新人巡検士(1)
巡検士試験の二次試験はペーパーテストだった。
歴史や地理が出ると弱いのだが、世界情勢を含め、本を読んで頭に入れてある。忍びの訓練の中には速読や記憶術もあるのだ。
そうしてこれも、好成績で通過した。
最終試験は面接だ。
「面接ねえ。何年ぶりかしらねえ」
私たちは、一応学校を卒業してから、会社勤めも経験している。都会の暮らしや社会人の生活も知っておけというのがその理由だ。
私は商社に勤め、ここで夫となる雅良と出会った。その後婿養子に入ってくれ、後に一緒に村に戻ったが、もう何年も前に病気で死に別れた。
よりこは鍵屋に勤め、後に鍵屋が倒産したのを機に村に戻った。結婚はしていない。
ねねは、武浩という人と結婚し、小さい配送業を起業していた。しかし武浩さんが亡くなり、息子さんと奥さんに後を任せて村へ戻ってきた。
これらの経験で、教えられた忍びの技以外の特技も持っている。
私は二十代女性の声から男児の声までそれらしく出せるという特技がある。余談ながら学生時代にウグイス嬢をしており、なぜか引き受けた立候補者が全員当選したという過去があり、中には大物政治家もいるため、未だに伝説のウグイス嬢と呼ばれ、盆暮れに贈り物が届く。
よりこは鍵開けの特技があるし、合気道の達人でもある。
ねねは、ドローン、車、フォークリフト、船、とにかくいろんなものの操縦ができる。
「会社だと、どんな仕事をしたいかとか訊かれたけど、どうかしらね」
「やっぱり、困っている人の役に立ちたいとかかしらあ」
「どうせ皆そう答えるだろ?」
確かに、それが面接というものだ。受けのいい模範解答を用意していく。
だから、どう答えるかも大事だが、答え方や印象を見るのが面接だとも聞く。
「まあ、堂々としていればいいね」
「最近はうるさいから減ったらしいけど、圧迫面接とかもあったとか?」
「パワハラやセクハラまがいの面接もあるとか聞いたけどお」
「セクハラって? 恋人はいますか、とか? いないから、なってくれるのかいって答えればいいかね?」
私たちはケラケラとわらってた。
その横で、別の受験生が緊張しきったような顔で、恨めしそうにこちらを見ていた。
「余裕だなあ、婆さんたち」
「婆さんたちだからだろ」
「どこまで真剣なのかしら」
小声で言っている。
真剣なんだけどな、と思いながらも、少し気を引き締めた。
「あら、ごめんなさいね。こんなの久しぶりで、はしゃいじゃって」
「緊張もほどほどがいいわよお」
「そうそう。緊張のあまり挙動不審になっても困るだろ」
そう言うと、受験生たちは大きく深呼吸したりし始めた。
「お互い合格したら同期ってことになるね。そのときはよろしくね」
「そのときは皆で飲み会だね」
「いいわねえ。隠し芸とかするのかしらあ」
この世界にカラオケはないだろうから、一発芸とかそういうものをするのだろうか?
そう考えているうちに、順番が回ってきた。三人ずつ部屋に入っていくのだ。これは、私たちへの説明とかがしやすくなるように、という数かもしれず、私たちは三人で同じグループだった。
部屋へ入る前に、ノックを三回。「どうぞ」の声を待って「失礼します」と言いながらドアを開けて入室。
ドアの正面に、ゲイリーともう一人が座っていた。
「狩野織葉です」
「竹本依子です」
「鴻屋寧音です」
一応昔を思い出しながら真面目にやると、ゲイリーは笑いながら、並んだ椅子を指した。
「はい、座ってください」
私たちは真面目くさった顔で座るが、つい、出てしまった。
「よっこらしょ」
ゲイリーの隣の人は、ゲイリーをちらりと見た。
ゲイリーは上機嫌で言った。
「楽にしてくれていいですよ。彼には話はしていますから。いやあ、思いがけず真剣に試験に取り組んでくれたんですね。そのお歳で見事な成績でした。過去最高に近いですよ」
私たちは笑った。
「何事も真剣に、がモットーだからね」
「そう。仕事も、ご飯も、遊びも、おちょくるときもだね」
「老い先短いからねえ」
ゲイリーの隣の人は、ぼそりと言う。
「短そうに見えない。年齢と試験の成績が合ってない」
ゲイリーは笑ったままその彼を紹介した。
「彼は、巡検部の課長、オルツくん。だから、直属の上司ってことになりますね」
それを聞いて私たちは軽く頭を下げた。
「どうぞ、よろしくお願いします」
「いや、こちらこそ」
ペコペコと頭を下げ合う。
「召喚の儀式のことは話してあるし、あなた方のことも言ってあるので、安心してください。でも教会内であなたたちが深山衆だと知るのは私とオルツくんだけなので、それ以外には秘密にしておいてください。万が一、ということがありますのでね」
そうして、少し雑談をして、面接は終了した。
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