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蟷螂(かまきり)

作者: 黒楓

今日は月曜! 月曜真っ黒シリーズ初の『イセコイ』でございます!


しかも愚妹の作品から登場人物の名前を盗用するという黒っぷりです(^_-)-☆



 美しく聡明な女王エリザベートも今、この瞬間はベッドと言う巣に籠った若い()()()鳥となって熱く睦合っていた。

 何度も“愛”を交わす二人に夜は余りにも短く、既に空は白みかけている。


「今までの幾多の……(ワシ)の様に精悍な男共が私の夜伽相手として供されて来たが……私がこの様な満足を得たのが……まるで飛べないガチョウの様なお主(おぬし)とは……まったく不思議なものよ」


「それは私が……真に女王陛下を愛しているからです!」


「今は厳命して人払いをさせてはいるが……お主のその世迷言が誰かの耳に入れば、次の瞬間にはお主の頭は首から離れ、転がり落ちた挙句、お主は事切れる瞬間に自分の足元を見る事になるぞ」


「元より女王陛下への愛に殉ずる覚悟でございます」


「お主にそうまで言わせるとは……ヴァレ公爵はお主にどんな物を食わせておるのだ?」


「私を拾ってくださったヴァレ公爵様は、私が見た事の無いご馳走を与えて下さいます。私が夜伽の責を果たせる様にと」


「それは強制摂食(ガヴァージュ)だな。残念ながら私はブヨブヨした腹に顔を埋める趣味は無いし、お主とは今宵限りだ」


「何か不手際がございましたでしょうか?それとも私に飽きたのでしょうか?」


「どちらでも無い。夜ごとこの身に取り込んだお主の“精”が実を結んだのだ! この腹の中の子の父親はヴァレ公爵となり、お主も用済みとなる。だからすぐにでも! この部屋のあちこちにある金貨を適当に拾って、夜が明け切る前に出奔せよ! 私は後を追わせたりしない。」


「もし、女王陛下が私を必要とされないのであれば、私はこのままヴァレ公爵様の所へ戻ります。陛下が追わせなくとも、ヴァレ公爵様が必ず私を捕らえるでしょうから。だからどうかお願い申し上げます。女王陛下が私に飽きるまでは、このまま仕えさせてはいただけませんか?」


「私にとってお主は……夜伽相手の子種でしかない。愛などは介さないのだ。私の見立てでは、お主の才覚ならばヴァレの追手から逃げ果す(にげおおす)事もできる筈!なぜ逃げぬ?!」


「私は女王陛下への愛に殉じたく存じます」


「無為な事よ……生まれいずるお主の子も……おそらく、元服には至るまい。知っているか?私は前王の七番目の子供だ!王たるものの長男長女は生き残った例がない。だから私はお主が亡き後も子供を産み続ける事になろう。私自身が暗殺されるまではな。ハンスよ!お主には生き続けて欲しいのだ!」


 ハンスは感じていた。

 今、()()()()()抱き締めている……国母たる女王陛下の豊かな二つのふくらみが熱く燃えているのを……


「愛しきエリザベートよ!あなたの愛に私は殉ずる!」


「言うな!」


 そう叫ぶ国母の流す涙は……あまたの宝石より尊かった。



 ◇◇◇◇◇◇


 女王エリザベートとハンスとの最後の逢瀬は……クチナシが香る初夏の朝の事だった。


 女王は、『まかり間違えば、お毒見役が首を刎ねられかねない』その立場上、重い悪阻(つわり)を隠し通す事ができなくなり、自らの懐妊を公にした。


 そして、最後の夜を迎え……厳重な人払いをして二人きりとなった“愛の巣”で、女王はハンスを“器”にして久しぶりにワインを飲む事ができた。


「ワインを一切受け付けなくなってしまった私なのに、どうした事だろう……()()()()()()()()()()この古いチャクマワインだけは飲める」


「それはきっと……私がチャクマに生まれたからでしょう。私の生まれた時分には()()()の者どもにすっかり荒らされ、肥沃な大地も見る影も無くなりましたが……祖父の時代には私の家もワインを造っておりました」


「なるほど!合点がいった。お主はチャクマの民だったのか……約束しよう!私は自らの命に代えてもルジバの野蛮人共を蹴散らし、必ずや、お主の生まれた大地を肥沃な地に戻してみせると!」


 そして永久の愛の契りを交わしたハンスはヴァレ公爵の元に帰り、二度と戻る事は無かった。



 ◇◇◇◇◇◇


 数日の後、女王の懐妊祝いとしてヴァレ公爵家から早馬に乗って様々な贈り物が届けられた。

 その中の一品として“今朝とれたての”フォアグラが有り、その夜の女王の晩餐にソテーとして供された。


 あらゆる者達の反対を跳ね除け、女王は“お毒見”の舌にさえ()()()も触れさせずにそのソテーを目の前に運ばせた。古いチャクマのワインと共に……


 完全に人払いをした……シンとした空間の中……女王がそのソテーを口に含むと、悪阻の吐き気は掻き消え、代わりに止めどなく涙が流れ落ちた。



 ◇◇◇◇◇◇


 p.s.



『子種の元となった男を喰らうカマキリ』との噂の出所は当然の事ながらヴァレ公爵。


 その噂が功を奏し、女王は()()()()()()事無く、嫡子はイース王子ただ一人となった。


 しかも、謀略に長けるヴァレ公爵は女王エリザベートを暗殺し、“イース王”の摂政として実子ヤーマンを擁立せんとした。

 即位前にそれを察知したイース王子は自らの元服祝いの席でヴァレ公爵親子を血祭に上げ、「我こそはカマキリの腹から産まれた悪魔の申し子ぞ!」と列席した貴族、諸侯の面々を震撼させた。


 無事、王位に就いたイースは母エリザベートの悲願だったチャクマの地を、ルジバ王国を滅して解放した。


 しかしその対価としてチャクマの民に申し出たのは……自分の父祖の土地を譲り受ける事だけだった。

 そして、歴史書にはここまでの記載しか無い。


 およそ人の世で語られるのは……それが『悪魔王』だとしてもこの程度のものだが……

『悪魔王』と言われた彼にも彼の人生がちゃんとあった。


 妻も娶らず子も成さず、早々と王座から下りたイースがその生涯の大部分を……チャクマの農夫として愛する家族と共に過ごした事は殆ど知られては居ない。




                           おしまい







でも、意外と“まとも”だったでしょ?



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― 新着の感想 ―
なんかイー感じ! 文章もお話しも、全体が中世ヨーロッパっぽいです。
『美女と野獣』に身分差、宮廷陰謀劇、を加えた悲恋ですね〜  (u_u。) 〉「我こそはカマキリの腹から産まれた悪魔の申し子ぞ!」   哀しくも凛々しい  (`;ω;´) 
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