四人目(2)
お互いに落ち着いて、座り直す。
「で、それがどうしてここに? 家出はやめて帰ってきたのかい」
狐は前足で口の周りをきれいにして、ふうと息をついた。
「いや、それがさ。いきなりまた時空が歪んだ気配がしたから、それを辿ってきてみたんだ。そうしたら、親が呼び戻したんでもなくて、お前たちが呼ばれてきてたんだろ。ついでに親を探してみたら、精霊は恐ろしいほどいなくなっていて、少ない残りは人間の貴族に捕まっているらしいし、親は死んでいるらしいとわかってさ」
狐は肩をすくめた。
「最近の供え物は美味かったしな。お前たちにくっついていればいいやって思ってたんだけどさ。しょうゆとか米とかがあれば、深山みたいに美味いものが作れるのか?」
私たちは頷いた。
「ここにはないものがいろいろとあるからね」
「調味料だけでなくてね。まったく。わかっていたら、いろいろと準備して持ってきたかったよ」
「残念だわあ」
狐は嘆息する私たちを眺めたあと、なんてこともなさそうに訊いた。
「精霊王の血筋は唯一時空を操る精霊なんだぜ。いつでも深山に行ったり、こっちに来たりできるぜ」
私たちは、バッと勢いよく狐に詰め寄った。
「何だって!?」
「あんた、深山に帰れるのかい!?」
「それを早く言いなさいよお」
狐はタジタジとなった。
「わ、悪い。そうか。深山じゃ精霊はいないから、精霊王の子って言っても伝わらなかったのか」
ブツブツと呟く。
「で、帰るのか?」
私たちは、少々ここで迷った。
「そう、ねえ。帰るのは賛成だけど、タルさんには話しておかないと心配するわよね」
親身になってくれ、半年後に向けて動いてくれようとしている人たちには、言っておかないと悪いだろう。
「精霊王の子がいるというのは、ちょっと言わない方がいいかもしれないぞ」
「そうね。あの王にバレでもしたら、戦争だ何だってうるさいことになるわね」
「じゃあ、こっちで骨を埋めるつもりって言って、そのうちフェードアウトするとかあ?」
向こうでは駐在さんが、こっちではタルさんが心配するってわけだ。
それでも、どちらを選ぶかと言えば、深山だ。
「とりあえず深山に戻って、必要なものを持ってくるのはどう?」
「そうだね。それでそのうち、行方不明になるかね」
「駐在さん、山狩りとかしたのかしらねえ。なんて言うのがいいかしらあ」
頭が痛いと、私たちは嘆息した。
しかし狐はきょとんとして言う。
「消えた瞬間に戻れるぞ?」
「え?」
「だから、井戸に入って術の中に入ったあの時間に戻れるぞ? 反対に、こっちに戻ってくるときもだな」
私たちはしばらくそのままの姿勢で考え、顔を見合わせてニヤリとした。
「ってことは、いつでも行き放題?」
「それはいいね。こっちで過ごして、時々戻って足りないものを補給して」
「まああ。素敵だわあ」
私たちは、狐に向き直った。
「美味しいものを作るから、協力してくれるかね?」
「こっちの肉は美味しいから、深山とここ、両方を合わせた生活をすれば、最高にいい具合になりそうだけどね?」
「ウィンウィンってやつねえ」
狐は私たちの申し出を聞き、すぐに言った。
「ようし、契約しようぜ! 美味いものを食わせること! オレはそのために協力してやるぜ!」
それで私たちと狐は、契約を交わすことになったのだった──が、計算違いが発覚するのはすぐのことだった。
お読みいただきありがとうございました。御感想、評価などいただければ幸いです。




