四人目(3)
狐の名前は「シロ」になり、シロと私たちは、一旦深山に戻ることにした。
「じゃあいくぞ」
シロが言ったあと、フッと姿が消える。
「ん?」
私たちは首を傾げた。この後で自分たちも向こうへ行くのだろう、どういう感じになるんだろうとわくわくしていたが、一向に変化もない。
そのうちに、シロがフッと現れた。
「……ダメだ。どうも、オレ以外には連れていけないみたいだ」
シロがガックリと肩を落として言うのを聞いて、私たちもガックリと肩を落とした。
「ああ……残念だわあ」
「そうね。必要な物をいろいろと調達できると思ったんだけど……はあ」
「そううまい話はないってことだね……はああ」
「また美味いものを食えると思ったのに……はあああ」
皆のため息が重なった。
「オレだけ行っても、何が必要かわからんしな」
シロが口を尖らせて──いや、最初から尖っていたかもしれない──言うのに、ふと思いついた。
「じゃあ、一切合切持ってくるとかはできそうにない?」
シロはキョトンとし、考えた。
「容量的には不可能ではないが、もの凄く大変だぞ。ゴミの果てまでか? オレには、人間の必要な物とかわからないから、そういうことになるぞ?」
それに、私たちが考え込んだ。
「深山のシロと、会話なり視界の共有なりができるといいんだがねえ」
「それはできるだろう。精霊と人間が契約すれば、低級な精霊にはともかく、オレ様くらいになればそのくらいはできるからな」
シロは胸を張る。
「よし。じゃあ、シロ。深山の家からいろいろと持ってきてもらおうかね」
私たちは、ニタアと笑った。
『着いたぞ』
「おお、面白い」
視界にもう一つ別の視界が被さるように見え、頭の中にシロの声が響く。そこは井戸の下の通路の奥、落盤で塞がれているところだった。
霧は発生していない。あれは、無理矢理時空の魔術を再現しているから出てしまうものらしく、本来はこういうものらしい。
井戸から出て、シロは壁の時計を見た。
間違いなく、井戸へちょっと様子を見に行った程度しか時間が経っていない。
「ということは」
「今夜は高級すき焼きかねえ」
「でも、お腹いっぱいなのはそのままなのねえ」
それもそうだ。
「明日にしましょう」
私たちは、家へ必要なものを取りに行ってもらおうと、早速シロへ家へ向かうように頼んだ。
「冷蔵庫が欲しいけど、それは無理か」
「電気がないからねえ」
「発電機があればいいけど、発電機の説明が困るものねえ」
家電は諦めるしかない。
シロが言う。
『クーラーとか扇風機は無理でも、冷蔵庫の代わりはオレができるぜ。オレが時空の精霊ってのを忘れちゃ困る。たくさんのものを、入れたときと同じ状態で保存できるんだぜ』
「なんて凄い狐! 歩く冷蔵庫! 猟のとき、シロがいれば運搬に困ることもないわ!」
「よくきた、シロ!」
「期待してるわよお」
私たちはシロを褒め称えた。
そうして歩き出したとき、駐在さんを見つけた。
「そう言えば駐在さんや村の皆にも無事を知らせた方がいいのかしらね」
「心配はするだろうからね」
「無駄に山狩りとかさせるのも気の毒よお」
「今度、手紙でもシロに届けてもらうのはどう?」
「そうしよう」
話している間にもシロは家の方へと歩いて行く。
家は神社の隣に並んで立っていて、端から順番にシロに入ってもらう。
シロが見た目のままのキツネなら無理だっただろうが、シロは器用に引き出しでも冷蔵庫でも金庫だって開けられるのだ。驚きだ。
順番に家を三軒回ってもらって、必要な物を集めてもらった。
着替え、靴、調味料に食料品。迷ったものの、サバイバルゲームの用具一式と、猟銃。今後、どんな凶獣に出会うかわからない。ハルタの冒険者は防具を着けていたが、サバイバルゲームで着ける防具や目を保護するゴーグルと似ていた。
それと、忍び道具も便利だろうし、ライトやキャンプ用品一式も準備した。
なあに。シロがいるから、大荷物でも構わないことはわかっている。
それと、高級すき焼き肉も忘れてはいけない。
私たちは着々と準備を進めた。
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