第十四話 騙し騙される人生だった
「最近、お客さんの“当たり外れ”が激しくないですか?」
ミーナがカウンターの裏でお茶をいれながら、ぼやいた。
「いやいや、失礼だな。人にはみんな輝ける場所ってもんがあるんだよ」
「でも、“墓地で光る人”とか、“導かれし者”とか、“漆黒の堕天使”とか、明らかに尖りすぎじゃないですか」
「逆に普通の依頼人が来たら、こっちが構えちゃうんだよな……」
カララン──と鈴の音が鳴った。
「あ、いらっしゃいませ! ギルド登録でしょうか?」
「はい。ご対応、よろしくお願いします」
扉の奥から現れたのは、清潔感のある身なりに、爽やかな笑顔。
スーツ風の軽装にまとめられた服装は、どこか**“真面目な好青年”**という印象を与える。
「レン=アウベルと申します。希望職種は、対人支援・案内業務です」
「はい、承知しました。ではこちらの面談票をご記入くださいね」
──受け答えは完璧。
話すスピードも声のトーンも心地よく、言葉選びに無駄がない。
ミーナは、まるで「企業の広報担当と話している」ような気分になった。
「こちら……履歴の方に、少し空白期間がありますが──」
「ああ、はい。“自分探し”の旅に出ていまして。
生活を見つめ直す時間、必要だったんですよね。気持ちの整理、っていうか……心のリセット?」
「……なるほど。今はもう、ご体調などは?」
「ええ、おかげさまで。人生の地図って、歩いてみないと描けませんから」
「……なんか、すごく、前向きですね……!」
後ろのカウンターから、ゴルザンが書類を横目で見つつ、マグを置いた。
カタン。
「おーいミーナちょっとこっち来い。……その履歴票──違和感、感じないか?」
「え、どこがですか? すごく丁寧で、むしろ久しぶりにちゃんとした方というか……」
「──あまりに整いすぎてる。
受け答えも、話す順番も、まるで“練習された会話”みたいに流れるだろ?」
ミーナが眉をひそめて振り返る。
レンは、こちらを見ながら微笑んでいた。
「……いやいや、まさか。そんな人、いるわけないですよね」
レンの笑顔は、とても穏やかで、何もかも包み隠さないように──見えた。
***
「……なるほど。話し方や雰囲気から、接客業はお得意なんですね」
ミーナが、改めてレンと向き合いながら書類を確認していた。
「いえ、得意というほどでは。ただ、話すのは好きですし──誰かの役に立つなら、と思いまして」
「前職は、こういった業務とは……?」
「ええ、少し違う分野でした。個人対応が中心で、組織に属するのは久しぶりですね」
言葉には曖昧さが残る。
だが、ミーナは不思議とその答えに安心を覚えてしまう。
“それ以上を聞いてはいけない空気”が、そこにはあった。
「対人支援の依頼が出ているギルドがあるんです。
観光案内や市民向けの相談窓口で、人と接する機会の多い仕事です」
「……ああ、ありがとうございます。そういった仕事、してみたかったんです」
レンの笑顔は、少しだけ柔らかくなったように見えた。
それはまるで──
「次こそは、ちゃんとやり直したい」と、そう言っているかのような。
***
レンが出て行ったあと。
ミーナは机に肘をついて、小さく頷いていた。
「……なんだか、ホッとしました。ああいう人、もっと評価されてもいいのにって」
その言葉に、ゴルザンはしばらく黙っていた。
マグに残った冷めた茶を見下ろしながら、ぽつりと呟く。
「──あいつ、多分、元詐欺師だな」
「……えっ!?」
「昔からいるんだよ。“口がうまい奴”ってのはな。
受け答えも完璧、履歴の言い回しも無駄がない。……でも、“嘘”はついてねえ。
“都合のいい真実”だけを並べてる。……そういう話し方だ」
「でも……それなら……」
ミーナが戸惑いの声を上げる。
「ま、罪を償ってるなら問題ない。
履歴の空白期間も、ちゃんと“償ってた時間”に見えるしな。……今は、まともに生きようとしてる」
ゴルザンは、もう一度マグを傾けた。
「やり直しは、いつからだってできる。
……ただ、“やり直そうとしてる人間”に、俺たちがどう接するか──それが、問われるって話さ」
ミーナは、その言葉を飲み込むように、ゆっくりと頷いた。
彼の“笑顔”は、どこかぎこちなかった。
でもきっと、それは“嘘”ではなく、
“自分を騙して生きてきた人間が、やっと本音で笑った”証だったのかもしれない。




