無職で引きこもりでどうしようもない僕
いつからはわからないけど。暗くてさむい部屋にいた。
ベッドと机と箪笥に本棚、それだけがある小さな部屋だった。
カーテンは閉め切っていて、外から聞こえる笑い声を掻き消すようにイヤホンをして、特に面白くもつまらなくもない番組をラジオ代わりに聞き流す日々。
自分の部屋に篭るようになってから、一番の苦痛は、両親をはじめとした家族と顔を合わせることだった。
いつ就職するの。せっかく大学に入ったのに。
仕事を辞めたのはいいけどなんで働かないの? どんどん自分の不利になっていくよ。恥ずかしい。誰にもお前がこんなふうになってるなんて言えない。
朝起きてからかけられる言葉が、食事中に不意に落ちる呟きが、部屋にやってきて涙声で叫ばれる声が、僕の胸の奥をズタズタに引き裂いた。
変わりたいという気持ちと、変わるのが怖くて動かない体と、どんどん降り積もっていく痛み。
昔から人と関わることが得意でなくて、頭も良くなくて、怒られてばっかりだったけど。
外に出ることさえ怖くなるほどに、僕の心はいつの間にかがんじがらめになっていた。
そんな僕の心の支えは、本だった。
最初は両親がいろいろな本を買ってきたり図書館に連れて行かれたりして、幼少期の字を読む練習として読書をしていた。
それが嫌いで、一度は本を見るのも嫌だったけど。
学校に入って、いろいろな本と出会う中で、僕はライトノベルに出逢った。
異国情緒あふれる異世界、空を駆けるドラゴンに、魔王を撃ち倒す勇者一行の旅。
学園に入った女の子が出会うのは、さまざまな問題を抱えた美しい生徒たち。
ある日事故死したと思ったら異世界に転生して、その世界を変えながら自分らしく生きていく主人公。
ライトノベルが好きな人の数だけ、物語があった。
ときには挫折を経験した、強いだけじゃない人たちの人生がそこにはあって、のめり込むように本を読んだ。
──僕も、こんなふうに誰かを助けられたらいいのに。
誰かを笑わせられて、しあわせにできたらいいのに。
まずは現実を変えなきゃならないなんてこと、わかっている。けど僕にはそれがいっとう難しくて、怖くて、つらくて。
小さな端末の奥にある文章に縋って、世界を閉じ込めた本を身を守る壁のように棚いっぱいに集めて、誰もが寝静まった、誰も僕を見ない夜を、物語に囲まれて過ごした。
だからなんだろうか。
まどろみの中、胸の奥が奇妙に痛んでいた気がしたけれど……
深くて、泥のような、普段と違う眠りから目覚めた僕は。
周囲の景色が自分の部屋とはまるで違うことに気づき、一人慌てることになったのだった。
はじめまして、幸守と申します。
星の数ほどある物語の中、当作品をお読みいただきありがとうございます。
久し振りの執筆ですが、のんびり続けて行こうと思っているので、また読んでいただけたら嬉しいです。
(追記:このお話、1話に出てくる「僕」の口調は2話目以降の弟としてのものに引きずられているので、男女、どちらで読んでいただいても大丈夫です。)