暗黒銀河の悪の大帝が悪役令嬢になって宇宙警察転生王子に断罪される話
暗黒銀河と呼ばれた場所があった。
広大な宇宙の一角。
闇より生まれいでし我は、光り輝く星々を制し、そこの生きる者どもを支配した。悪の五十王を配下に置き歯向かうものは容赦せず滅ぼしあらゆる星を手に入れた。
あと少し。
あと一歩。
銀河の端にあったあの青い星を征服すれば、我が願いは果たせた。
銀河統一。
その夢が叶う直前で、奴が来たのだ。
大銀河宇宙警察。
その新鋭で勇者騎士ともてはやされるあの者が。
よもや、あのような者に遅れをとるとは思いもよらなかった。あれよあれよと言う間に追い詰められ、我は撤退を余儀なくされ…………
気がついたら、女の赤子になっていた。
そこはどことも知れぬ星の、小さな国であった。
「エルドリーネ、先生方がいらっしゃいましたよ」
「……はい、お母さま」
生まれ変わって十年も経つと、状況も把握できていた。
ここはコルゴーン王国と言う山間の小国。いくつかの鉱山を持つが、山間にあることで近隣国に脅かされることもなく長閑で平穏、退屈極まりない国であった。
その国で王族に次ぐ地位を持つ公爵家の令嬢。それが今の我だ。
なぜこうなった。
わけがわからん。
「素晴らしいですわ、姫様にはもう教えることがございません」
「我々も、むしろ教えを乞いたいほどに優秀なお嬢様です」
公爵家の華やかで豪華な部屋に、数人の教師が集う。
読み書き計算、歴史に地理に文学に化学、詩に音楽、果ては武術の教師まで諸手を挙げて我を絶賛する。
忌々しい。
我とて、このような姿となって大人しく座していたわけではない。今の状況からの脱出も試みて見たが、この命がある限りこの星からは出られないと悟った。だが、命を捨てるのは悪手とも気がついた。生まれ持った天寿を全うしなければ星の中だけで巡る輪廻に囚われて生まれ変わりを余儀なくされるだけだということも知ったから。
我は今、この星に囚われている。
脱出するために知識を求め、生き抜くために体を鍛え研鑽を積んだ。人間という身では、なかなかうまくはいかないのだが。
「それに、エルドリーネ様の美しさときたら。将来が楽しみでなりません」
「金の髪に深緑の瞳もさながら、その佇まいは誰もが平伏したくなるような荘厳ささえ感じますわ」
当然だ。
誰もが畏怖する暗黒銀河の悪の大帝。それが我ぞ。
それが今は、形あるものに押し込められた不自由な身。
本来の我は無形の存在。宇宙に漂う暗黒の力を糧とし、絶大な力を奮っていたのに……嘆かわしい。
「そうそう、聞きましたぞ。お嬢様はグランテウス王子とのご婚約がお決まりになったとか」
「まあ、素晴らしい。グランテウス王子もまた優秀でお美しいお方。コルゴーン王国は安泰ですわ」
人の世では、王子との婚姻は晴れがましく喜ばしいものらしい。
くだらない。
くだらないが……
どうせこの生を全うせねばならぬなら、地位と権力を得てこの星を支配するのはどうだろう。たかが百年にも満たない時間の暇つぶしだ。
うむ、それもよかろう。
私が母や先生方に微笑むと、皆が「ほう」と息をついて見惚れていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
そうして、五年の月日が流れた。
我はすでに学ぶものなどないというのに、国の運営する学園とやらに通わされている。貴族と一部、優秀な平民が通う場所だ。
王子とともにそこに通い、未来の王妃として臣下を育て平民の声に耳を傾け、より良い国を作るための研鑽を積めと。
なるほど。
そこで私は幾人かの臣下を得ることに成功した。
それぞれの能力を見極め、それを発揮できる役目を与え、将来の地位を約束してやれば簡単にかしずいた。
かつて悪の五十王を支配した日々を思い出す。
やはり手駒は五十人くらいは欲しいところだ。
「エルドリーネ、探したよ」
学園の花咲き誇る庭園のベンチで古き良き日を思い描いていると、婚約者殿がやって来た。
朗らかに手を振り、少し抜けた顔をしている。
黒髪に金の瞳、人の基準では美しい王子だそうだ。
だが、中身はポヤポヤだ。
「どうしました? グランテウス様」
「うん、僕らも今年で卒業だろ? その前に、少しでもこの学園を良くしたいんだ。この企画書を見て欲しい」
またか。
このポヤポヤ王子は底抜けにお人好しで正義感が強い。
王子のくせに町に出向いては、困っている人を助けたり悪事を働くものを取り締まったりしているのだ。自身が動くことではなかろうに。
今見せられた書類もそうだ。
平民の奨学生を増やし、市井の者たちにも学びの場を増やしたいと。さらには、幼い子供たちにも学ぶ機会を与えてあげたいと。
「却下です」
「ええっ!?」
「以前も申したでしょう? この国の民は幼子ですら働き手として必要とされるのが現状。無理をすれば民に恨みを買うだけです。奨学生を増やす件もです。必要な資金をどこから捻出しますか?」
「……そうか。まずは国を富ませねばならんか。なかなか難しいな」
何気にベンチに腰掛け私の隣で天を仰ぐポヤポヤ王子。
そんな我らを見て、学園の生徒たちは小さく声を上げた。
「まあ、見てみて、素敵」
「グランテウス様とエルドリーネ様ね。お二人が並ぶとなんと華やかな」
「心優しい王子と聡明な令嬢か。お二人が王位に着く頃には、我々も努力して国を盛り立てていかねばな」
聞こえてくる称賛の声。
「ふん、愚かな。平民に学びなど必要ない」
「平民と馴れ合うような王子が国王にふさわしいとでも?」
「あのお方の取り巻きは地位の低いものばかりだ。王位についたとて、貴族が支持しなければ成り立たんというのに」
囁かれる侮蔑の声。
「だが、公爵令嬢は話がわかるお人だ。いずれは……」
くくくと笑ったのは私の取り巻きの一人だ。
言葉の先を続けずとも、王子に悪意あるものは都合よく解釈し溜飲を下げる。その上で私の支持者になってくれる。
今のところはそれで良い。
この王子は、王位についても世界征服には乗り出さんだろうしな。
王子に悪意を持つものを飼い慣らしておいて、タイミングを見計らって王子を襲わせるも良し。王子に奴らを処罰させ、手を汚させることで次の段階に進みやすいよう地ならしに使うでも良し。
それに、あのような矮小なものでも邪念を纏う黒の波動は心地いい。
などと、先々について思案していたら突然王子がニコッと笑った。
「今日はいい天気だね。お日様が心地いいよ」
「……そう、ですわね」
空を見上げれば恒星が光と熱を発している。
この、人の体はそれを確かに心地いいと感じている。
「花も綺麗だ。それに、エドルリーネはもっと綺麗だ」
えへへと笑う、グランテウス。
こやつは婚約した幼い頃から、そんなことをよく口にした。
その度に、少しばかり動揺するのはなぜであろう。
こやつの隣で日にあたり、おかしなことを言われる日々は、悪くないとも思っている。たかだか百年にも満たない時間、寄り添うだけの相手なのにな。
できるだけ、こやつは生かす方向で世界征服を考えるか。
グランテウスを見つめつつ笑えば、真っ赤になって「うひゃ」と妙な声を出して顔を隠した。
おかしな奴だ。
だが、そんな日々は突然終わることになる。
その年、学園へ入学して来たある娘の手によって。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
その娘の名はポルペッタと言った。
変な名だ。
淡い栗色の髪の小柄な少女。
貧しい老夫婦に拾われた孤児だが、頭も良くて立ち居振る舞いもそれなりで学園の入学試験でトップの成績を取ったとも聞く。
出来過ぎだ。
怪しすぎる。
この国を取り巻く近隣国のスパイではないかと思われたが、公爵家の密偵や私個人の手のものを使って調べさせても埃の一つも出なかった。
だが、あの娘が初めてグランテウスに会った時、言った言葉が腑に落ちない。
「あなたに会うために、私は生まれてきたのです」
胸におかしな痛みが走った。
精神系の攻撃だろうか。
王子は最初訝しんでいたが、次第にその顔に笑みを浮かべるようになっていった。そして、少しづつ、私から距離を置くようにもなってしまった。
あの暖かな日差しが感じられなくなってしまった。
学園内で見かけても、声をかけてくることもない。
それだけでなく、見かけるたびにそのそばにはあの娘がいた。
「庶民派王子が聞いて呆れる。なんてことはない、初めから愛人を物色してたのさ」
「公爵令嬢はどうなさるのかしら。王子はまるで古馴染みのようにあの庶民と仲良く接しておられるのを見たわ」
「あの王子なら、気安い庶民のほうが気が楽だろうさ。あの子もなかなかかわいいし」
これ見よがしに聞こえる声は同情だけでなく、好奇と悪意を含んでいる。
好物であった邪気で胸が焼ける。
だが、それもまた我が糧に違いない。
この地に生まれで十六年。
少しづつかき集めた悪意の念は、この小さな国なら吹き飛ばせるほどになっていた。
もしも、あの日差しがなくなるのなら、この国を滅ぼしてその恨みと憎しみの念を集めて世界征服に乗り出すのも良いかもな……
そんなことまで考えていたある日のこと。
いつもの花咲き誇る庭園のベンチにいると、グランテウスがやって来た。
その斜め後ろにはポルペッタ。
二人揃って私を見る目に怒りの波動を感じた。
「エドルリーネ。君に、聞かねばならないことがある」
「お伺いしましょう」
果たして何を言い出すのか。
婚約破棄か。
それとも、庶民を虐めたなどという根も葉もない噂でも耳にしたのか。
「君はもしや、かつて暗黒銀河を蹂躙し支配した、悪の大帝ではないか?」
思わず目を見開いた。
二人を見ながら息が止まる。
なぜ……と?
「やはりそうでしたのね。私は大銀河宇宙警察特殊捜査員ポルー。行方がわからなくなっていた勇者騎士の捜索でこの地に降り、発見とともにあなたの正体にも気がつきました」
大銀河宇宙警察特殊捜査員。長い肩書を名乗る少女は私を睨みつつ小声でこぼす。
「まさか、勇者騎士が気がついてなかったなんて」
彼は知らなかった?
見れば、グランテウスは唇を噛んでいる。
そして私を睨み据えたまま指を差す。
「君がまさか、そんなやつだとは思わなかった。暗黒銀河の悪の大帝! この場で貴様を逮捕する!」
「はっ! ほざくな小童! 貴様に我が倒せるものか!」
返答すれば、奴はクシャリと顔を歪めた。
なぜ今更?
私はベンチから立ち上がると、軽く地を蹴り舞い上がる。
見上げる王子と花咲き誇る思い出の庭園を見下ろし、胸を抑える。
婚約は、当然破棄されたとみるべきだ。まさかこんなところで彼に断罪されようとは……
「勇者騎士よ! 早くあの宇宙犯罪者を捕らえるのです!」
空へ飛び上がった我を、呆然と見ていた勇者騎士。しかし、大銀河宇宙警察特殊捜査員にうながされ、ハッとして彼も地を蹴る。
飛び上がり、我をとらえるために追ってくる。
そうだった。
光の宇宙生命体は、恒星の光を糧としているのだったな。どうりで日向ぼっこが好きなはずだ。この地に生まれて十数年。そうしてためた力で我を追うか。だが、我とて無力ではない。
「はははっ、捕らえられるなら捕らえてみろ!」
たなびくドレスと風に散る金の髪。皆が褒めてくれたこの身から、黒い闇を放出する。彼の目から、我が身を隠すように取り巻いた闇は黒いドラゴンの形を成していった。
同時に空には暗雲が立ち込める。
「きゃあああああっ!」
「なんだあれは!?」
「あれは、あれは悪魔だ!」
地上で誰かが声を上げた。
なるほど、庭園は人払いされていたのか。学園の建物の窓から、あるいは通路や門前広場から、見上げる学生たちや教師が見えた。
「どこを見ている!? 貴様の相手はこの僕だ!」
追って来た彼が手を振り上げた。
と、同時に、学園の四方にそびえ立つ尖塔が揺れて、飛んだ。さらに、向こうに見える小高い丘の上に立つ王城からも光が飛び立つ。それは王城にあった初代国王の巨像だった。彼の体はそれと同化。同時に飛んで来た城の一部が、学園の尖塔と共に鎧のような形になって彼の周りに集まり、大きな音とともにひとつになる。
そういえば、大銀河宇宙警察には楽隊もいて、戦いになると士気を上げるためにとやって来て音楽を奏でていた。今ここに楽隊はいないが、まるでその演奏が聞こえるようだ。
心に響く、軽やかで勇ましい音楽とともに、かつての婚約者は武装する。
「王城合体! グラーンテウス!」
ジャキン、とホーズを決めて名を名乗る彼に見惚れてしまった。
石造りの巨人に変身した姿も、勇ましく美しい。いや、我は何を考えているのか。黒い竜が首を振り、咆哮をあげた。
何が王城か。半分は学園の建物ではないか。
人の目には一瞬の出来事。眼下の人間たちは空に現れた巨竜と巨人に慌てふためき逃げ惑う。
くく、と笑いがこみ上げる。
こんな中でも人は悪事を行うのか。逃げながら人を押し除け踏み倒す。置き去りにされた荷を盗む。何に対してかわからんが悪言暴言を喚き散らす。その黒き力が私の糧になるとも知らず。
黒い巨竜は翼を広げ、悪意の霧を撒き散らす。それは炎となってグランテウスに襲い掛かった。だが、いつの間にか握られていた光の剣がそれを切り裂き散らしてしまった。
彼は武術にも定評があった。
かっこいいではないか、婚約者殿。
そんな言葉を隠し、我は唸る。
「うぬぅ、ならばこれはどうだ!」
黒い巨竜は咆哮と共に口から黒い光を放った。黒いレーザービームのようなものだ。しかし、彼はその石造りの体に見合わないほどの速さでそれを避けた。そして距離をどんどん詰めてくる。
光の剣が目の前に迫る。
まずい、と思った瞬間。光の剣は消えて、大きな手が黒い竜の腹にめり込んだ。腹の中で放たれる光に黒い竜は絶叫のような音を立てて飛び散り消えた。
その巨大な手の中に、握り込まれている我。
捕まってしまった……
これで終わりと、あきらめかけた時。石の巨人から声が聞こえた。
「なぜ、攻撃の手を緩めた?」
なぜとは?
「かつての悪の大帝なら、街を破壊して人々から悪意の力を吸い上げただろう」
その声は、存外優しい。
それに答る我の声は、ただのエルドリーネになっていた。
「……思い出の庭園が、壊れるのが嫌だっただけですわ」
その途端、石の巨人は分裂した。元の尖塔や石像に戻ったそれらは、空を飛んで元の場所へと戻っていく。
空に浮かぶは我と……私と彼だけ。
巨人が消えたが、私はいまだ捕われていた。私を抱きしめる、彼の腕に。
「ああ、やっぱり君はエドルリーネだ。僕の優しいエドルリーネだ」
「何をおっしゃっているの? 私は暗黒銀河を統べる悪の大帝。あなたに追われて、この星に落ち延びた邪悪な存在」
「いいや違う。君は大帝である頃から本当は優しかった。暗黒銀河に満ちる悪意は君が吸い取り、支配下の五十王がそれを治めてあの銀河は一定の平和を保っていたんだ。知っているかい? 君がいなくなって、暗黒銀河はまた荒れ出したそうだ」
悪戯っぽく微笑みながら、そんなことを告げるグランテウス。私はぽかんと口を開けて見ているだけだ。
「五十王は君の指令を待って動かない。それをいいことに子悪党どもが暴れ出し、大銀河宇宙警察は困っているんだ」
「……なんてこと。もしや、それは私の仕業と思われているの?」
「ポルーはそう言っていた。でも違う。僕はそれを証言できる。君は自身の身が危うい戦いで、本気を出さなかった。君が本気になれば、この小国など簡単に滅ぼせただろう?」
「それは──」
「被害が出れば、悪感情が生まれて君の力になったはずだ。それを君はしなかった。いや、暗黒銀河でも、君は支配に必要な非道以外は行っていなかった」
僕は全て知っています、とばかりに微笑む彼から視線を外す。眩しすぎる。
「それで、あなたは私をどうしたいの?」
「もちろん、結婚してほしい。二人でこの国を守りつつ、愛と平和をこの星にもたらすんだ」
「何をおっしゃっているの? 私など妻にすれば、世界征服に乗り出してしまいますわよ?」
「それでいい。どのみち、近いうちに戦端は開かれた。隣国が我が国を狙っているのは知っているかい?」
「当然ですわ。山を越えて邪なる念が流れてきますもの」
隣国は平地に繋がった幾つもの国を併呑している最中で、この国にも目をつけていたことは知っている。スパイの疑惑を持ったのは大銀河宇宙警察特殊捜査員だけではない。
「他にも、民を虐げ苦しませている国は多々ある。君の采配でそれらをこの国の支配下に置いて、この星をかつての暗黒銀河のようにしたいんだ」
空を覆っていた暗雲が徐々に流され、日の光が彼を照らす。
「私にそれをさせてよろしいの?」
「この星が望んでいる。それゆえに、この星に君を閉じ込めた。ここは君が最後に手にしようとした、あの青い星だよ」
青空の向こうの星々が瞬いているのを感じた。
ここは私の暗黒銀河の端にある星。
この星さえ手に入れれば、あの銀河は全て私のものになる。
私は思わず笑ってしまった。
「ふふふ、あなたは、それでよろしいの?」
「もちろんだ。僕は愛と正義を志す大銀河宇宙警察の一員。その僕が心より惹かれた君が、本当の悪なはずがない」
光り輝く凄まじい傲慢。
それが私には心地いい。
「なるほど、私があなたに惹かれたわけがわかったわ」
「え? えっ!? エドルリーネは僕が好きだったの!? 親同士が決めた婚約じゃなくても!?」
「ええ。あなたのそばは心地いい。共に世界を制しましょう」
「ああ、共に世界を、星を、大宇宙を!」
誓いとともに、私たちは抱きしめあった。
そして、晴れ渡る空から地上に降りると歓声をもって迎えられた。
「悪魔にさらわれた公爵令嬢を、王子が取り戻した!」
「初代国王の像が飛んできたのを見たわ! 偉大なコルゴール王の御意志を引き継ぐ王子グランテウス様! 万歳!」
「悪竜すら欲した美しき姫君エドルリーネ様を取り戻し、国を守ってくださった!」
口々に、好き勝手な物語で騒ぎ立てるが、都合が良いので放っておく。正そうとしたグランテウスの袖を引っ張って微笑めば、彼はデレっと笑って私に従う。それを見た大銀河宇宙警察特殊捜査員は叫んだ。
「そんなっ! 我らが勇者騎士が悪の大帝に寝返った!?」
「違うなポルー、これは愛だ。運命の愛と言っても過言ではない。君もこれからはこの星の平和のために力を貸してくれ」
「はあっ!?」
「ふふ、あなたもこの星に転生したからには、寿命を全うせねば星の世界に帰れなくてよ?」
「そうなのか?」
「そうよ、あなたは気づいてなかったの? グランテウス」
おバカさん、と鼻の頭を突いてやったらやり返されてしまったわ。
「そっ、そんなぁぁぁ」
絶叫する大銀河宇宙警察特殊捜査員。いいえ、平民の特別奨学生ポルペッタ。
「ちゃんと保護者の老夫婦には孝行しなさいね」
「それはしますがっ、しますがっ! はうぅぅぅっ」
こうして、私、公爵令嬢エルドリーネは王子グランテウスと結ばれた。
断罪された時はこれまでかとあきらめかけたが、私の目の前には新たな野望が広がった。
まずはこの国を完全に掌握し、敵国が仕掛けるのを待って応戦する。彼の巨大ロボはきっと役に立つわ。
そして、いずれはこの星を全て我ものとし宇宙へ。
その時、暗黒銀河も晴れて私のものとなるだろう。
思いがけず手に入れた、光の王子とともに。