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52、貴族の屋敷

ここはロンガ北方山岳地帯の町キャドラ。

そこの高台にある一軒家で椅子に座った赤い髪の男がラレンに向かって怒鳴っていた。

「おい、ラレン、俺がカース王を欲しいといつ言った?」

「すまん、アトリフ、あんたが喜ぶかと思って」

「俺は集合を掛けただけだ。物を持って来るならばいい。しかし、人間を持って来るとは、おまえ、人間は腹が減る、眠くなる、小便も糞もするんだぞ。めんどくさいだろう?わかるか?」

加須は椅子に縛り付けられている。もはや怯えを通り越して絶望した顔をしている。

「でもよう、アトリフ、こいつはこのロンガの王だぜ?政府に売れば高く売れるに決まってら」

「何度も言わせる気か?俺がカース王を欲しいといつ言った?もういい。まだ、全員集合するまでには日数がかかりそうだ。ラレン、おまえはこのカース王を売って来い。半分は俺によこせ。半分はお前の好きにしろ」

「ありがとうよ、アトリフ」

ラレンは加須の縄を解いた。

「ほら、立て」

加須は立ち上がった。

しかし、加須はもう人間としての自信を失っていた。元々、自信がない最低な十五歳だったが、ここに来て、誘拐されてばかりで、自分を物として扱われることに慣れてしまい、意志を持った人間であることを忘れていた。

「ほら、歩け」

もう両手両足の縛めを解かれているのに、加須は体中が縛められていると感じていた。もう自分には自由がないんだと感じていた。

家の外に出ると、キャドラの町が眼下に広がっていた。山岳地帯の小さな町だ。深い谷底には川が流れている。

「俺をまた売るのか?」

加須は弱々しい声でラレンに訊いた。

「ああ、売りたいんだがな。誰がおまえを高く買ってくれるかわかんねえんだよ。こんなド田舎っていうか、辺境で売れるのかな?誰がおまえをロンガ王国の国王だなんて信じてくれるだろうね。へっ、誰も信じねえよな。単なる労働力として売るか。あるいは金持ちのオバサンに性の奴隷として売るか、そんなオバサンもこの辺境にはいねえか。そうだ、この町を支配している田舎貴族に売るか。そいつが一番カネになりそうだ。いや、もしかしたらカース王の顔を知っていて、王として高く売れるかもしれないぞ。いや、高くっても田舎貴族の懐がどれほどの大きさかわからねえけどな」

ラレンは人生に絶望している加須を連れて、その辺境の町の別の高台にある貴族の屋敷に向かった。

「おい、ここはキャドラの町を治めるデボイ伯爵の家だ。おまえをカース王として売る。相手がおまえを王と認識してくれるかどうかで俺の稼ぎが決まるんだ。王らしくしろ、背筋を伸ばせ!」

その高台にある伯爵の家の門前に着いた。屋敷はレンガとその上にある鉄格子の壁に囲まれていて、糸杉に囲まれた芝生の庭がある。その奥に大きな白い建物がある、門の横には門番の小屋がある。

「おい、門番、売り物がある」

ラレンがそう言っても小屋の中からは反応がない。

ラレンが小屋を覗くと、白い髭を蓄えた六十過ぎの汚い身なりをした男が昼寝していた。

「おい、寝てるなよ。お客だぞ」

門番の男は「ふわぁああ」と欠伸(あくび)と伸びをした。

「なんだい?売り物?商人かい?」

「そうだ」

「売り物はなんだい?馬かい?羊かい?それとも山羊かい?」

「人間だ」

相手は驚いて窓の外に首を出した。

「まだ、子供じゃねえか。おまえ、人攫(ひとさら)いかい?」

「バカ野郎、俺はその人攫いからこの子を取り戻した功労者だぞ」

「へえ、そうなの。だからってこの子がそんな高値で売れるかね?」

「おまえは田舎もんだから知らんかもしれないが、この子はロンガ王国国王カース様だぞ」

一瞬、門番は黙った。

そして、腹を抱えて笑った。

「ぎゃはははは、なんでカース王がこんなキャドラの田舎にいるっちゅうんだよ。いるわけないだろう?」

「だから、人攫いがこっちまで連れて来たのを俺が助けたんだ」

「誰がそんな嘘を信じるっちゅうねん。あんたアホか?キチガイか?ぎゃはは」

すると庭のほうから上品な男の声がした。

「どうした?モロス?誰かお客か?」

モロスと呼ばれた門番は急に背筋を伸ばして敬礼した。

「はっ、これは旦那様、只今、このキチガイが、カース王をお連れしたとほざいているのでございます」

「ほう、カース王を?」

「まったく世間知らずのキチガイでして・・・」

「うん、たしかにカース王だね」

「そのキチガ・・・はぁ?」

門番モロスは顎が外れたように開いた口がふさがらなかった。

伯爵は穏やかに言った。

「お客さん、この方を私のところに連れて来た理由を聞かせてくれないか?」

ラレンは答えた。

「あっしはこの男を山の中で見つけました。人攫いから攫われたカース王に人相がそっくりでしたので取り返してきました。まあ、人攫いから人攫いをしたわけですから、いや、あっしは自分の正義感で・・・」

「一千万ゴールドでいいかな」

「は?」

「すまない。私はカネがない。田舎の貴族でね。国王のように懸賞金何億ゴールドとは出せないんだよ。すまないね」

「いえいえ、とんでもない」

デボイ伯爵は懐から金貨を数枚取り出して、ラレンの掌に載せた。

「これは手付金だ。まとまったお金は今度取りに来なさい。名前は?」

「アレンです」

「アレンか。ではアレン、数日以内に一千万ゴールド用意しておく、数日後に取りに来なさい」

「はい」

ラレンは回れ右して元来た道を下って行った。

屋敷の門は開かれ加須は中に招き入れられた。


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