表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/62

第十二話 私ってギャグ担当なんですか?

「……なんか今日、めっっっちゃくちゃ静かじゃないですか?」


 


ミーナがカウンターの下からぬっと顔を出した。


 


「静かすぎて、逆に不安になってきましたよ。嵐の前の静けさ的な……」


 


「お前、この前の“嵐の中から舞い降りた堕天使”の後遺症だな」


 


「いやだって、思い出し笑いしちゃうじゃないですか。あの人、真剣に“墓地こそ舞台”とか言ってましたよ?」


 


「まぁ、でも結果出してるからな。ターンアンデッドで迷宮の霊圧全部消した男だぞ。今や業界内じゃ“アンデッドキラーくん”って呼ばれてる」


 


「愛称が小学生みたいなんですけど!?」


 


「というか、あれ以降応募者の質も変わってきた気がするんだよな……」


 


 


カララン、と扉の鈴が鳴った。


 


「──失礼します。登録をお願いしたいのですが」


 


入ってきたのは、黒髪短髪・シュッとした整った服装の男性。

姿勢はよく、所作も丁寧。声も落ち着いていて、明らかに“仕事できそう”感があった。


 


「ミーナ=ルクトリアです。こちらへどうぞ。お名前をお伺いしても?」


 


「マルク=バルジーンと申します。戦術系職種での斡旋を希望しています」


 


「承知しました。では、実績とご希望を──」


 


 


……ふと、横を見ると、ゴルザンが書類を見ながら肩を震わせていた。


 


「……ねえ、何か面白いこと書いてあります?」


 


「いや……履歴の詳細、読んでみ?」


 


 


ミーナが視線を落とす。


 


・護衛任務中、“明らかに場違いな冗談”で緊張を和らげたことで部隊の士気が回復

・交渉任務にて、相手方との会話が膠着状態に陥った際、なぜかその発言で爆笑が起こり交渉成立

・個別任務におけるレポートの文末コメントが“語呂と韻を踏んでいて毎回楽しい”と現場評判あり


 


「……これ、“戦術職”希望なんですよね?」


 


「……希望職の方がジョークだな」


 


 


マルクがキョトンとした顔で言う。


 


「いや、私は至って真面目です。“参謀志望”です。ギャグじゃありません」


 


「やっぱ面白れぇな、こいつ」


 


「本人は真剣なのが逆に笑っちゃいますってば!!」




ミーナが記録票を見ながら、恐る恐る尋ねた。




「……これまで何度も“現場の空気を変えてくれた”って書かれてるんですけど、なにか特別な意識はされてましたか?」


 


「特には……。ただ、少しでも場の緊張が緩和されるなら、と考えて。

冷静な判断を保つためにも、“適度な間”と“緩やかな和”を取る必要がありますから」

 


「……うん、やっぱ本人だけは、ガチだな」


 


「どうしてそこで韻を踏むんですか!?」


 


「えっ、踏んでました?」


 


 


どうやら本当に、悪気も、ウケ狙いも、まったくないらしい。

むしろ本人は“参謀志望として正しくふるまっている”と信じて疑っていない。


 


「それで……実際の志望職は“戦術立案・作戦指導”?」


 


「はい。現場分析、展開予測、必要とされるものは把握してきました。

過去の任務では、予定通りに……いや、予定以上の成果を出しているかと」


 


「……その成果は、ギャグで出てますけどね」


 


 


ミーナとゴルザンがちらと顔を見合わせた。


 


そして、ゴルザンがふっと息をついて口を開いた。


 


「なあ、マルク。お前、“伝える力”は抜群にある。しかも場の空気を読む力も、人のテンポに合わせる技術も、自然にやってる」


 


「……? はあ」


 


「劇場付きの広域イベントギルドが、今ちょうど“司会進行と現場調整の両方をできる人”を探してる。

お前みたいな“ギャグ参謀”──じゃなかった、“流れの読める戦略補佐”にはうってつけだ」


 


「…………」


 


マルクは、口を開きかけて──閉じた。


 


しばらくの沈黙のあと、ふっと肩の力が抜ける。


 


「……なんか、そう言われるの、初めてです。

みんな、“こいつは面白いから使える”とは言っても、“その面白さが強み”だとは誰も──」


 


「言語化、されてなかったんですね」


 


ミーナが静かに微笑んだ。


 


「……ええ。もしかしたら、初めて“キャラ”を肯定されたのかもしれません」


 


 


***


 


 


依頼人が帰ったあと、ふたりはカウンターに戻ってほっと一息。


 


ミーナが、ぽつりと呟いた。


 


「……なんだか、“自分が思ってる自分”と、“周りに求められてる自分”って、全然違うんですね」


 


「そうだな。けど、周りが“お前のキャラ”を作ってくれてるって思えば、悪くないだろ?」


 


「……キャラメイクって、他力本願なんですね」


 


「それが意外と、最適解なんだよ」


 


 


ギルドの扉が静かに揺れる。

“参謀ギャグ担当”の新しい道が、そっと開かれていった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ