第三十八話 サクラサク
「ゴルザンさん、今日の面談予約……“芸人”って書いてあるんですけど」
「お、来たか、ひさびさの“自称・表舞台志望”枠」
「でも、職歴欄が“ガヤ専門”ってなってて……」
「そいつはアレだな。テレビの後ろで笑ったり拍手したりしてる役だ」
「……テレビ?そんな専門職あるんですか?」
カララン、と扉の鈴が鳴った。
「どうもー! サクラ・ヒュウガ、三十路目前の崖っぷち芸人でーす!」
「お名前……って、本名じゃないですよね?」
「芸名です芸名。舞台の名前が自分の名前、ってことで」
サクラと名乗った男は、明るく、話しやすく、空気が読めすぎるタイプ。
でも、そのテンションの裏に、どこか“焦り”が見えた。
「最近……どうなんですか?」
「いやーもうさっぱり。“笑い”ってやつが、どうもウケない。ボケても滑るし、ネタも古いって言われて……」
「……でも、笑顔のタイミングとか、空気読むのうまいですよね」
「それはまあ、“ガヤ”で10年磨きましたから!」
「10年……!」
「拍手・驚き・笑い・共感のバリエーション、全部任せてください!」
「それって、舞台に立つ芸人としては……?」
「……うーん、もう立てないかな、とは思ってます。でも、なんかこう、“盛り上げる側”で居場所があるなら、続けたいって気持ちもあって」
「ふむ……」
ゴルザンは資料棚から、とある企業イベント資料を取り出した。
「なあ、サクラ。ここで“笑う”仕事、してみねぇか?」
「……へ?」
「新商品のプロモーションイベント。観客を“自然に盛り上げるプロ”が必要なんだとよ」
「それって……つまり……俺が“サクラ”ってことですか?」
「名前に偽りなし、ってな」
「……あっははは、うわ、それめっちゃキレイなオチじゃないですか!」
──数日後。
「採用、決まりました!」
ミーナが報告書を掲げて嬉しそうに笑う。
「“自然な盛り上げで場が明るくなる”“会場の一体感が増した”って大絶賛です!」
「ま、そういう奴なんだよ。ボケるより、ツッコミより、“そこに居るだけで場が整う”ってタイプ」
「ちょっと前まで、“俺なんもできない”って言ってましたけど……」
「自分を作ってくれた“周りの期待”に、乗っかってみるのも悪くねぇって話さ」
「……なんだかんだ、サクラさんって、咲いてましたね」
「花は、咲く場所を選ばねぇんだよ」




