第三十七話 大都会
「最近、駅馬車一つ分くらい歩いてるんです! 健康のために」
「お前、それ“都会の健康法”な。田舎で言ったら村ふたつ超える距離だぞ」
「えっ!? うちの区画だと馬車一駅で商店街までですけど……?」
「──来たな、“距離感の壁”」
カララン、と扉の鈴が鳴った。
「失礼します、……トモル=ハシュと申します」
扉から入ってきた青年は小柄で、少しおどおどしている。
薄茶の髪に粗末な旅服、そして手には、革で綴じられた小さなノートを持っていた。
「ではご希望の職種をお聞きしても?」
「えっと……何か、こっちでできる仕事があれば……」
「……もしかして、遠方からいらっしゃいましたか?」
「はい。隣の隣の、さらに隣の村から、馬車で十五日……」
「思った以上に田舎だった!」
ミーナの驚きに、ゴルザンがくっと笑う。
「こっちに来たのは、就職のためか?」
「はい。家を出て、自分の力でやってみたいと思って……。でも、何もかも初めてで……」
「都会の空気、重いか?」
「……ちょっと、眩しくて」
言葉少なだが、誠実な目をしている。
「じゃあ、まずは“都会に慣れるための第一歩”から始めようか」
「はい……?」
ゴルザンは、懐から一枚の紹介状を取り出した。
「測量士って知ってるか? 地図を作る仕事だ。大都市の構造を、歩いて・見て・記録していく。意外と、向いてるんじゃねぇか?」
「……地図、好きです。家に古い地図、たくさんあって……眺めてるだけで、旅してる気分に……」
「じゃあ決まりだな。まずは“歩く”ことから始めようぜ」
──数日後。
「報告です!トモルさん、測量局の下部チームに採用されました!」
「おお、早かったな」
「“一歩一歩の歩幅が正確”“記録がていねいで参考になる”って、すごく好評です!」
「いいじゃねえか。馬車じゃわからない路地裏も、歩けば見える──ってやつだ」
「ちなみに、“街が怖くなくなった気がする”って、本人も言ってましたよ」
「そりゃあ……“この街を、自分が測ってる”って実感は、強い味方になるだろ」
「測るって、見るって、案外大事なんですね……」
「だろ? 人生ってやつも、一歩ずつ測ってくもんさ」
「……でもこの街って王都から見たら、結構田舎なほうでは?」
「そういうオチはいーの、ミーナちゃん」




