78、追いついた伯爵
「デボイ伯爵殿、ご無事で出立されたか」
ユリトスはデボイ伯爵に笑顔を向けた。
「はい、ソウトス閣下はまんまと私の罠にはまりました」
「しかし、あなたは本当に我々とドラゴニアへ旅をするのかね?」
「私は探したい人がいるのです」
アリシアは訊いた。
「それは恋人ですか?」
「妻です」
「え?奥さん?」
オーリが訊いた。
「奥さんも魔法使いなんですか?」
デボイ伯爵は困った。
「そっちに質問の方向が行くんですね。なぜ別れてしまったかとか、そういうことを普通は訊くと思うのですが」
「じゃあ、なんで別れたの?」
ラーニャが訊いた。デボイ伯爵は笑って誤魔化した。
「さあ、なぜしょう」
すると白い髭の男モロスが言った。
「旦那様の秘密の過去に触れちゃいけねえ。誰しも聞かれたくない過去はあるだべさ。それを聞いちゃいけねえ」
ラーニャは不貞腐れた。
「なによ、つまんない」
ジイはデボイ伯爵に訊いた。
「しかし、ドラゴニアに行かれたことがあるのですね?」
「はい、昔、若気の至りでね」
「そこで、恋に落ちたわけね」
ラーニャが鋭くツッコむ。するとモロスが言う。
「だーから、そういうこと言っちゃあいかんと、申しとるっぺ、わからんかや」
ラーニャは言った。
「だって、気になるんだもーん」
デボイ伯爵は笑った。
「ははは、私に興味を持ってくれるのは嬉しいが、モロスの言うことも聞いて欲しいな。私も過去のことは言いづらいんだ」
アラミスはラーニャに笑って言った。
「ラーニャ、わかってやれよ。大人には聞かれたくないことのひとつやふたつはあるんだぜ」
「なによ、アラミス、あたしが子供だって言うの?だいたいあんた何歳よ」
「二十七だよ」
「へえ、ふ~ん」
ラーニャは何とも答えられなかった。
五味も、アラミスという男は最初からともに冒険してきた仲間だが歳を聞いたのは初めてだった。五味はこの際だと思い訊いてみた。
「ポルトスは何歳なの?」
「ん?俺ですか?三十です」
「じゃあ、アトスは?」
「三十五くらいかな」
ユリトスはアトスの名で思い出した。
「デボイ伯爵殿。賞金稼ぎのアトリフたちは見なかったか?」
デボイ伯爵は答えた。
「賞金稼ぎ?さあ、私たちがここまで来る間は誰をも追い越しませんでした」
しかし、アトリフたちの一行、七人は一日遅れの場所を馬に揺られていた。
先頭にアトリフがいた。
二番目は妹のラミナだ。彼女のところに前方から一羽のカラスが飛んで来た。カラスはラミナの頭の上をギャアギャア鳴いて羽ばたいた。
アトリフはラミナに訊いた。
「何と言ってるんだ?」
ラミナは笑った。
「伯爵がユリトスたちの一行に追いついたんだって」
「そうか」
そう言っている所へ、後方から、もう一羽のカラスがやって来て、また、ラミナの上でギャアギャア鳴いた。
「そう、わかったわ」
「なんだ?ラミナ、カラスは何と言ってる?」
「ソウトスの軍勢がキャドラの町を出発してこっちに向かっているって」
「ちっ、バカな奴らだ」
「ハックション!」
軍勢を率いてキャドラの町を出発した大将ソウトスはくしゃみをした。
「誰か、わしの噂をしておるな。そうか、きっとロンガの女たちだ。この老兵が英雄になって帰ってくると黄色い声で噂しておるな、ぐふふ。さあ、目指すはドラゴニアだ!」




