第二十六話 回り道の先で
「就職って、何を基準に決めればいいんでしょうね」
カウンター席に座った青年は、どこか掴みどころのない雰囲気を漂わせていた。
「自己分析って、やったことありますか?」
ミーナが資料を手にしながら問うと、青年は困ったように笑った。
「むしろ、分析しすぎてわからなくなったタイプです」
「職歴、たくさんありますね……」
「はい。飲食店のキッチン、貴族商会の事務、魔導書庫の清掃係、警備の見回り補佐、雑貨店の棚卸し、郵便仕分け……他にもいろいろ」
「け、結構多いですね……」
「どれも短期だったんです。紹介や臨時で。いつの間にか年齢だけが増えて、履歴書も埋まっていって」
青年──名をレネ=フリューゲルと言った。
やりたいことがわからず、“できること”を選び続けてきた。
でも、どれも“好きな仕事”ではなかった。
「面接で聞かれるんですよ。“どうして短期が多いんですか”って。
そのたびに、“すみません”って答えるしかなくて」
「そんなの、ちゃんと働いてたって証拠じゃないですか!」
ミーナが思わず口を挟んだ。
「……でも、採る側はそう見ないですから」
レネの苦笑に、ミーナが黙り込む。
代わりに、ゴルザンが書類に目を通しながらぽつりと呟いた。
「お前、いろんな職場、いろんな人、見てきたんだろ」
「はい。良い人もいたし、変な人もいました。職場の雰囲気も、バラバラで」
「だったら、その経験そのものが“武器”だろ」
「……武器?」
「今ちょうど、隣町のギルドで中途求人紹介をする部署が、新人募集してる。
“いろんな仕事を見てきた目線”で、求職者と求人をつなげられるやつを探してるらしい」
「え、それって──」
「お前みたいな、“いろんな現場を知ってるやつ”には、うってつけじゃねぇか」
レネは目を丸くした。
「そんな風に、見られたの初めてです」
「“回り道”が、全部ムダだったわけじゃないさ」
ミーナも笑顔で頷いた。
「だって、私も最初は“配属ガチャ外れた”って思ってましたから」
「えっ」
「うっかり言いました! でも、今はこの仕事が好きですよ!」
──数日後。
レネ=フリューゲルは、ギルド中途紹介課での採用が決まり、
新たな“案内役”として働き始めた。
はじめての“正規採用”。
渡された名札には、しっかりとした字で彼の名前が刻まれていた。




