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73、アトリフのパスタ

「ドラゴンの秘宝?なんですそれは?」

ラレンがそう言ったとき、ドアをノックする者があった。

「入れ」

アトリフが言うと、ドアが開いた。

「エコトス到着」

ラレンはエコトスとハグした。

「おお、エコトス、久しぶりだな。あいかわらず、おまえは木か?」

「木だよ。他にないだろう?」

「メシは済んだか?」

と、アトリフが訊いた。

「いや、まだだ。今から表の木に同化して養分を摂ろうと思っているよ」

アトリフは席を立った。

「パスタを作ってやる」

「え?いいよ。そんな、悪いよ」

「ドラゴニアに行けばおまえは木の養分ばかりで、メシは食えなくなるかもしれん。人間の料理をここで今のうちに食べていけ」

「ああ、ありがとう」

ラレンは言う。

「俺の分は?」

「おまえは農家と約束があるんじゃないのか?」

「いや、途中で抜け出してきちゃったし」

「狭い町だ、近所づきあいは大事だぞ、おまえは畑に戻れ」

「わかったよ」

ラレンは出て行った。

アトリフは鍋に火をかけた。

「エコトス。おまえのことだ、ユリトスたちを案内して来たろう?」

「え?いや」

「俺に嘘はつくなよ。エレキアのように読心術が使えるわけではないが、洞察力はあるつもりだ。案内したよな?」

「しました」

「で、どうなんだ?あの三国の王は?おまえの言うドラゴンの血の話だが」

「さあ、その話は俺もよくわからないんだ」

「俺もラレンがあの王を連れて来たとき、ドラゴンの血がどうとか言うのはこの国を治めるために作った神話に過ぎんと考え、追い返した。正解だと思うか?」

「正解だね」

「正直に答えろ。忖度はなしだ」

「俺は昔、ドラゴニアにいたからわかるんだが、そのドラゴンの血はドラゴニアでも有名な話なんだ」

「王家がでっち上げた神話ではなく、事実であると?」

「あ、ああ」

アトリフは沸いた湯にパスタを入れた。

「まあ、ユリトスたちが勝手に動いてくれる。奴に任せよう。今更、あの王たちに俺について来いと言っても聞かないだろうからな」

エコトスは笑った。

「笑うところか?」

アトリフがそう言うと、エコトスは真顔になった。

ふたりは食卓で一緒にパスタを食べワインを飲んだ。


いっぽう、五味たちは加須が怖がるデボイ伯爵の屋敷の前に馬を降りていた。坂の上にある広い屋敷だ。門は閉じていて、門番小屋がある。

ユリトスがその小屋を覗き込むと白い髭の六十過ぎた汚い身なりの門番のモロスが眠っていた。

「すまん」

モロスは起きない。

「ごめん」

モロスは起きない。

ポルトスが変わった。彼は大きな太い声で言った。

「ご・め・ん!」

モロスは飛び起きた。

「わおっ、なんだね?何が起きたね?え?あ、お客?何名様?」

「十一人だ」

「へ~、多いねえ。デボイ伯爵は人気者でごぜーますね。代表者のお名前は?」

ユリトスは言った。

「世界一の剣豪ユリトスと、カース王、ゴーミ王、クーズ王の一行だ」

「はい、確認して来るよ、ちょっとお待ちを。へ?王様が三人?ドラゴニアの?」

「ロンガ、ガンダリア、バトシアの王三人だ」

「あっはっはっはっは。これはまたキチガイかね?この屋敷にはキチガイがよく来るもんだね。いやこの前もね、カース王が来たんすよ。そいつが逃げちゃってね。そうそうそんな顔でね、来たんすよ、へ?そんな顔?あんたこの前の?」

加須はビビっている。

「ちょっと待っててくださいよ、すぐに伯爵にお知らせします」

モロスは小屋を出て、建物のほうへ芝生の庭に伸びる石畳の上を歩いて行った。

「この芝生の下に、多くの少年の白骨死体が埋まってるんです」

加須が言った。

五味はぶるっと震えた。

「マジかよ」

九頭もビビった。

「怖いな」

アラミスは加須に言った。

「証拠はあるんですか?」

「勘でわかりますよ」

五味も九頭も頷いた。

「うん、この庭の雰囲気はそうだ」

「うん、うん」

建物のほうから玄関を開け、モロスとデボイ伯爵が歩いて来る。

「おう、これはこれは、三国の国王と、世界一の剣豪の御一行とはこれはまた豪華な」

ユリトスは一礼した。

「伯爵殿、初めまして、旅の剣士ユリトスです」

デボイ伯爵は門の格子越しに手を差し出してユリトスと握手した。

「御高名は聞いております。三国の王をお連れとは、これまた素晴らしいご一行ですな。どうぞお入りください」

デボイ伯爵は門を開けた。

加須は五味と九頭に耳打ちした。

「油断するなよ、たぶんこのあと、建物に入れられ紅茶を出される、それは飲んじゃダメだ。様子を伺うんだ」

そんなひそひそ喋る、加須を見てデボイ伯爵は笑顔で言った。

「やあ、カース陛下、ご無事でしたか?よかった」

加須はビビッて、「はい」とやけに高い声で答えた。

加須は思った。

「獲物が戻って来て喜んでいるんだ。だから、あんなに爽やかに笑うんだ」

一行は屋敷の中へ案内された。


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