い働きをしたっていう深山衆という忍びを儀式で呼び出したはずだったんだよ」
「それが、おばあちゃんたちが来たってわけでね」
「勝手なことをして申し訳ないね」
私たちは顔を見合わせた。
「まあ、それなら帰りましょうかあ」
「そうね。失礼な言動には腹が立つけど、すき焼きだしね」
「そうだな。すき焼きだ」
私たちは立ち上がると靴を履き、穴の方へと向かった。
それに彼らが着いてくる。
「帰れるかなあ」
「ああ。儀式の時以外は、そこ、奥行きのあまりない穴だもんなあ」
入ってみると、確かに奥行きが数メートルほどの穴でしかなかった。霧もすっかり晴れている。
「何でだよ!」
よりこが奥の落盤事故のようになっている壁をペタペタと叩いたが、ただの壁でしかないのがわかっただけだった。
「困ったわあ」
「ああ、すき焼きが……」
「あんのクソ王め」
怒る私たちだったが、詳しい説明もしてもらえるだろうからと、ミヤン伯爵とやらのところへと連れて行かれることとなった。
石造りの通路を歩いて裏口のようなところから外に出ると、そこは裏庭に面しているようで、裏口には業者の搬入用馬車といった感じのものが止まっていた。
「馬車だわあ」
「映画で見たけど、乗ったことはないわね」
「これが馬車だね」
「……えっと、これは幌付き荷車だぜ」
小声で申し訳なさそうに訂正するのを聞きつつ、荷台に乗り込むと、彼らが言う。
「異世界から召喚した人ってばれたら面倒になるかもだから、着くまで顔を出さねえようにしててくれ」
「あからさまに逃がしたとわかったら、やっぱりやばい気がするし」
「すまねえな、ばあさん」
そう言って、幌をしっかりと下ろした。
「いや、ありがとう」
「あんたたちのことは恨まないよ」
「ええ。元気でねえ」
そう答えたとき、馬車──いや、荷車はガタゴトと走り出した。少しして止まったかと思えば、キイ、と金属の音がする。門だろうか。それからすぐに再び荷車は走り出し、いくつか角を曲がりながら走り、再び止まった。
私たちは小声で話した。
「振動が、なかなか凄いわね」
「乗り心地は、いまひとつだわねえ」
「まあ、馬車じゃなくて荷車だしね」
納得しているうちに金属音がして、再び荷車は動き出し、しばらくして止まると、幌がさっと開けられた。
「着きましたよ」
荷車を動かしていた商人のような男はそう言った。
荷車の着いた場所はどこか大きい屋敷で、ここがミヤン伯爵とやらの家らしかった。
「さあ、どうぞ」
使用人だかなんだか知らないが、そう言って声をかけられ、私たちは荷車を降りることになった。
「お邪魔します」
まさに、豪邸、だった。
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