82、山岳都市マヤメチュ
アトリフたち七人は山岳都市マヤメチュに着いた。
そこはキャドラのように渓谷の高い場所に作られた都市で斜面に段々畑と石を基壇にした木造の建物が並んでいた。
そこにアトリフたちは馬に乗りやって来た。
町には門番がふたりいた。
「何者だ?」
ラレンは言った。
「ロンガより来た旅人だ。途中でこの少年が死んでいた。おまえたちの町の者か?」
ラレンは馬上に積んだ、エコトスが殺した少年の死体を見せた。
門番は言った。
「ベータ、ベータじゃないか。なぜ、死んだ」
門番はベータという少年の死体を馬から下ろし、ラレンを見た。
「おまえたちが殺したのだろう?」
ラレンは首を横に振った。
「いや、俺たちが通りかかったときには死んでいた」
「じゃあ、誰が殺したんだ?」
「それを聞かれても困る。元々死んでいたんだからな。この町まで運んだ礼を言われるのなら納得いくが、殺人の疑いを掛けられるとは心外だな」
ラレンがそう言うと、アトリフが言った。
「その少年は何のためにあんな場所で死んでいたのです?」
門番は言った。
「見張りに立っていたはずだ」
「見張り?」
「ロンガより来る山賊から我が町を守るために地形を操る魔法を使う者が代々見張りについていたんだ」
「それがこの少年か?」
「そうだ」
「だとしたら、山賊が殺した可能性が高いのか?」
「わからん」
「門番よ、我々より先にここに来た者はいないのか?」
「いない」
「それはおかしいな。ではこの少年を殺した者はどこに行ったのだ?」
「それは俺たちが聞きたい」
「とにかく我々は殺していない。もしよろしければ、この少年の弔いを手伝いたい」
「そうか。しばしここで待て、この町の長を呼んでくる」
ふたりの門番のうちひとりが町の中へ走って行った。
アトリフたちは馬から降りた。
しばらくすると、長が大勢の市民を連れてやって来た。
長はベータという少年の死体を見て言った。
「おお、ベータ。わしのかわいい孫よ。なぜ死んだ」
アトリフは言った。
「そうですか、お孫さんですか。お辛いでしょう」
長は言った。
「この子は幼いながらも、父親の跡を継いだ優秀な地形操作師だったのに」
「地形操作師?」
「はい、わしらは代々、地形を操る魔法を伝承していく、家系なのです」
「魔法は遺伝で受け継ぐのではないのですか?」
「遺伝です。しかし、地形を操る魔法は代々、一子相伝。父親が自ら長男に譲るのが伝統です」
「そうですか。その受け継いだのがこの子なのですね」
「はい、しかし、この子は乱暴者で、旅人はみんな魔法で谷底へ落してしまうのです」
「この子は山賊に襲われた可能性はないのですか?」
「あるかもしれません。旅のお方。この子を弔うのは我々だけでします。お礼に一晩の宿を提供しましょう。ドラゴニアに参られるのでしょう?」
「それはかたじけない」
アトリフたちは宿舎に案内された。
建物に入る前に、読心師のエレキアがアトリフに小声で言った。
「罠です」
アトリフは長に言った。
「宿でくつろぐ前にこの町の様子を散歩して見学したいのだが、よろしいか?」
「はい、どうぞ、ご案内いたします」
長は案内人の女性をひとりつけた。アトリフたちは馬を繋いで、散歩に出かけた。
案内人の女性は自己紹介をした。
「私はメイレンと申します。ベータの姉でございます」
アトリフはお悔やみを述べた。
「ああ、お姉さまですか。この度は弟さんが亡くなられて、お辛いでしょうに」
「しかし、あの子は乱暴者でしたから、いつかこうなる運命だったと思います」
メイレンはアトリフたちを段々畑の中へ案内した。
エレキアがアトリフに小声で言う。
「この女、地形を操る魔法が使えます。我々を谷底へ落とす気です」
メイレンは段々畑の下のほうに案内しようとする。
エレキアは言う。
「ああ、私、あまり高い所は好きじゃないの。谷底が見えるような下のほうじゃなく、もっと上の方の街並みを散策してみたいわ」
メイレンは言う。
「そうですか。でも下のほうから見た町も絶景ですよ。この町が崖の上に建てられていることがよくわかりますよ」
「でも、怖いわ。上に行きましょう」
「そうですか、わかりました」
メイレンは仕方なく上にアトリフたちを案内した。
エレキアはアトリフに小声で言った。
「この女、私たちを転落させることは諦めて、毒殺するほうに切り替えました」
「ふふ、恐ろしいな」
アトリフは笑った。
メイレンの案内で、町の様子がわかった。ボルメス川が蛇行しその内側に突き出た半島の山の頂にこの町があった。つまり、先に進むには北に向かうのではなく、南西の出口からボルメス川に沿って南西に向かい、また蛇行して北へ向かうのだった。
そして、宿舎に案内された。
エレキアはアトリフに訊いた。
「泊まるのですか?」
「うん、泊まってみよう。面白そうだ。ただ、毒殺されたら敵わんから、俺も厨房に立つ。俺が美味いパスタを作って、長たちにもご賞味いただこうと思う。朝食も俺が手料理を振舞うぜ」
「まあ、楽しみ」
したがって、夕食のために、アトリフは厨房に立った。マヤメチュの人々にも振舞った。みな、美味い美味いと言ってアトリフの料理を食べた。そして、夜遅くなると、それぞれの寝床に帰って行った。
アトリフたちは宿舎に泊まった。宿舎は二階建てで町の中でも大きな建物の方で、基壇が石で出来ており、壁と屋根天井は木造だった。
深夜、アトリフとアトスとザザックとラレンとエレキアとラミナの寝ている部屋の天井がエコトスの声で小声で言った。
「アトリフ、客が来たぜ」
「何人だ?」
「大人の男三十人だ」
アトリフはまた眠りに就いた。ラレンも布団に潜った。エレキアも目を閉じた。ラミナはもとより眠っていた。
アトスとザザックは剣を持って起き上がった。




