87、プキラの町の名声王レイド―
翌日、アトリフたちを案内したメイレンはマヤメチュの町に向かって歩いていた。崖崩れの魔法しか知らない彼女は、崖のないプキラの町では何もできなかった。
すると、メイレンは前方から大勢人がやって来るのに気づいた。
それは軍隊だった。
「なぜ軍隊が、この道を、ドラゴニアに向かって?ここまで来るということは、マヤメチュを通って来たはず」
それはソウトスの軍だった。
メイレンは先頭の者に言った。
「私はマヤメチュの長の孫娘メイレンです。あなた方はどこから来てどこへ向かうのですか?」
先頭の者は、後方にいるソウトスに伝令を走らせた。
ソウトスは言う。
「どう思う?バルガンディ。この娘は利用できそうか?」
参謀のバルガンディは答えた。
「いやぁ、何とも言えませんな。ただ、我々を崖から落とすなんて真似さえしてくれなければそれでいいんじゃないですか?伝令には、マヤメチュで長にはお世話になったと伝えとけばいいんじゃないでしょうか?」
伝令は言われた通り、メイレンに伝えた。メイレンはこの言葉を信じて、この先にあるプキラの町の名前と名声王レイド―について教えた。それはすぐにソウトスのもとに伝えられた。
バルガンディは言った。
「名声王か。名声至上主義と言った感じか?だとしたら、簡単に手玉に取れそうだな」
「どういうことだ?バルガンディ」
ソウトスの言葉にバルガンディは答えた。
「ようするに、その名声王レイド―に我々がロンガに帰ったら、彼の名を広めることを約束すればいいんですよ。そうすれば、簡単に籠絡できますよ」
「籠絡したらどうするのだ?」
「そのプキラとかいう町に本陣を構えるのです。そして、まずはドラゴニアがどんな土地か調べるのです。そして、我々が侵攻支配できそうな範囲を確定して、軍略を練るのです」
「なるほどな、さすがロンガの参謀長だ」
「それから、閣下、彼レイド―の名とプキラの町の名は我が軍の者全員が知っていなければならないと思います。全軍に知らせましょう」
「うむ、そうしてくれ」
こうして、プキラの町の名とその町の王レイド―の名がユリトスたちにも伝えられた。
ユリトスは考えた。
「名声至上主義か。簡単に手玉に取れそうだな」
バルガンディと同じことを考えていた。しかし、ユリトスの立場からだ。
アリシアは言った。
「ユリトス様、あたしたちはどうなりますか?」
「とにかく、ゴーミ王がまだ、ボルメス川の下流に流され消息が分からん以上、我々がしなければならないことは、また引き返してゴーミ王たちを探すことだ」
ユリトスの言葉を受け、オーリが言った。
「ユリトス様、私から提案があります」
「なんだね?」
「できることならば、私たちは二手に別れる方がいいと思います」
「二手に別れる?なぜ?」
「せっかく、ドラゴニアに着くのです。一方はゴーミ王たちを探しに戻り、もう一方はそのプキラという町で情報収集をしたほうがいいと思います」
「しかし、危険ではないか?」
「それをプキラについてから考えましょう」
すると、ポルトスが言った。
「しかし、我々はソウトス軍に捕まった状態だ。そこから解放されなければ話にならない」
「はい、だから、解放されたら二手に別れるとして、その後の行動計画を練っておくことが大事だと私は考えます」
ユリトスはオーリに言った。
「おまえの考えを聞かせてくれ」
「二手に別れるメンバーですが、まず、ドラゴニアに残るのは、ユリトス様、私オーリ、ポルトス、そしてクーズ王陛下、カース王陛下です。残りの、アリシア、ジイ様、デボイ伯爵は再びマヤメチュを通ってキャドラまで、川にゴーミ陛下たちがいないか見ながら帰るのです」
ユリトスは考えた。そして言った。
「ふむ、デボイ伯爵殿、あなたは剣の心得は?」
デボイ伯爵は答えた。
「多少は」
「うむ、まあいいだろう。うむ、オーリの考えで行こう。無論、このソウトス軍から解放されたらだが」
ここはプキラの町から少し離れたところにあるレイド―の館である。
「なに?ボルメス川下流のロガバ方面から軍が来ているだと?」
「は、ラレンとかいう、ロガバからの旅の者がそう報告に来ました」
「ラレン?何者だ?」
「彼はドラゴニアに伝わるドラゴンの秘宝を求めてやって来たそうでございます」
「なに?ドラゴンの秘宝?ふははは、それは大した奴だ。面白い、話が聴きたい。呼び寄せろ」
「はっ」
こうして、名声王レイド―のもとへ、ラレンとエレキアは呼び寄せられた。
ふたりは王の前に跪いて、挨拶した。
「名声高きレイド―王陛下。我々はロガバの異郷より参りました、田舎者にございます。ドラゴンの秘宝を求めて参りました。しかし、ドラゴニアに来たものの、ここからどうすればいいか、さっぱりわかりません」
レイド―王は答えた。
「しばらく私のもとで働かんか?」
「しばらくとはどのくらいでしょう?」
「そのロガバ方面から来る軍勢についてもっと情報はないか?おまえたちが働くのはその件について落着するまでだ」
「はっ」
ラレンはチラと隣のエレキアを見た。エレキアは小声で「ウソではない」と言った。
ラレンは言った。
「奴らの目的はこのドラゴニアの一部を我が物にすることです」
「ほう、それは聞き捨てならんな」
ラレンは言った。
「しかし、その中にロガバ三国の王のうちふたり、バトシア王クーズとロンガ王カースがいます」
「なに?あのドラゴンの血を引く者か?」
「はい」
「それは生け捕りにしなければな」
「はい、そして、もうひとりのドラゴンの血を引く者、ガンダリア王ゴーミがこのプキラの町に潜伏しています」
「なに?それはまことか?」
「はい」
「居場所はわかるか?」
「わかります」
「生け捕りにして来い」
「はい、かしこまりました」
五味たちはまだ宿にいた。
「どうしようか?ラーニャはどこに行ったんだろう?」
などと、五味が言っていると、部屋をノックする音がした。
「この部屋にガンダリア王ゴーミがいるだろう?出て来い」
それは知らない男の声だった。
アラミスは小声で言う。
「ナナシス、すまんが、ゴーミ陛下に変身して出てくれないか」
「なんで?俺なら捕まってもいいってのか?仮に殺されても」
「おまえの方が陛下よりは経験がある。変身ができるんだ。ゴーミ陛下よりは逃げる力がある。それに俺たちはおまえを見捨てたりしない」
「なぜ、それが言える」
「ゴーミ陛下がそう言ってる」
アラミスの言葉にナナシスは五味を見た。五味は頷いて言った。
「おまえは仲間だ」
ナナシスは目頭を熱くし、五味に変身した。
本物の五味はベッドの下に隠れた。
ゴーミ王に変身したナナシスはドアを開けた。
そこには兵士が数名立っていた。
「来い」
ナナシスは連れていかれた。




