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54、カラスの家

ソンガの町で山賊たちと戦った翌朝、ユリトスたちは北へ向かうため、馬上の人となった。

ソンガの町をあとにした一行は街道を馬でポッカポッカと歩いた。

ユリトスは後ろで馬の背に揺れるザザックの姿のナナシスを見て言った。

「ナナシス」

「なんだい?」

「念のため訊いておくが、昨日の夜、我々を助けて山賊どもをひとりで殺したザザックはおまえではあるまいな?」

「まさか、俺にそんな武力はないよ」

「だろうな」

「だろうなとはひでえな」

「ははは、しかし、その変身の能力は素晴らしい」

「だ、だろ?」

「ゴーミ王に化けたらいい影武者になるのだがな」

「ゴーミ王の代わりに死ねと言うのか?」

「ははは、冗談だ。今はいつでもゴーミ王に会える。すなわちいつでもゴーミ王に変身できるのだろう?」

「まあ、そうだけど」

「しかし、ザザックとはいつ会うかわからない。しばらくはザザックの姿でいてもらおう。何かの役に立つかもしれん」

「どう役に立つんだろうね?」

「それはわからん、む?」

「どうしたんだい?」

「あれはロンガ軍の最後尾ではないか?」

前方に歩兵隊が歩いているのが見えた。

「ということはあの軍団の中に国王代理のソウトスとバトシアのクーズ王がいるというわけか。おい、ナナシス。おまえはクーズ王の身代わりになる覚悟はあるか?」

「ないね。俺はな、あんたらと行動を共にしているが、べつにクーズ王やカース王を救うために犠牲になろうとは思わない。俺は自分の魔法使いとしてのルーツを知りたくて旅をしている」

「ならば一人旅をすればよいではないか?」

「怖いんだよ。ドラゴニアにひとりで行くのが」

「なんだ、私たちに護衛して欲しいのか?」

「う、まあそうだ」

「じゃあ、協力してくれるだろうな」

「でも身代わりとかは御免だぜ」

「少し作戦を考えながら行こうか」

「俺が身代わりに死ぬなんて作戦は絶対に立てるなよ」

「わかっているさ」

五味は馬に揺られながら、またスケベなことを考えていた。

「昨日の夜は、良かったな。女子の寝室。ハーレムの経験は置いておくとして、俺は小学校も中学校も修学旅行で活きのいい奴らみたいに女子の部屋に入る勇気はなかったからな。俺、意外とこの世界に来て成長してるかも」

女子部屋に入ることが成長なのかは知らないが、五味の基準では成長なのだろう。そういえば五味たち三人は人生の表舞台に立ちたくて、前世では出木杉という優等生男子を貶めるという間違った行動に出たのだが、転生後のこの世界では少なくとも自分のために生きている。誰かを貶めるためにすべてを捧げるというアホなことはしていない。もっとも王として転生したのだ。最初から人生の表舞台どころか国の顔となっていたのだからそこから逃げ出した五味たちはやはり器が小さかった。

五味はまた性懲りもなくエロい妄想に遊んでいた。

「パジャマのオーリは良かったな。ポッチャリだけど彼女は清潔感がある。アリシアは一番セクシーな体を持っているが、清潔感ではオーリに劣る。いや、これは俺との出会いがトイレだったからそう感じるのだろうか。う、思い出してきた。トイレの配管を登ったら、出口にアリシアのお股があった。やべ、立って来た」

こんな変態なことを五味が考えているあいだ、ユリトスは真剣に九頭を救うことを考えていた。

「よし!」

突然、ユリトスは声を上げた。

「なんか、名案が浮かんだのかい?」

「ナナシス、おまえはこの軍団の前のほうに行って、クーズ王を見たら彼に変身するんだ。それで、私たちは本物のクーズ王を連れて逃げる」

「で、俺はどうなる?」

「自分で逃げてくれ」

「いや、それはおかしいだろう?結局、俺が痛い目に合うじゃんか」

「クーズ王は自分で馬に乗れないはずだ。おまえなら馬を駆ることができる。とにかく軍隊の一部を混乱させるんだ。場合によってはおまえがソウトスに化けてもいい。この街道を長く(たて)に伸びた隊列だ。横からの攻撃は弱い。我々は街道を進まずに、横道に逸れる。そうだ、おまえはソウトスになってニセの命令を出すんだ。そうすれば軍隊は混乱する」

「その混乱に乗じて俺も逃げろと?」

「そういうことだ」

「まってくれ、それじゃ、俺が危険すぎる。もし、俺が捕まったら助けてくれるか?」

「わかった、作戦を変えよう」

「なんだ、もう変えるのか」

「今言ったように街道を隊列を組んで前後に長くなった軍隊は横からの奇襲に弱い。まさにそれをやろう・・・いや、まて」

「今度は何だい?」

「やっぱり、クーズ王はこのままロンガ北方まで軍隊に護衛させて行こう」

「え?さっきから作戦が転々と変わるな」

「私は初め、クーズ王が軍隊に捕らえられていたとき、これでしばらくは彼の安全は保障されると考えた。それは間違っていない。クーズ王を取り返すのはいつでもいい。それよりも先にこの軍隊を追い越して、カース王を救いに行こう。彼のほうがアトリフという何をするかわからない男のもとへ攫われていて危険だ」

ユリトスは後ろを振り返って言った。

「ポルトス、アラミス、みんな、今から我々は横道に逸れ、森の中を歩き、大きく迂回して軍隊を追い抜く」

「九頭は、クーズ王はどうなる?」

五味が訊いた。

「カース王を取り戻してから、助ける。まだドラゴニアまでは長い。チャンスはいくらでもあるだろう。だが、今はそのチャンスではない」

一行は横道に逸れて森に入った。

道は森の中を続いていた。森は暗かった。次第に道が道でなくなってきた。草をかき分け進まねばならなかった。

ユリトスは懐からコンパスを出して見た。

「む?」

コンパスの針はくるくると回転している。

「まずい」

「どうしました?」

ポルトスが訊いた。ユリトスは答えた。

「この森は、コンパスが狂ってしまう森のようだ。まずいぞ。北に向かうのだからコンパスが北を指すほうに進めばいいと楽観していたが、コンパスが狂うとは」

「どうします?引き返しますか?」

ユリトスは上を見た。樹木で枝が空を隠している。これでは日の沈む方角も、日の昇る方角もわからない。

「いや、引き返してもそれが安全とは限らない。進もう。そして、一夜を明かしたら、空を見て、もし、日の昇る方角がわかればそちらを右にして進めばいい。無謀だが他に進む道はない」

そして、しばらくすると広場に出た。そこに一軒の家がある。周りは広い草地で、空もしっかりと見える。

「しめた、家だ。誰かいるだろうか?それに空も広く見える。よかった」

ユリトスは安堵したようだ。

五味は家を見て、「まるで魔女の家だな」と思った。カラスがたくさん屋根に止まっている。

ユリトスは家のドアを叩いた。

「ごめんください」

返事はなかった。

ユリトスは周囲を見た。日が暮れ始めている。

「テントを張ろう」

とそこへ、森の中からひとりの少女が現れた。

両肩にカラスを乗せている。

ユリトスは彼女に言った。

「この家の方ですか?」

彼女は答えた。

「はい」

そして、ナナシスを見て言った。

「あれ?ザザック?」

ナナシスは困った。こんな少女がザザックを知っている。知り合いを騙せるほど、ナナシスはザザックについて知らなかった。

ユリトスは訊いた。

「ザザックとは知り合いなのか?」

少女は肩のカラスを撫でて答えた。

「ええ。仲間ですもの、一応は」

「仲間?もしかして、君はアトリフの仲間ということか?」

「アトリフ?ザザック、あなたはこの人たちにどこまで話したの?」

ナナシスは困った。何も言えなかった。

「あなたがたは何者なのですか?なぜ、ザザックと一緒にいるのです?」

ユリトスもう正直に言ったほうがいいと思った。

「お嬢さん。私たちは北のドラゴニアを目指して旅をしている一行です。このザザックは魔法使いが化けているだけでザザックではありません」

「え?ザザックではない?あら、私はそれも見抜けないだなんて、またお兄様に叱られるわ」

「お兄様?」

「ところであなた方は旅のお方とはわかりましたけど、それでは何者かわからないわ。魔法使いを連れているなんて。もう少し自己紹介してください」

ユリトスは言った。

「すまなかった。私はユリトス、そして、弟子のポルトスとアラミス。それとゴミトスとジイ、アリシア、ラーニャ、オーリだ。それから魔法使いの変身師ナナシスだ」

「そう、名前だけで自己紹介と言えるかどうかは知らないけど、まあいいわ。魔法使いのナナシスね。覚えたわ」

「君は?」

「私はアトリフの妹、ラミナ」


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