細胞分裂 その②
「な、なぜ生きているッ...!俺は完璧にこいつをぶっ潰したはずだッ!!」
「こいつ...?何言ってんだてめえ。お前が今ぶっ潰したのは、その空き缶だろうが」
「なにッ!?!?」
ベータが潰したものを確認する。それは紛れもない、ジョノバンが蹴飛ばしたあのコーヒーの空き缶だった。
「お...俺はカエルを潰したはずだ...ありえない...そ、それにカエルの体液だって空中に...!」
「体液だァ?お前、目まで間抜けだったとは思わなかったぜ。飛び散った液体の色、見てなかったのか?」
「...はッ!?あ、あれは...まさか...!!」
「ご名答。あれはこのコーヒーの残りカスだ」
俺はベータに近づき自分の腕を見せる。
「それによく見てみろ。俺の腕、今どうなってる?」
俺の腕はやつに裏返しにされて腐りかけのカラスの死体みたいになっているはずだった。
「...元に、戻ってやがる...」
「ああ、そうだ。よくできました」
「あんたの能力の効果が切れたんだ。ずばり能力を当ててやろう」
「あんたの能力。それは相手をコピーする力だ」
俺はベータに指をさし真実を突きつける。
「ば、ばかなッ...!なぜ...俺の力をッ...!」
「どうやら、当たりのようだな」
「はあ...やれやれだぜ...ここまであんたが間抜けだとは思わなかったぜ」
「グッ...ググウ...」
ベータが項垂れている。よほど自分の力に自信があったのだろう。...こういうタイプが1番ボロをだしやすい。
「そろそろお喋りも終わりにしたいところだな」
俺は地面にしゃがみ込んでいるベータに近づき、スタンドを出す。
「これでお前もお終い...!?」
「クッフッフ...」
...!?な、なんだこの妙な空気は!まるでテスト中に答えが当っているのに間違っているようなこの感覚はッ!!
「俺はこの時を待っていた...」
「!?」
「貴様がスタンドを出すこの瞬間をなッ!」
「ウシャァァァァァァ!!」
「ナニィィィィイッ!!」
ドゴォッ!
「ウゲェッ!」
ジョノバンが殴られ、奥の壁に突っ込む。
「クッ...カァッ!!」
お、俺がやつに近づいた途端、やつのスタンドが殴ってきやがった...!しかも、この感じは!!!
「お前のスタンドと記憶をコピーした」
「!?...て、てめえ...」
「ウシャア!」
「グワァッ!」
やつがさらに俺のことを殴る。ま、まさか自分のスタンドに...殴られるなんて...
「お前のスタンド、良いパワーを持ってるなぁ。いいなぁ、羨ましいなぁ...!!」
ベータが先程までとは別人のように話している。
そうか、記憶をコピーすると人格も変わるのか...
そうこうしているうちにベータが近づいてくる。
ま、まずい!防御しなくては!!
「パスカルッ!!」
俺はスタンドを出そうとした。だが、でてこない。いや、出ている感じはしているのだが、この場所にはいない。
「!?...な、なぜでないんだッ!」
「...はあ、そろそろ疲れてきたな...」
「ど、どういう...ことだ?」
今一瞬でやつの雰囲気が変わりやがったッ!
「せっかくだから教えてやるよ。俺のスタンドの真の能力」
「真の...能力...?」
まだ隠された力があるっていうのか...?
「俺の、真の能力は」
「相手の力を奪う能力だ」
な、なんだ...って?
「あ...相手の力を...奪う...だと...!?」
「だからこうしてお前のスタンドを奪えている」
やつがパスカルを出す。まさか、俺のスタンドが...
「それに貴様の思い違いを直してやろう」
「俺の...思い違い?」
「お前、俺が記憶を奪ったら人格が変わると思っているだろう」
「俺の力はあくまで相手の『力』を奪うってだけだ。だから記憶はコピーするだけになる」
「コピー...するだけ...」
「自分の記憶の上に印刷する。これが記憶のコピーだ。だから人格が変わるなんてこたあ絶対にありえない」
「そ、それじゃあ...さっきまでのは...全て俺を騙す...ための...」
「ああ、嘘だ」
こ、こいつは強え!思っている以上にッ!
「それと、もう一つの嘘も教えてやろう」
「もう一つの、嘘...だって?」
「俺の名はベータではない」
「ベータじゃ...ない...?」
「スタンド名もだ」
「...これも、俺を騙すためか」
完敗だ。どうやっても勝てねえ...
「さあ、そろそろ終わらせよう。もう貴様に勝ち目はない」
「最後に本当の土産に俺の名を聞かせてやろう。これからお前を殺す者の名前だ」
名前...か...
「俺の名は、タニ神。スタンド名、タニシACT1」
「あの世で閻魔様にでも話してやるんだな」
スタンドを奪われて死ぬのか...なんとも無様な死に方だな...
「タニシACT1!」
「ウシャァァァ!!」
やつのスタンドが俺の首を掻っ切りにくる。ああ、俺の人生...もっとよくできたのかな...
俺は死ぬ覚悟を決めた。その瞬間。
「タケェッ!」
「なッ...!俺の...腕が...」
キュウオォォォン
な、なにが起きた!?今やつの腕が...目の前で消えやがった!
「...よかった。間に合いましたか」
「大丈夫ですか!」
俺の元に1人が駆け寄ってきて肩を貸してくれた。
「...貴様、生きていたのか」
「ええ、ジョノバンさんのおかげでなんとか助かりました」
なんだ..?こ、こいつも俺の名前を...
「ジョノバンさん。あとは僕たちに任せてください」
肩を貸してくれたやつが俺を安全なところに置いてくれた。
「顕微鏡で覗く世界、今夜は宝石のようなボルボックス」
「...フン」
「あなた、私のスタンドで散々暴れてくれたようですね。それでしたらあなたもボルボックスのように裏返してやりましょう。文字通り裏返しにね」
「タケオ先生!僕も助太刀しますッ!」
「ウオダチ先生、ありがとうございます。それでは参りましょうか」
な、なんだこいつらは...まるで鍵をかけ忘れていたと思ったらきちんとかけていたときのような安心感がある...これなら、行けるかもしれねえ!
「覚悟は、お有りですか?」
←To be continued