第四十八話 ドラゴンテイマー
「ゴルザンさん、ドラゴンってやっぱり憧れますよね!乗ってみたいですよね……!」
朝の帳簿を確認していたミーナが、ふと夢見るようにつぶやく。
「ん、まあわかるけどな。空、飛んでみてぇってやつだろ?」
「はいっ! あと、あの、しなやかな翼とか、力強い脚とか……」
「おいおい、お前が言うと本気でドラゴンテイマー目指してそうに聞こえるぞ」
そんな会話をしていた矢先、伝話石がふるりと揺れた。
「……ドラゴン関連の依頼人、来るらしいぞ」
***
「個人でドラゴンの貸し出しをしている、ルティナ=グレアと申します」
現れたのは、自信に満ちた瞳を持つ30代の女性。
「以前はそこそこ順調だったんですが、最近ちょっと事故がありまして……」
「事故、ですか?」
「ええ。操縦者とドラゴンとの意思疎通がうまくいかず、街道でトラブルを起こしてしまって」
ルティナは苦笑しながらも真摯に語る。
「たぶん、私が一番悪かったんです。ここ最近は、ドラゴンのことを“商材”としてしか見てなかった。昔は、もっと空を飛ぶことにワクワクしていたのに」
「……わかります、その気持ち」
ミーナが小さくうなずく。横で、ゴルザンが腕を組んでいた。
「つまり、再起を図りたいってことか」
「はい。でも一人でやるのはもう限界で……。なんとか運営を立て直したくて、ギルドに相談に来ました」
***
「ドラゴンとの絆を大事にしたいってなら、事業モデル自体を見直すべきだな」
ゴルザンは地図と書類を広げて、支援可能な周辺ギルドや行政との協力体制を説明し始める。
「操縦者、補助員、ドラゴンの三位一体。セットで派遣する“斡旋付きドラゴン運用支援プラン”、どうだ?」
「……すごい、それなら事故も減りますし、現場も安心です!」
「ただし、全部一人でやろうとすんな。組織は“役割分担”が命だ。副代表を立てて、事業全体を見る目を育てることも忘れんな」
ルティナは、目の奥で光を灯したように、小さく息を吐いた。
「……はい。初心に返って、もう一度、”彼ら”と向き合ってみます」
***
その数カ月後。
ドラゴンテイマー業は再編され、ギルドと提携した新たな事業として再始動。
「ルティナさんの“斡旋付き支援プラン”、行政からの補助もついて、採用枠拡大されたそうです!」
ミーナが報告書を手に、いつものように笑顔で言った。
「初心ってのはな。思い出せば、また空だって飛べる。いつだって羽ばたけるもんさ。」
ゴルザンのマグカップが、いつもより少し高く掲げられた。
「今まで出会った依頼者さんも、何人かそういった方いらっしゃいましたもんね。」
「そうだな。そういう人が立ち返る手助けを今後もしていきたいもんだな。」
「そうですね……」
二人の間にしんみりとした空気が流れ始めた。
「でも、私はやっぱり……一回、ドラゴンに乗ってみたいです!」
「……お前の場合、喜びすぎてずり落ちそうだな」
「ええっ!? そんな!」
二人の笑い声が、ギルドの静かな午前に広がっていった。