第十二話 私ってギャグ担当なんですか?
「……なんか今日、めっっっちゃくちゃ静かじゃないですか?」
ミーナがカウンターの下からぬっと顔を出した。
「静かすぎて、逆に不安になってきましたよ。嵐の前の静けさ的な……」
「お前、この前の“嵐の中から舞い降りた堕天使”の後遺症だな」
「いやだって、思い出し笑いしちゃうじゃないですか。あの人、真剣に“墓地こそ舞台”とか言ってましたよ?」
「まぁ、でも結果出してるからな。ターンアンデッドで迷宮の霊圧全部消した男だぞ。今や業界内じゃ“アンデッドキラーくん”って呼ばれてる」
「愛称が小学生みたいなんですけど!?」
「というか、あれ以降応募者の質も変わってきた気がするんだよな……」
カララン、と扉の鈴が鳴った。
「──失礼します。登録をお願いしたいのですが」
入ってきたのは、黒髪短髪・シュッとした整った服装の男性。
姿勢はよく、所作も丁寧。声も落ち着いていて、明らかに“仕事できそう”感があった。
「ミーナ=ルクトリアです。こちらへどうぞ。お名前をお伺いしても?」
「マルク=バルジーンと申します。戦術系職種での斡旋を希望しています」
「承知しました。では、実績とご希望を──」
……ふと、横を見ると、ゴルザンが書類を見ながら肩を震わせていた。
「……ねえ、何か面白いこと書いてあります?」
「いや……履歴の詳細、読んでみ?」
ミーナが視線を落とす。
・護衛任務中、“明らかに場違いな冗談”で緊張を和らげたことで部隊の士気が回復
・交渉任務にて、相手方との会話が膠着状態に陥った際、なぜかその発言で爆笑が起こり交渉成立
・個別任務におけるレポートの文末コメントが“語呂と韻を踏んでいて毎回楽しい”と現場評判あり
「……これ、“戦術職”希望なんですよね?」
「……希望職の方がジョークだな」
マルクがキョトンとした顔で言う。
「いや、私は至って真面目です。“参謀志望”です。ギャグじゃありません」
「やっぱ面白れぇな、こいつ」
「本人は真剣なのが逆に笑っちゃいますってば!!」
ミーナが記録票を見ながら、恐る恐る尋ねた。
「……これまで何度も“現場の空気を変えてくれた”って書かれてるんですけど、なにか特別な意識はされてましたか?」
「特には……。ただ、少しでも場の緊張が緩和されるなら、と考えて。
冷静な判断を保つためにも、“適度な間”と“緩やかな和”を取る必要がありますから」
「……うん、やっぱ本人だけは、ガチだな」
「どうしてそこで韻を踏むんですか!?」
「えっ、踏んでました?」
どうやら本当に、悪気も、ウケ狙いも、まったくないらしい。
むしろ本人は“参謀志望として正しくふるまっている”と信じて疑っていない。
「それで……実際の志望職は“戦術立案・作戦指導”?」
「はい。現場分析、展開予測、必要とされるものは把握してきました。
過去の任務では、予定通りに……いや、予定以上の成果を出しているかと」
「……その成果は、ギャグで出てますけどね」
ミーナとゴルザンがちらと顔を見合わせた。
そして、ゴルザンがふっと息をついて口を開いた。
「なあ、マルク。お前、“伝える力”は抜群にある。しかも場の空気を読む力も、人のテンポに合わせる技術も、自然にやってる」
「……? はあ」
「劇場付きの広域イベントギルドが、今ちょうど“司会進行と現場調整の両方をできる人”を探してる。
お前みたいな“ギャグ参謀”──じゃなかった、“流れの読める戦略補佐”にはうってつけだ」
「…………」
マルクは、口を開きかけて──閉じた。
しばらくの沈黙のあと、ふっと肩の力が抜ける。
「……なんか、そう言われるの、初めてです。
みんな、“こいつは面白いから使える”とは言っても、“その面白さが強み”だとは誰も──」
「言語化、されてなかったんですね」
ミーナが静かに微笑んだ。
「……ええ。もしかしたら、初めて“キャラ”を肯定されたのかもしれません」
***
依頼人が帰ったあと、ふたりはカウンターに戻ってほっと一息。
ミーナが、ぽつりと呟いた。
「……なんだか、“自分が思ってる自分”と、“周りに求められてる自分”って、全然違うんですね」
「そうだな。けど、周りが“お前のキャラ”を作ってくれてるって思えば、悪くないだろ?」
「……キャラメイクって、他力本願なんですね」
「それが意外と、最適解なんだよ」
ギルドの扉が静かに揺れる。
“参謀ギャグ担当”の新しい道が、そっと開かれていった。




