74、デボイ伯爵の紅茶
デボイ伯爵は、加須が言ったように食堂に一行を通し、紅茶を振舞った。
加須は隣の席の五味と九頭に小声で言う。
「絶対に飲んじゃダメだぞ」
ユリトスは悠々とカップを口に付け飲んだ。他のメンバーも紅茶を飲んだ。
加須と五味と九頭は飲まなかった。
伯爵は言う。
「国王様たちはお飲みになりませんか?ここキャドラはお茶の産地として有名だと、この町の者は自慢に思うのですが、それとも、王宮にはもっと美味しそうなお茶があるのですか?それともカップが安っぽいでしょうか?」
加須は思った。
「やっぱり俺たちに紅茶を強く勧める。俺たち三人のカップだけに毒が入っているんだ」
ユリトスはデボイ伯爵に質問した。
「この町は、ロンガ王国でも最も北にある町、それより奥にはドラゴニアに続く道があると聞きましたが、この町にも魔法使いなどは出るのでしょうか?」
伯爵は紅茶のカップを置いて言った。
「『出る』とはまるで幽霊か何かのような言い方ですね。それでは魔法使いがかわいそうだ」
「失礼しました。では言い方を変えて、この町に魔法使いはいるのでしょうか?」
「いますよ。私自身が魔法使いです」
加須と五味と九頭は背筋が凍った。
「ひいいいいいい!やっぱりこいつは怖い伯爵だ!」
「どんな魔法が使えるんです?」
そう言ったのはまだブスなオバサンの姿でいるナナシスだった。
「私の魔法は・・・」
そのとき、外から門番のモロスが入ってきた。
「旦那様、大変でごぜーます。エライコッチャでごぜーます。今、ロンガ軍のセッコウとか言うのが来て、この屋敷を大将の本陣にしたいと言ってきました」
「ロンガ軍の斥候?この屋敷を本陣に?」
「明日には到着するそうでごぜーます。いかがしやんしょ?」
「現在ロンガの王カース陛下は逃亡中だ。ソウトスがその代理であり、彼の命令は王の命令となってしまう。逆らうことはできまい」
そのとき、ラーニャが言った。
「カース王がここにいるんだから、それを告げれば軍も黙るんじゃない?」
オーリはラーニャに言った。
「それは無理よ、ラーニャ」
「なぜ?ここはまだロンガ王国のはずよ」
すると、デボイ伯爵は笑った。
「ラーニャさん、いいご意見だ。そうです。ここはロンガ王国、ここにはカース王がいらっしゃる」
デボイ伯爵は笑顔を加須に向けた。
加須はまた背筋が凍った。
伯爵は言った。
「モロス、この屋敷を本陣として使うこと、いつでもどうぞと伝えて来い」
「は?そっちなんすか?王様がこっちにいるから、断るんじゃないっすか?」
「いいから、本陣とすることを伝えて来い」
「へいっ」
モロスは走って出て行った。
ラーニャは怒った。
「なに言ってんのよ、ここにはカース王がいるから、来るなって言えばいいでしょ?」
デボイ伯爵は笑った。
「先ほど、私は魔法使いだと言いましたね。私はこの屋敷に呪いをかけているのですよ」
加須と五味と九頭はまた背筋が凍った。
「ひいいいいい!やっぱり!」
「この屋敷はね、中に入った者を外に出さない迷宮になるのです」
ユリトスは訊いた。
「伯爵殿、それはどういう意味なのです?」
「つまりです。誰かがこの屋敷に入り、私が魔法をかければ、その者を屋敷に閉じ込めておくことができるのです」
アリシアは言った。
「え?あたしたちを閉じ込めたの?」
デボイ伯爵は笑った。
「ははははは」




