64、歓び
加須も歓びを爆発させた。
「五味!ようやく会えた!九頭は?」
九頭の声が湯煙の中からした。
「加須、俺の背中も流してくれ」
「やだよ、自分で流せ」
「おまえ、三助なんだろ?」
「もう、終わりだ、俺はまたロンガ王カースに戻る」
「ははははは」
三人は笑った。
五味は快活に言った。
「おい、加須、この風呂のその仕切りの向こうは女風呂だろ?」
「まあそうだ」
「覗き方はあるか?」
五味がそう言うので、九頭は笑った。
「向こうにいるのはアリシアとラーニャだろ?」
五味は言った。
「おまえら、あいつらの裸、見たいと思わないか?」
「「思う」」
加須は言った。
「俺、この仕事していてそんなこと考えもしなかったけど、たぶん覗き穴とかはないぜ」
五味は言った。
「じゃあ、肩車だな。加須おまえのほうが九頭より背が高いからおまえが下だ」
「ええ?」
「まずは俺から覗く」
五味は加須の肩に乗った。加須は不平を言う。
「おい、五味、おまえの股間の柔らかいもんが、俺の項に当たってるんだけど」
「そんなの気にするなよ」
五味は女湯を覗いた。すると、目の前にタオルを体に巻いたラーニャがアリシアに肩車していて、五味の顔を思いっきり殴った。
「全部、聞こえてんだよ、スケベども!」
五味と加須は思いっきり後ろに転倒し、そのうち上に乗っていた五味は後頭部を打って意識がなくなった。
五味は夢を見た。
いや、現実だったのかもしれない。
自分たちが受験の邪魔をした、優等生男子出木杉は進学校に進んで授業を受けていた。そして、下校時は美好麗子と自転車を並べて楽しそうに走っていた。
五味はそれを見ながら、商店街に向かう。そこにはパン屋があって、五味はそのパン屋から出るパンの耳を貰って、そこのイートインコーナーで無料で飲めるインスタントコーヒーにパンの耳を浸しながら、美味いうまいと食べている。食べ終わると、公園に行き、遊具のトンネルの中で段ボールにくるまって寝る。
そして、眼が覚めると、目の前に自分の顔を覗き込むジイの顔があった。
五味は「また転生したのかな?」と思ったが、ジイの周りには九頭も加須もいるし、ユリトスたちもいた。
「ここは?」
「温泉宿の客室でございます」
とジイが答えた。
「俺は夢を見ていたのか?」
「夢?」
ジイが訊いた。五味は天井を見て言った。
「俺が乞食になっていた夢だ」
ジイは笑った。
「それは王子と乞食の話ですな」
加須が反応した。
「え?この世界に『王子と乞食』という話があるの?」
「ありますとも、ウェインの書いた小説です」
「ウェイン?マーク・トウェインじゃなくて?」
「マーク・・・誰ですか、それは?」
「いや、なんでもない。こっちの話だ」
「ウェインは先代の王が大変気に入っていたガンダリア王国の大作家です。ロンガやバトシアでも買うことができたと思いますが、両陛下はまだお読みになっていないのですか?」
九頭も加須も、「まだ読んでいない」と答えた。仮にそれが前世の世界で流通していた、マーク・トウェインと同じものだとしても、読書習慣のない九頭や加須が読んでいるはずがなかった。無論、五味もそうだった。
五味は言った。
「俺は王でなかったら、何者だろう?ただのダメな人間じゃないか?前世でもこの世界でも。出木杉・・・悔しいな」
五味の中で初めて、優秀な人間を貶めるという発想ではなく、自分も頑張りたいという思いが起こった。
その後、みんなで旅館の料理を堪能した。加須も食事に加わった。ユリトスが女将のユバラと交渉して、加須の身を引き受けた。その際、たっぷり、カネを取られたようだった。
その夜、五味、九頭、加須の三人は部屋を抜け出して、女子の部屋のドアを叩いた。
加須が言った。
「えー、ベッドメイクに参りました」
すると中からラーニャの声が聞こえた。
「なんで、こんな夜中にホテルの従業員が客のいる部屋のベッドメイクに来るのよ。バカじゃない?どうせ、そこに三人いるんでしょ?スケベどもが。帰れ帰れ」
三人は項垂れて、ジイがひとりで眠っている四人部屋にすごすごと戻ってそれぞれのベッドに入った。
翌朝、ユリトスは加須のために馬を買った。
馬は値が高い。五味たちの前世で言えば自動車を買うのに相当する。しかし、国王の旅ということで資金は潤沢にあった。
一行は馬に乗り北へ向かい出発した。次は、アラカンガという町だ。カードックの町から加須がラレンに攫われて通ったはずの道と、ボルメス川を北上する道の合流するところにある。




