60、師弟関係
「クーズ?」
五味は喜んで声を上げた。
「クーズが来たのか?」
「お客さんはあのふたりを知っているので?」
ユリトスは訊いた。
「おやじ殿、そのふたりはどのような特徴があった?」
「はい、大人のほうは、まあ、賞金稼ぎのようで、体格はよく、無精ひげを生やした、風来坊の剣士といった感じで・・・」
そのとき、主人はナナシスを初めて見た。彼はザザックの姿をしていた。店内は薄暗かったので端の席にいるナナシスの顔がよく見えなかったのだ。
「ひえっ、え?どういうことです?なぜ、あなたがここに?お仲間ですか?え?なぜ?」
ユリトスは訊いた。
「この男がその賞金稼ぎか?」
「はい、まさにそうで。いや、ええ?」
「驚くなよ、おやじ殿。この男は魔法使いでその賞金稼ぎと同じ姿をしているんだ」
「へ?へい」
「とにかくその賞金稼ぎはこういう男だったんだな?」
「は、はい」
「では連れていた少年の特徴を教えてくれぬか?」
まだ、事態が飲み込めない主人はしどろもどろに続けた。
「少年の方は背が低く、少し太っていました。私は窓から、その、そこにいるお方が戦うのを見ていましたが、強いのなんのって、そのいっぽうで、少年の方は腰を抜かして、独りも殺せず、足を引っ張っていました」
五味は確信した。
「九頭・・・クズリスだよ。絶対に。それしかないよ、そんなに情けないチビデブは」
ジイは言った。
「じゃあ、もうひとりの賞金稼ぎとは?」
「もちろん、ザザックだ!」
五味は言った。
「昨晩、俺が外でオ〇ニーをしようと思ったら、現れたんだ。俺はてっきりナナシスかと思っていたら、本物のほうだった。隣に寝た。朝起きたらいなかった」
「なに?それは本当か?」
ポルトスが言った。
「しかし、ザザックが賞金稼ぎをしているのはわかるが、なぜそこにクーズ王がいる?軍隊に連れられているのではなかったか?」
「でも、チビでデブで臆病なクーズと言ったらこの世界にひとりしかいないよ」
五味が言うと、アリシアが言った。
「どうして、またザザックと?」
アラミスは言った。
「また、ザザックが軍隊から誘拐したのか?」
すると、店の主人が言った。
「誘拐?その男が、あの少年を誘拐したと言うのですか?」
「じゃあ何なんだ?」
アラミスは主人のほうを見た。主人はこう言った。
「私が見たところ、むしろ師弟関係にあるような感じでした」
「師弟関係?」
ユリトスは厳しい眼をした。
主人はまだナナシスを信じられないように見ていた。
「このお方が、その・・・賞金稼ぎのお方なのでは?」
ナナシスは言った。
「俺はそいつの姿を借りている変身師の魔法使いだ」
「はあ、私は魔法使いを見るのは生まれて初めてですので・・・すみません」
五味は拳を固めて言った。
「じゃあ、九頭・・クズリスがザザックといるのは確定だね!」
夕食は、ポトフだった。
五味、アリシア、ラーニャ、ナナシスは酒を飲んだ。
ラーニャはユリトスたちに訊いた。
「ユリトスたちは酒を飲まないのかい?」
ユリトスは答えた。
「戦士とはいつ敵が来てもいいように備えておくものだ。酔ったところを襲われ殺されたら恥だ」
ジイは大きく頷いた。ラーニャはグラスを傾けゴクリと飲んだ。
「ふ~ん、つまんない。あれ?オーリも飲まないの?」
「私はお酒は苦手なの」
「ふ~ん、つまんないわね」
ジイは言った。
「しかし、今日の昼にここにいたということは、まだ近くにいるということですな」
ユリトスは頷いた。
「うむ、どうせ、北上するしか道がないのだ。おやじ殿」
店の主人は答えた。
「この村に宿はあるか?」
「ありません」
「では、この食堂に泊めてくれぬか?なに、屋根と壁があればよい。床に寝る」
「かまいませんが・・・」
こうして、一行はこの村の居酒屋に泊まった。
その頃、次の村の宿に泊まっていたザザックの部屋に窓から一羽のカラスが入って来た。
九頭はカラスが入ってきたことに興奮したが、ザザックはいつものことであるかのように、テーブルの上に止まったカラスの足に括り付けられた手紙を取って読んだ。
「ラミナからだ。ほう、ユリトスたちが今日俺たちが山賊を殺した村に泊るそうだ。近いな」
それを聞いた、九頭は喜んだ。
「助かる可能性がある。また、五味たちに会える。加須はどうなったんだろう?」
九頭はザザックが隣のベッドで眠って一時間くらい経ってから、起き出して、宿の外へ出た。
外は月明かりで明るい。九頭は元来た道を南に向かって走った。
ザザックは眼を開けて言った。
「やはり行くか。短い師匠経験だったな」




