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70、エコトス

「俺は樹木の精霊だ」

「精霊?」

「人間の言葉が喋れる数少ない樹木の精霊だ。樹木は普通喋ることはできない。だから、俺が樹木の代表として人間に物申そうと思うのだ」

「人間に物申す?」

「俺は人間を恨んでいる」

「なぜだ?」

五味は言った。樹木の精霊は続ける。

「人間は木を伐り、材木にしてしまう。木を切り倒すことになんの罪も感じていないようだ」

五味は言い返す。

「そんなことはない。現代ではエコのことを考えて・・・おっと違った」

「かつて人間は森と共生していた。しかし、最近では都市を造るために木の伐採が甚だしい。森のことを考えていない。森は百年かかってできるもの。それを上回る速さで伐採して行けば森はいつか無くなる。森が無くなって、困るのは人間も含め動物たちみんななのに」

加須は言った。

「わかった。俺はロンガ王だ。山岳地帯の伐採を少なく抑えるようにする」

すると、精霊は笑った。

「くくくくく、ははははは、あっはっはっはっは。俺が樹木の精霊?信じているのか?俺はただ、この木の姿を借りている魔法使いだ」

「なに?」

太い木の幹から人のカタチが浮かび上がり、男が出て来た。

「俺は木と同化する魔法使い、同化師(どうかし)、名はエコトス。ちょっと精霊を演じてみたが、俺など樹木を利用し、賞金稼ぎをしているに過ぎない」

背は五味と同じくらいで、緑色の服を着ている。顔はずるがしそうな顔をしているがどこかに優しさも秘めている印象だ。

ユリトスは訊いた。

「賞金稼ぎ?まさか、おまえはアトリフ五人衆のひとりか?」

「ああ、そうさ。詳しいな」

「集合が掛けられているというが、行かないのか?たしかキャドラという町だ」

「行くさ。行くけどな。俺は森が好きなんだ。さっきは樹木の精霊を演じてみたが、たしかに樹木の心がわかったような気がする」

「おまえは木に同化できるのか?」

「ふふふ、木なら何でも同化できる。材木にも、つまり木造家屋にも同化できる」

「ということは、木造家屋に入り込んで盗みを行うなどお手の物か?」

「おおっと、誤解だ。俺は賞金稼ぎで泥棒じゃない。賞金稼ぎはあくどいこともするが合法な商売だ」

「では訊くが、ここで何をしている?」

「木と同化してたんだ」

「そうではない。なぜ、我々が通るここで同化していたのだ?」

「そりゃ、木と同化するってのは気持ちのいいものでな。体中が癒される。栄養も取れる。だから、俺は木さえあればどこに行っても食料が尽きても木と同化することで栄養は得られるというわけだ」

「では、おまえは木と同化できるその能力を買われアトリフ五人衆になったわけだな」

「まあ、そんなとこだ」

「しかし、ここはまだロンガ、ドラゴニアではないだろうに魔法使いが多いな」

「当然さ、ドラゴニアとは地続きだ。ドラゴニアとロンガに明確な国境線などないぜ。ま、ロンガの政府が勝手に境界線を決めているならば別だがな」

「おまえドラゴニアには行ったことがあるのか?」

「行ったも何も、俺はドラゴニア出身だ」

「ドラゴニアに関することで知ってることを教えてくれ」

「何か、ドラゴニアで知っていることぉ~?」

「ロンガ、ガンダリア、バトシアの三国の国王夫妻の同時失踪事件のことを知りたいのだ」

「それは聞かれては困る。たぶん、召喚師を疑っているのだろう?」

「察しがいいな」

「ドラゴニアは広大だ。ロンガ、ガンダリア、バトシアはロガバと呼ばれる小さな半島で、ドラゴニアのほんの一部に過ぎない。この世界には北方人と南方人に分けられる。北方人は魔法を使う人種で、南方人は使わない人種だ。おまえたちは南方人ということになる。ロガバ三国のもんは知らないだろうが、海の向こう南の空の下にはおまえたちと同じ南方人の住む土地があるらしいぜ」

そのとき割り込むようにしてブスなオバサンの姿をしたナナシスが言った。

「エコトスさん、ドラゴニアに変身師はいますか?」

「あんたは?」

「変身師のナナシスです」

「生まれは?」

「カードックの町です」

「南方人に育てられたのか?」

「それがよくわからねえんだ。俺は幼い時に、変身したら元に戻れなくなってしまった。魔法が遺伝ならば両親も魔法使いということになる。だが、俺の知る限り両親が魔法を使ったことはない」

「じゃあ、なぜドラゴニアに?」

「自分探しさ。俺は目の前の人間にしか変身できない。ドラゴニアに行けば本当の自分が見つかるかもしれない」

エコトスはナナシスとの会話は終わったと見て言った。

「ところでその少年三人、もしかして、ロガバ三国の王ではないか?」

ユリトスは答えた。

「そうだ」

そして、エコトスはこう言った。

「ロガバ三国の王家にはドラゴンの血が流れているとか・・・」



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