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72、キャドラ到着

キャドラの町は谷の上のほうにあった。谷は深く切れ落ちている。以前、加須がデボイ伯爵から逃れるため飛び込んだ崖だ。町はその崖に向かった傾斜地に造られている。段々畑もあり、谷に沿って南へ蛇行して下れば、それがロンガへの街道になる。このキャドラより奥はもう街道とは言えず。魔法使いが棲みつくドラゴニアの南部になっている。

町の入り口辺りで加須はユリトスに言った。

「ここは素通りして、ドラゴニアに発ちましょう」

「なぜだね?」

「この町にはアトリフと恐ろしい伯爵がいます」

「恐ろしい伯爵?」

「はい」

「そう言えば、あなたはこの町から逃亡したと言ったな?」

「はい、それは恐ろしい伯爵で、少年を玩具にして虐待して挙句には殺して焼いて灰になった骨は庭に埋めてしまうんです」

「それはあなたが見たことなのか?」

「いえ、でも、絶対そうです。その伯爵の屋敷に入ったときに直感しました」

「ふむ。じゃあ、その伯爵の家に行ってみよう」

「ええ?殺されに行くんですか?」

「私たちがみんなで行けば怖くなかろう」

「まあ、そうですけど」

一行は町に入った。彼らが入った町の入り口は南西の高い場所にあり、そこから一度下り坂を歩いて、街道に出て、その街道を北へ歩けば街並みの中に入る。

段々畑の間を、五味たちは下った。段々畑では今が収穫時期だと思われる茶の葉を摘む農業者がいる。その中のひとりの男が五味たちに声を掛けた。

「あれ?ガンダリアの国王、お?バトシアの国王、え?ユリトス、みんなお揃いでご到着かよ」

その農夫は畑から出て、道に降りた。

「おい、ひさしぶりだな」

「ラレン!」

五味は身構えた。ユリトスは馬を停めた。

「おお?カース王、ご無事でしたか?」

加須は怯えている。

ユリトスは言う。

「ご無事でしたか、だと?おまえが誘拐したおかげで、この方はこの町を怖れているのだぞ」

「それはすまなかったな。まあ、過去のことだ、水に流してくれや」

「おまえはここで何をしている?」

「見ればわかるだろう?茶摘みさ」

「なぜ、茶摘みを?何か企みがあるのか?」

「ねーよ、そんなもん。俺だって真っ当な仕事くらいするさ。今は賞金稼ぎの仕事もないしな。こんな田舎じゃすることも他にない。だから農家の手伝いよ」

「ずいぶん、のんびりだな?」

「いや、アトリフは焦っているみたいだぜ」

「アトリフが?」

「五人衆に集合を掛けたのにまだ俺しか来ていない。南からはソウトスの軍勢が来ている。アトリフはソウトスが来る前にドラゴニアに発ちたいそうだが、残りの四人がまだだからな。俺なんかは気楽なもんさ」

「アトリフがドラゴニアに行こうとする目的は何だ?」

「知らねえよ」

「知らないのにおまえはついて行くのか?」

「ああ、そうだよ。あの人の行く所にゃ、必ずカネと面白い人生が待っているんだ」

「面白い人生?」

「おまえらの存在も俺の人生を面白くしてくれてるぜ。そこのカース王を攫って来たときの、追っ手から逃げるスリル、最高だったよ」

「貴様、カース王がどれだけ怖い思いをしたかわからないのか?」

「それは俺の知ったこっちゃねえ。それはカース王の人生だ」

ジイは言う。

「なにを訳のわからない理屈をこねおって、わしが斬り捨ててやろうか」

ポルトスがジイを止める。

「じいさん、俺がやるぜ」

ユリトスがポルトスを止める。

「やめんか、無駄な殺しはいかん」

ポルトスは納得がいかない。

「こいつは国王を誘拐した奴ですよ。死刑でしょう?」

ユリトスは加須に訊く。

「カース王はこのラレンを死刑にしたいと思いますか?」

加須は小さい声で答える。

「罰は与えて欲しいけど、死刑はよくない」

ラレンは笑った。

「偉い国王だな」

「ラレン!」

ユリトスは言う。

「おまえは殺されてもおかしくない犯罪者だぞ。私も本来なら殺す所だが、王の意志により殺さない。だが、今度同じような犯罪を犯したら、私が斬る」

ラレンは言う。

「あなたにそうする法的根拠があるのかね?」

「ない、一剣士として斬る。ドラゴニアに行けば、ロンガの法は通じないからな」

「はは、その言葉そっくりお返しするぜ」

そう言ってラレンは畑の中に消えた。

ラレンは果樹園の中を歩いて高台にあるアトリフの一軒家に向かった。

ドアを開けると、ラレンは大きな声で言った。

「アトリフ!ユリトスたちがこの町に来たぜ」

アトリフはちょうど料理をしていた。

「お、パスタかね?」

「おまえの分はないぞ、ラレン。おまえは農家で食事を頂くはずだろう?」

「いや、パスタはどうでもいいんだ。ユリトスたちが・・・」

「だからどうした?」

アトリフはテーブルにパスタを盛った皿を置いた。棚からワインのボトルを下ろした。

「いや、だからって、え?」

「あいつらは敵でもないし、もちろんだが味方でもない。もしかしたら恨みは買っているかもしれんがそれは向こうの話だ。俺たちは俺たちだ」

「まあ、そうだけどよ。あ、そうだ、さっきユリトスから訊かれたんだけどな、アトリフ、俺たちがドラゴニアに向かう目的は何なんだ?訊かれるとたしかに気になってきた」

アトリフは赤いワインをグラスに注ぎながら言う。

「ドラゴンの秘宝だ」


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