第三十三話 素敵なメイクの方法
「ゴルザンさんって、お肌、意外ときれいですよね」
「朝っぱらから何の地雷を踏みにきたんだお前は」
「いやほら、男性のわりに肌荒れが少ないというか……」
「それ“わりに”って言葉が引っかかるんだが」
ミーナの無邪気な観察に、ゴルザンが軽くため息をついたその時──
カララン、と扉の鈴が鳴った。
「失礼します。面談を予約していた、ジュリオ=フェルマーです」
現れたのは、しっとりとした雰囲気をまとった青年。
肌は透き通るように白く、目元には淡いグリーンのシャドウが控えめに乗せられていた。
「よろしくお願いします……あの、仕事の相談で来ました」
「えっと……ご希望の職種は?」
「メイクアップアーティスト、なのですが……」
「なるほど、では講習会などの活動を……」
「いえ、まだ活動はしていません。これまでは、趣味で独学です」
ジュリオは少し目を伏せ、鞄からスケッチとメイクのポートフォリオを取り出す。
ミーナがそれを手に取り、思わず声を上げた。
「すごい……このハイライトの入り方、まるで光を操ってるみたい……!」
「ありがとうございます。でも……男性のメイクって、やっぱりまだ、偏見が多くて……」
「いや、これ、普通にプロ級ですよ」
ミーナが興奮ぎみに頷いた瞬間、後ろでゴルザンが静かに口を開いた。
「お前、これ軍で使えんぞ」
「……え?」
「軍の訓練、特に偵察部門じゃ、迷彩や保護色を施すメイク技術が重要だ。専任講師がいるぐらいでな」
「め、迷彩……」
「高いところは暗く、低いところは明るく。肌の凹凸と光の扱いは、実は迷彩と同じ理屈なんだよ」
ミーナがポンと手を叩く。
「なるほど! ジュリオさんの技術、完璧に活かせますね!」
「……そんなところがあるんですね。自分が認められる場があるなんて……」
「あるさ。変わり者扱いされるのは、才能の入口みたいなもんだ」
──数日後。
ジュリオは軍事訓練校の迷彩メイク講師として採用され、
その技術と丁寧な指導が話題を呼び、やがて民間の講習にも招かれるようになった。
「“素敵なメイク”って、ただ飾るだけじゃないんですね」
報告書を読みながらミーナがぽつりと呟く。
「だな。相手の役に立つって視点で、才能は化ける」
「……あの、ゴルザンさん。私にもメイク教えてくれません?」
「いや俺、すっぴんで褒められた経験しかねぇんだけど」
「それ、さっき私が言ったやつですよね!?」
この仕事がきっかけで、ジュリオがのちに有名となることを2人はまだ知らない。




