80、振り出し
ソウトスは気づいた。
「おや、そこにいるのはキャドラの町のデボイ伯爵ではないか?」
「はい、デボイでございます」
「おまえは魔法使いだろう?」
「違います」
「では、おまえの屋敷は何だったのだ?わしは一日死ぬ思いをしたぞ」
「私も魔法使いにやられた側です。その魔法使いを追いかけてドラゴニアに向かいましたところ、ユリトス殿たちと出会いました」
「そうか、そうであったか。まあ、よい、みんな、馬に乗れ、カース王を頂いて、ドラゴニアに行くぞ!」
その頃、アトリフはちょうど、ユリトスたちが崖崩れで落ちた地点に来た。そこは道がきちんとしていて、崩れてはいない。
エレキアが言った。
「近くにいるわ。疑惑の思いでこちらを見ている」
這松の這う岩場の上に少年が現れた。
「さっき、伝書ガラスで手紙をよこしたのは、おまえたちか?」
アトリフは言った。
「そうだ」
「本当におまえたちの中にドラゴンの血を引く者がいるのか?」
少年がそう言ったとき、足元の這松から剣を持ったエコトスが飛び出し、少年の心臓をズブリと突いた。少年は死んだ。
エコトスは言った。
「運がないな。這松の近くに立っていたのがまずかったな。木と同化した俺は、君の足元までバレずに這い寄ることができた」
アトリフはエコトスに言った。
「死んだかー?」
「死にましたー」
「よし、旅を続けよう。だが、その地形を操る少年を殺したことで後ろから来るソウトス軍にサービスしてしまったかな?」
いっぽう、五味はどうなったか。
五味が目を覚ますと、顔の前に、ラーニャのブスな顔があった。
「うおっ、ラーニャ!」
「気がついたのね」
「ここは?」
近くにいたモロスが言った。
「ここはキャドラの町の水汲み場さ。あっしらはボルメス川に流されて、キャドラまで戻っちまった。振り出しだ」
五味は周りを見た。水汲み場と呼ばれるコンクリートを固めた岸辺に、ラーニャとモロス、アラミスとナナシスがいた。
「他のみんなは?」
アラミスは首を横に振った。
「死んだのか?」
五味がそう言うと、アラミスは言った。
「俺は流されながら、ユリトス先生の声を聞きました。流されながら水の上に顔を出すと先生たちは川岸に流れ着いていました。そこに流れ着かず、こんなところまで流されたのが、俺たち五人のようです」
「じゃあ、誰も死んでいないのか?」
「そのようですね」
「じゃあ、どうしようか?この町でユリトスさんたちを待つか?」
「いえ、もう一度あの谷の道を北上しましょう」
「なんでまた?」
アラミスは答えた。
「では、ガンダリアへ戻りますか?ハーレムで遊びますか?」
「う、うん、そうしたほうがいいと思う。俺には冒険は向いていない」
「しかし、先代の国王夫妻の失踪の謎を解きたくはないんですか?ドラゴニアに父上様母上様が生きているかもしれないんですよ」
五味は思った。
「アラミスは勘違いしている。俺はそんな他人の両親はどうでもいい・・・」
そのとき、前世の両親を思い出した。前世の両親のことを思うと申し訳ない気持ちになった。自分は中学卒業時に、高校受験もせず就職活動もせず、ただ、出木杉を陥れることだけに情熱を注いでいたバカな奴だった。その挙句に転生したらいい人生が待っていると教えられ、十五歳の若さで自殺した。両親はどう思ったろう?泣いただろうか?そんなことを思うと、ハーレムで遊ぶということが罪深いことのように思えた。それにハーレムで遊ぶとは国王として生活することで、国の最高責任者にならねばならない。そんな重責は五味には耐えられずに逃げ出したのだった。
「よし、ドラゴニアを目指そう」
この水汲み場から町に上がるには、崖に作られた階段を登らねばならない。人がひとり通るのがやっとという細さの階段だ。登る順番は、土地勘のあるモロスを先頭に、アラミス、ナナシス、ラーニャ、五味の順番だ。この順番は何気なく決まったように見えたが、五味は絶対にラーニャの後ろに付こうと、意識した。なぜなら、階段を登りながら、ラーニャの腰の括れとお尻を見ることができるからだ。こんなときでも五味はエッチに余念がなかった。




