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75、ドラゴニアへの出発

デボイ伯爵は笑って言った。

「一日だけです。一日だけ、この屋敷は迷宮になります。入った者は、出ようとしても迷って出られません。つまりここをロンガ軍の本陣にして魔法をかければ、ロンガ軍をここで一日だけ足止めできるというわけです」

ユリトスは頷いた。

「我々のために足止めしてくださるか?」

「はい」

「しかし、それではあなたがその後危険に(さら)される」

伯爵は真面目な顔で言った。

「そこで、お願いです。私もあなた方の後を追いかけてドラゴニアに行ってもよろしいでしょうか?」

「え?」

「私もドラゴニアには行く目的があります」

「わかりました。しかし、ドラゴニアに行くにはまず、この町で食料など調達しなければなりません」

「私がご用意しますよ。みなさんはその間、ここで食事を摂ってください。ミーシャ!」

「はい」

すぐにミーシャと呼ばれた女中が出て来た。

「この方たちに昼食を振舞え」

「かしこまりました」

女中のミーシャは引き下がった。


「ザザックか」

アトリフはワインを飲む手を止めて言った。

エコトスはパスタを頬張ったまま、ドアのほうを見た。

「さすがアトリフ、気配で俺とわかるとは」

ドアが開き、そこにはザザックが立っていた。

「メシは食べたか?」

「いや、まだだ」

「じゃあ、俺がパスタを作ってやる」

「すまねえな」

アトリフは席を立って、キッチンで湯を沸かした。

ザザックは椅子に座って言った。

「明日、ソウトスの軍勢がここキャドラに到着するそうだ」

アトリフは黙って、キッチンで立ちながらワインを飲んだ。

ザザックは話を変えた。

「ラレンが来ていると聞いたが」

「奴は、今頃農家で食事しているよ」

「のどかだな」

「それがここキャドラの町のいいところだ」

「ああ、平和だ」

「しかし、ソウトスはアホなのか?本気で軍勢をドラゴニアへ向かわせる気か?」

「噂じゃ本気らしいぜ」

「バカだな」

「ああ、バカだ。しかし、アトリフ、あんたも何を考えているか知らんが、ドラゴニアに行くという目的は何だ?」

「エコトスにさっき言った。エコトスに訊いてみろ」

「エコトス、何だ?」

エコトスはワインを飲み込んで答えた。

「ドラゴンの秘宝だ」

ザザックはニヤリと笑った。

「そいつぁ面白そうだ」

そこへ窓から、カラスが一羽入って来た。そして、アトリフの肩に止まった。

アトリフはその足についている筒から手紙を出した。

「ラミナとエレキアとアトスは明日到着するとのことだ」

ザザックは言った。

「明日ぁ?ソウトスの軍が来ちまうぜ」

アトリフはパスタを茹でながらニヤリとして言った。

「それもまた面白い」


五味たちはデボイ伯爵の屋敷で美味い料理をたらふく食べた。

そこへ、デボイ伯爵が入ってきた。

「準備ができましたよ」

「すまない」

ユリトスは立ち上がった。

「みんな、行こう」

五味たちはデボイ伯爵の屋敷を出て、馬に乗った。

ジイは言った。

「しかし、伯爵殿、明日、ソウトスの軍勢が来て、屋敷に魔法をかけて、我々を追うとなると、どうなるのです?」

デボイ伯爵は答える。

「私はこのモロスとふたりだけで馬を飛ばす。大所帯のあなたたち一行にはすぐに追いつくでしょう」

「途中で道がわからなくなることは?」

デボイ伯爵は言った。

「ドラゴニアの平野に着くまでは何日か一本道が続きます。迷うことはありません。その間に私たちは追いつけると思います」

ユリトスは頷いた。

「よし、では出発だ」

一行はキャドラの町の北の出口に向かった。そこから先は、しばらく茶畑などが続いたが次第に、緑が少なくなり、岩肌の露出した荒れた土地になった。右下に深いボルメス川の谷底を見下ろしながら、一行は北の奥地へ向かった。


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