第四十一話 冒険者
「──ほい、ミーナこれ。今日の予約は、親子連れだとよ」
「えっ、親子ですか?」
カウンターで帳簿を確認していたミーナが、ぱっと顔を上げる。
「お父さんが依頼人? それとも息子さん……?」
「ふたりともだ。どうやら“面談希望”ってだけで、まだギルド登録もしてねぇらしい」
そのとき、扉が開いた。
「失礼します……面談の予約をしていた、グレン=バルザックです。こちら、息子のリオです」
「よろしくお願いします!」
父親は落ち着いた物腰の男性。冒険者らしい鍛えられた体つきに、着古したジャケット。
一方、息子は十五、六歳くらい。目を輝かせ、明らかに“夢”を抱えている表情だ。
「では、こちらへどうぞ」
案内された面談ブースで、まずミーナが口を開く。
「本日は、どのようなご相談でしょうか?」
「はい……息子が、冒険者になりたいと言い出しまして」
「うん、僕、小さいころから父さんの話を聞いていて!すごいって思ってたんです!」
「……昔のことです」
グレンが目を伏せる。
「私は、十年前に冒険者を辞めた身です。家庭を持って、安定した仕事に就いて……それなりに平穏でした。ですが──」
「父さんが、冒険者として働いていた頃の話を聞くたびに、僕も挑戦してみたくなったんです!」
「……止めたんですがね」
グレンの声に、ミーナがそっとゴルザンを見る。
「なるほど……“止めたいけど、止められなかった”わけですね」
「……そうです」
会話のトーンが少し重くなったところで、ゴルザンが口を開いた。
「ガキの夢ってのはよ、止められないんだよ。たとえ現実がどれだけキツくても、体験しねぇとわからねぇ。……俺たちも、そうだったろ?」
その言葉に、グレンが目を細めた。
「あなたも、元冒険者で?」
「ま、そんなところだ。そんで、今は流れ流れて仕事の斡旋をやってる。なかなかいいぞ、誰かの“次のステージ”を見つけてやれるってのは」
「……次のステージ、ですか」
ミーナが続ける。
「リオさん、今の冒険者像って、どんなイメージですか?」
「強くて、かっこよくて……困ってる人を助けて、英雄みたいな!」
「うん、それも冒険者ですね。けど、たとえば迷宮調査や、物資の護衛、災害時の搬送、魔獣の生態調査……地味だけど誰かを支える冒険者もいます」
「へえ……いろんな種類があるんだ」
「冒険者って、職種ってより“スタイル”なんです。どうありたいか、どう生きたいか。その延長にあるのが、冒険者なんですよ」
リオが真剣な顔でうなずいた。
「……僕、やってみたいです。どんな現実でも、まずは体験して、自分で決めたい」
「じゃあ、冒険者登録するか。グレンさんも、一緒に?」
「えっ?」
グレンが驚いた顔をする。
「いや、俺は……もう現場を離れて長いし」
「だけど、お父さんが一番、“本当の冒険者”を知ってるんじゃないですか?」
ミーナの言葉に、グレンが少し黙ったあと、ふっと笑う。
「──そうか。……じゃあ、もう一度、戻ってみるか」
ゴルザンがぼそっと呟く。
「夢に向かう若者と、現実を知る大人。……両方が前を向けりゃ、最強だな」
「え? 今、ちょっとかっこよかったですよ?」
「やめろ。柄じゃねぇ」
リオとグレンが並んで手続きをしている様子を見ながら、
ミーナはふと、自分の初日のことを思い出していた。




