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63、老舗旅館

老舗旅館の馬小屋に一行は馬を繋いだ。

受付に老婆がいた。

「十人泊まりたいのだが?」

ユリトスはそう言うと、老婆は言った。

「九人ではありませんか?」

「なに?」

「いえ、私が数えると九人に見えますが」

「どうしてそうなるのだろう?」

ユリトスは指を差して数えた。

「やっぱり十人だ」

「そちらの背の高い剣士の方を数えていらっしゃるなら、その方はもう受付は済ましてあります」

ユリトスは気づいた。

「その男はザザックという名ではないか?」

「はい、左様で」

「ここにいるのは、その男の姿を借りているニセモノだ」

「はあ、ニセモノ・・・」

「魔法使いだ。わけあってこういう姿をしている」

「わかりました。いや、よくわかりませんが、十人分お代は頂戴いたします。お部屋は四人部屋が三つでよろしいでしょうか?」

「うむ」

「この宿は温泉宿でして、大浴場がございます。このロビーから階段を降りた所にあります。ご自由にお使いください」

十人はそれぞれの部屋に案内された。

「さっそく大浴場に入ろうか」

ユリトスは笑顔で言った。

部屋には貴重品の見張にジイを残した。隣の部屋はアラミスが残り、その隣はオーリが残った。コインロッカーなどないし金庫もない世界だ。

五味たちが男湯に入ると、湯煙で濛々(もうもう)として、視界がほとんど見えなかった。

浴槽に先客がひとりいた。それはザザックだった。

「おう、これはこれは世界最高の腰抜け剣士殿」

ユリトスは無視した。

ザザックは言った。

「おや?そこにいるのは逃げ出したばかりの俺の弟子じゃないか」

九頭は答えた。

「もう弟子じゃない」

「ははは、国王だとでも言うのか、人も殺せぬ腰抜けが」

「それは腰抜けとは言えない」

九頭がそう反論すると、ザザックは笑って言った。

「あのときのおまえが腰抜けじゃないなら誰が腰抜けなのだ」

「俺は平和主義者だ」

九頭は言った。ザザックはまた笑った。

「ははは、俺に守られていたからそういうことが言えるんだ。戦えない奴は平和のために殺されるがいい。臆病という名の平和主義を背負(しょ)ってな」

ザザックは風呂から上がった。

「おい、ナナシス、いい加減に俺の姿をやめてくれないか?おまえも臆病者だとしたら俺の名に傷がつく」

「安心しろ、俺は臆病者ではない」

「そうか」

ザザックは出て行った。

洗い場で、五味たちは体を洗った。そのとき、三助が入って来た。

ユリトスの後ろに立って彼は言った。

「お背中を流しましょうか」

「うむ、頼む」

三助はユリトスの背中を擦って洗い流した。

五味も言った。

「おい、三助さん、俺の背中を流してくれ」

「はーい。ただいま」

五味は三助に背中を流されながら言った。

「ああ、昔の日本にはどこの風呂屋にもそういうサービスがあったんだろうな。まさか、こっちに来て、こんなサービスを受けるとは思わなかったよ」

「日本?」

三助は言った。

「もしかして、おまえ、五味か?」

五味は自分の前世の名前を呼ばれてぎくりとして後ろを振り返った。

「おまえは・・・」

湯煙の中に三助の顔が現れた。

「加須!なにやってんだ、おまえ、こんなところで!」

五味は笑顔になった。

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