94、戦場の哲学
敵は多かった。
アトリフの剣士たちは次々とレイド―の兵士を殺していった。
しかし、ユリトスたちは相手を殺さずに戦うので手間取った。手間取っているとザザックなどが横からその相手を刺したりした。
ザザックは言う。
「まだ、殺さずとかやってんのかよ。バカか?戦場で平和の理念は通用しねーんだよ」
アトスも言う。
「先生、あなたは立派ですが、剣士としてあなたから教わった騎士道精神、今、あなたはそれに反している。戦場の哲学に平和時の哲学を持ち込んでいる」
ユリトスは言う。
「いや、哲学とはいつでも普遍妥当するべきだ。戦時だからと殺しは許されるものではない。許されないからこそ、戦争はしてはならないのだ」
アトスは敵と剣を交えながら答える。
「殺されたら哲学も何もない。生きているからこそ哲学はある。そのためには生きるための哲学が必要だ。それが先生の哲学だったはずです。違いますか?」
「おお、アトス、おまえは私の教え子だ。たしかにその通りなのだ。しかし・・・」
「ほら、また、相手を殺さないように剣を繰り出す、矛盾してますよ。先生」
アトスはユリトスが相手をしている敵を殺した。
そのとき、あの巨漢ボールガンドがユリトスの頭上に斧を振るった。ユリトスは躱した。
「すごい力だ、一撃で首が飛ぶぞ」
ザザックは笑った。
「こんな奴、動きの鈍いでくの坊だろう。殺すのは簡単だ」
ザザックはボールガンドの斧を躱し懐に入った。そして、サーベルを腹に刺した。
いや、刺したと思った。しかし、ボールガンドの腹に当たったサーベルは腹に弾かれた。
「なにっ?」
ザザックはボールガンドの膝蹴りを喰らった。
「げほっ」
ザザックは地に倒れた。
「すげえ、破壊力のある膝蹴りだ。む?」
アトスの攻撃もボールガンドには効かなかった。
ザザックは言った。
「こいつ、魔法使いだ」
「なに?」
アトスも膝蹴りを喰らった。
「ぐう」
アトスは地に倒れ言った。
「ザザックどういうことだ?」
「つまり、こいつは体を石か鋼みたいに堅くできるんだ」
「なるほど、それでサーベルが弾かれるのか」
アトスとザザックがボールガンドと戦っている間にアトリフらが他の敵をみんな倒した。
全員でボールガンドを囲んだ。
ボールガンドは笑った。
「はっはっは、おいに勝てるわけなか、おいは鋼鉄の体を持つだよ。鋼鉄を斬れる刀があったら、教えて欲しいね」
アトリフは跳んだ。
サーベルをボールガンドの眼に当てた、しかし、ボールガンドが眼をつぶったために彼のサーベルは瞼に弾かれた。
「やっぱりだ。みんな眼を狙え。眼が弱点だ。眼までは鋼鉄に出来ないようだぞ」
アトリフがそう言ったが、ボールガンドは笑った。
「はっはっは、それがわかったところで、現に瞼で弾かれているじゃんか。あきらめな」
そのとき、後ろから声がした。
「おーい」
ユリトスたちが振り向くとそれは五味たちだった。
五味と、九頭と、加須と、アリシアとオーリとデボイ伯爵ともうひとりの五味ナナシスだった。五味たちは汚れた体で悪臭を放ってやって来た。ラーニャはアリシアとオーリと抱き合って喜びたかったが、その臭さにやられて近寄れなかった。
アトリフは言った。
「む?三人の王が揃っている。この館にいたのではなかったのか?」
ボールガンドは笑った。
「たとえ、仲間が増えても、俺ひとりがいる限りここは通さんよ」
アトリフたちは剣を納めた。
「ユリトス、西にあるというドラゴンの神殿へ行こう」
「願いを叶えるためにか?」
「そうだ」
ユリトスたちも剣を納めた。
ボールガンドは笑った。
「ははは、観念したか?」
ユリトス一行は徒歩で、アトリフ一行は馬を引き、ボールガンドを無視して、館を廻りこんで西へ出発した。
ボールガンドは追いかけた。
「おーい、どこへ行く?」
アトリフ一行もユリトス一行も、鋼鉄の巨漢ボールガンドよりは足が速かったので、逃げ延びることができた。彼らが西の丘に登ると、下のほうに小さく、巨漢が、「待ってくりょ~」と叫んでいるのが見えた。




