四人目(1)
外部との接触を断つために受験生に用意された寮に私たちは入った。簡単なキッチン付きで、鍋や釜など揃っていた。これは、諸国を回っているときに野営をすることもあるので、自分で自炊できることが必須となるからという理由らしい。まだ受験のときは、かまどやら鍋やらが揃い、食材も市場などで用意することができるだけ親切だ。
古くはあるが、居心地は悪くない。
「素敵だわねえ」
「どこか、深山の家に似た雰囲気があるわね」
「ああ、皆どうしているかねえ。駐在さんも、行方不明者が出たって心配してるかねえ」
しんみりとして村のことを思い出した。あと、冷蔵庫に入れたままの高級肉も。
「はあ」
深く嘆息してから、気持ちを切り替える。
「ま、こっちの生活を楽しむとしましょう」
「そうだね。引っ越し祝いに、今日は水炊きだよ」
「ふふふ。高級トリ肉ねえ」
ポン酢はないが、辛い実があるのでそれと塩を合わせるとゆず胡椒のようになったし、ごまのようなものがあるのでそれをひたすらすりつぶしたものと味噌とごま油と水でごまだれのようなものができた。卵を入れるといいだろうとは思うが、生で食べられるかどうかが不安だ。
地球でも、生卵を食べられるのは日本くらいだと聞いていることだし、やめておいた方が無難だ。
私たちは、手早く山で狩ってきたニワトリもどきをさばいて、鍋にして食べ始めた。
「はあ、これはこれでいいね!」
「ポン酢もいいけど、今度からこれにしようかしら」
「はあ、幸せだわあ」
お腹いっぱいに食べ、締めのうどん代わりにスパゲッティのようなめんを入れて食べた。
そして機嫌良く、話をしていた。
「ここの生活も楽しそうでいいわね」
「そうだね。いやあ、楽しみ楽しみ」
「肉の味が濃いのよねえ」
言って、空いた食器を片付け始め、ふと気付いた。
「あら。肉がもっと余ってたはずだけど、気のせいだったかしら?」
「ぼける年じゃないだろ、おりは」
「やあねえ。勘違い、勘違い」
笑って、ふと、呟く。
「でも、しょうゆと米があれば、もっと美味しくできたのに。それが残念だわ」
はあ、と嘆息したとき、それが現れた。
「それは本当か?」
それは白い狐のようだった。いきなり目の前に現れ、私たちは驚いた。
「白い狐?」
狐に似てはいるが、額に渦巻きの模様があり、尻尾は五本もある。
「五尾の狐かね」
「白狐だわあ」
「どっちも合ってるけど、本当に狐かしら?」
喋る動物なんて、九官鳥かインコしか見たことがない。
しかし狐は私たちの視線など気にもとめず、訊き返した。
「しょうゆや米があれば、もっと美味いのか? 深山のときのように?」
それで私たちは、狐に詰め寄った。
「深山? あんた、何者だい?」
狐はどうということもないように答える。
「オレは、元はここにいた精霊だったんだけどな。精霊王になるのも面倒だし、もっと面白いことを探して家出したんだけど、たまたま暴発した魔術が深山につながったんで、そこに移ったんだぜ。山の中に棲んで、神社に供えられる食べ物を食べたら美味くてさ。ずっと、神社や裏の山にいたんだ」
それを聞いて、私たちは思わず言った。
「お供えが本当に消えていたのは、あんたが食べてたの」
「親とかは、深山の守り神が食べてるとか言ってありがたがってたけどさ」
「つまみ食いだったってわけねえ」
がっかりだ。
「いや、待てよ。あながち嘘でもねえぞ。オレは精霊だって言っただろ。精霊王の子だぜ」
狐は胸を張った。
「家出中のどら息子じゃないの」
ぼそりと言うと、よりことねねも頷いた。
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