8、バトシア国王
「クーズ王に会いに行くですって?どうやって?」
アラミスは言った。
五味は腕を組んだ。
「う~ん、そうだ、手紙を書こう」
「手紙?」
今度はポルトスだ。
「手紙など書いたって、国王の所に辿り着けるかわからないですよ。国王とは忙しいのだから」
「でも、ハーレムで遊んでるんだろ?」
「まあ、そうですけど・・・」
五味は名案を思い付いた。
「そうだ、ガンダリア王国の王ゴーミの名で出せば、届くかも」
アラミスは言った。
「正式な外交文書でなくて届きますかね?」
ポルトスは言った。
「いや、わからんぞ。ゴーミ陛下は国外に逃げているのだからな。クーズ王に匿ってもらうというのもひとつの案かもしれない」
五味は興奮した。
「そうだろ?そうだろ?そうしたら、また、ハーレムで・・・むふふ」
アラミスが言った。
「しかし、敵国の前国王が自分の領地にいて生かして匿ってくれますかね?むしろ、即死刑なのでは」
五味は青くなった。
「やっぱりダメか」
そのとき、服屋の外から声がした。
「号外だ、号外だ、クーズ国王様が逃亡したぞ!」
「え?」
五味たちは服屋の外に出て、新聞号外を受け取った。
そのとき、五味は思った。
「あ、俺、この世界の文字は読めないはずだ?ん?そういえば、転生してからふつうに日本語が通じてるぞ、なぜだ?」
受け取った号外も日本語で書かれていた。
『クーズ国王逃亡!』
『ああ、情けない。国民を見捨てた男!』
『ガンダリア国王も逃亡の情報!』
『北のロンガ王国の時代到来か?』
路上で号外を読む国民たちは口々に言った。
「あのご立派なクーズ国王が?」
「信じられない」
「でも、同じように賢者と称えられたガンダリア王国のゴーミ国王も逃亡だってよ」
「じゃあ、残るはロンガ王国のカース国王だけか」
その言葉を五味は聞き逃さなかった。
「カース国王?」
五味の頭に閃光が閃いた。
「俺と九頭と加須は三人とも国王に転生したのでは?としたら、三人が仲良く戦争を終わらせれば平和が訪れるのか?そしたら、ハーレムで・・・マリンちゃん・・・ぐふふ」
五味はポルトスとアラミスに言った。
「よし、なんとしてもクーズ王に会うぞ」
「え?どうやって?」
五味は考え込んでしまった。
すると、号外の隅にクーズ王を見つけた者には賞金一億ゴールドが与えられるとあるのを見つけた。
「ねえ、ポルトス。一億ゴールドって円で言うといくら?」
「円?」
「あ、いや、一億ゴールドあったら何が買えるかなぁ~って思って」
「あなたが着ている服が約一万ゴールドです」
五味は自分の服を見た。
「一ゴールド一円と見て良さそうだな。計算が楽だ」
すると、路上からこんな噂を聞いた。
「賞金稼ぎのアトリフが捜索隊を組織するらしいぞ」
「捜索隊に入りたい者は礼拝堂前の広場に集まれと言ってるぞ」
五味は「これだ」と思った。
「よし、ポルトス、アラミス、礼拝堂前に行くぞ」
「陛下、いや、お待ちを・・・その・・・」
「なんだ?」
「あなたをどうお呼びしたらいいかわからなくて、陛下ではまずいかと・・・」
五味は考えた。
「そうだな・・・よし、死んだアトスのトスを取って『ゴミトス』としよう」
三人は礼拝堂前の広場に出た。
街中の礼拝堂前の広場の噴水の前にその屈強な男は立っていた。
「俺はアトリフ、賞金稼ぎだ。今回の獲物は大物だ。一億ゴールドの懸賞金がかけられている。俺の雇われ人となって協力し、もし誰か国王を見つけて捕えたら、その者には特別に五千万ゴールドの分け前をやる。半分だぜ、気前がいいだろう。残りの者にも十万ゴールドずつくれてやろう。残りは俺のもんだ」
人垣の背後からポルトスは言った。
「あんたの雇われ人になって、得することは?」
アトリフは言った。
「自分で見つけなくとも雇われ人の誰かが見つければ十万ゴールド手に入ることだ」
「雇われながら捜索をサボった場合は?」
「無報酬だ」
「どうやって、それを判断する?」
「捜索の報告義務を課す。もし、その報告が嘘だったと分かったときは死んでもらう」
五味はそれを聞いてポルトスに言った。
「やめようか、賞金稼ぎに雇われるの」
「何を言ってるんです・・・」
五味はもうポルトスの言葉を聞いていなかった。なぜなら、見つけてしまったからだ、噴水前で話すアトリフの背後のずっと遠く、広場から細い路地に入るところに、フードを被った、十五歳の九頭の顔があったからだ。五味は走り出した。
ポルトスとアラミスは五味を追いかける。
「ゴミトス殿、どうしたんです?」
五味は答えず、細い路地に入った。すると角を左に曲がった九頭の姿が見えた。その角を五味は左に曲がった。しかし、そこには人影がなかった。袋小路で、円形の広場になっていて、それぞれの家の裏口がその広場を囲んでいた。ゴミの悪臭がひどかった。
ポルトスとアラミスが追いついて言った。
「どうしたんです?」
「九頭が・・・クーズ国王がいた」
「え?」
アラミスは言った。
「しかし、袋小路ですよ」
「よし、呼んでみよう」
五味は大きな声で他の者にはわからない暗号を使った。
「おーい、九頭、俺はお前の同級生の五味だ。俺はこの世界で美好麗子を見つけたぞ」
そう言い終わるか終わらないうちに近くのゴミ箱の蓋が開いた。
「なに?美好麗子さんが?五味、本当だな」
生ゴミで臭く汚れた九頭がゴミ箱から出て来た。正確にはクーズ国王だ。
五味はそれを見て喜んだ。
「九頭!おまえか?」
九頭はたじろいだ。
「おまえ、本当に、五味か?」
「そうなんだよ。俺は転生してガンダリア王国の国王になったんだよ。逃げたけど」
九頭は言った。
「俺はバトシア王国の国王だ」
五味は言った。
「もしかしたら、たぶん、加須は北のロンガ王国の国王カースだ。まちがいない」
「え?俺たち三人揃って国王に転生したのか?」
「そうだ。もしかしたら、この三国の戦争をやめさせ、あとはハーレムで一生遊んで過ごせるかもしれないぞ。中卒無職からの逆転人生だ!」