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47、軍隊の行進

エンガの町では、まだジイたちはユリトスに言われたように彼らの帰りを待っていた。

そこへ、南の王都から老兵ソウトスを大将にして大軍団がやって来た。軍勢は一晩、エンガ周辺に泊まった。

そして、翌日には、軍勢は北へ向けて出発した。

アリシアたちは町の街道沿いで、その様子を見送っていた。

すると、老兵ソウトスの馬の後ろに、九頭が馬を引かれて乗っているのに気づいた。

「え?クーズ陛下?なんでここに?ザザックに攫われて行ったんじゃないの?え?それともまたナナシスが化けているとか?」

そう言っているアリシアの後ろで男の声がした。

「それはないな。俺はここにいる」

アリシアが振り向くと、そこにはザザックがいた。

「え?あんた、誰?え?もしかして、ナナシスなの?」

ザザックは言った。

「おまえら、この姿を見て驚かないということはザザックの姿を知らないな?」

「え?ザザックって、クーズ陛下を攫った奴じゃ・・・」

「俺は今、そのザザックの姿を借りている」

「どういうこと?ザザックはクーズ陛下を抱えて北へ向かったと聞いたけど」

「それが違うんだな。ザザックはクーズ王を捕らえて、王都の売春宿に隠れていたんだ。それでカース王、つまり俺に身代金を要求して、あのカネと引き換えにクーズ王の身柄を解放した。そして、ザザックは北へ逃げたのさ」

「で、あんたは?」

「俺はザザックの姿になってザザックと共に北のこの町に来た。今、ザザックは宿で寝てるよ」

「なに?あんたが言うとよくわからない。つまり、あんたと同じ姿の男がこの町にいるのね?それがザザック」

「そういうこと」

すると、ジイは街道を行く軍勢の横を走って、老兵ソウトスに声を掛けた。

「すまん、待たれよ、すまん」

ソウトスには聞こえなかった。

ジイはあらん限りの声で言った。

「待たれよ、ソウトス殿!」

ソウトスは気づいて振り返った。

「そなたは、おお、ガンダリアの侍従長か?」

「そうです、しばし待たれよ」

ソウトスは号令を出した。

「止まれー!」

軍隊は停まった。

九頭はジイに気づいた。

「おお、ジイさん!」

ソウトスは言った。

「侍従長殿、そなたはユリトス殿たちと一緒ではなかったのか?」

ジイは事の顛末を伝えた。

ソウトスは頷いた。

「そうか、つまり、ユリトス殿たちはここへ戻ってくるのだな?」

「はい、そうです」

ジイは言った。

「ところで、ソウトス殿はこれだけの軍勢を率いてどちらまで行かれるのです?」

「カース陛下をお迎えし、さらにドラゴニアまで攻め入ってみようかと思っておる」

「え?ドラゴニア?なぜ?」

「ロンガ王国にとって、宿敵はガンダリアでもバトシアでもない、ドラゴニアの魔法使いたちだ。奴らに怯えてわしらは日々暮らしてきた。だから今回、陛下を取り戻すため北へ向かうことはひとつの機会と捉えた。ドラゴニアの一部でも切り取ってみようと思うのじゃ」

「それは無謀では?」

「まあ、とにかく第一の目的はカース王奪還じゃ」

そこへオーリが来て言った。

「大将様、私たちにクーズ陛下をお預けください」

「なに?」

「クーズ陛下は私たちの旅の仲間です」

「仲間?その仲間をザザックに誘拐された。その身代金として、こちらは二億ゴールド出したのだぞ。それはおまえたちの王の警護が足らんからだ。今、我が国はガンダリア、バトシアと休戦中だ。バトシアの王の身柄を預かっている責任はわしにはある。このまま、軍勢と共にクーズ王はカース奪還に連れて行く」

そのとき、九頭は馬に乗ったまま、下にいるアリシアと話していた。

「おお、上から見るおっぱいの谷間、やっぱいい体だ」

などとスケベなことを九頭は考えていたが、前方で、ソウトスが自分をアリシアたちと合流させないと言っているので、驚いてそちらを見た。

ソウトスは言った。

「全軍、進め!」

ジイは(すが)りついた。

「ちょっと、お待ち下され」

「離れよ、侍従長殿!」

「離れませぬ」

するとソウトスは、ジイを足蹴(あしげ)にした。

ジイはその場に倒れた。

「あ!」

九頭は言った。

「なにをするんだ!ジイさん!」

九頭は馬を降りようとしたが、すぐに両脇に騎馬兵が来て馬から降ろさせなかった。

「この、降ろせ、降ろせよ!ちくしょう!」

軍団はそのまま九頭を連れて北へ去って行った。


その頃、ユリトスたちは同じ街道を南に向かっていた。もうすぐエンガの町という所まで来ると、前方から軍隊が来るのがわかり、馬から降りて道の脇に退いた。

すると、大将がやって来るのが見えた。それが老兵ソウトスだとわかった。そして、九頭がいた。

「む?」

ユリトスは五味を見た。五味は大声で九頭の名を呼ぼうとした。しかし、ユリトスはその口を手でふさいだ。

「静かにされよ。あなたはポルトスの後ろに隠れていてくだされ」

「なぜ?」

「見なさい。クーズ王はいやいや馬に乗せられている。この軍団は軍団である以上、どこかの国を攻めに行くのだ。この北方には魔法使いの土地ドラゴニアしかない。無謀な戦争を仕掛けようとしているかもしれない。もしここで、あなたまで、連れていかれたら、取り返しがつかないことになるかもしれない」

「そうだ、クーズはザザックに攫われたんじゃ?」

「ザザックめ、私たちを上手く騙したな。まあ、陛下はポルトスの後ろに隠れていてくだされ。絶対にソウトスに顔を見られてはなりませんぞ」

「わかったよ」

ユリトスは街道に出て、ソウトスに声を掛けた。

「閣下、お待ちください」

「む?ユリトス殿ではないか?止まれー!」

九頭もユリトスに気づいた。

「ユリトスさん!」

また例によって、九頭の馬の両脇を護衛の兵が詰め寄って九頭が馬から降りられないようにした。

ユリトスは訊いた。

「どこへ行くのです?」

「カース陛下を取り戻し、その足でドラゴニアを攻めようと思っている」

「無謀だ。おやめなされ」

「一剣士のそなたが、軍隊を止めることはできない」

ユリトスは彼の目を見た。

「この男は!」

ソウトスは言った。

「ところで、ゴーミ王はどうした?奪い返せたか?」

ユリトスは首を横に振った。

「そうか」

ソウトスは言った。

「まあ、ユリトス殿、あなたの出番はこれで終わりのようだな。ここからは軍隊の出番だ。全軍進め!」

軍隊は動き出した。九頭はポルトスたちを涙目で見下ろして、そのまま軍隊に連れていかれた。

軍隊が去って、五味はユリトスに詰め寄った。

「なぜ、無理にでもクーズを取り戻さなかったんです?」

「あの老兵の眼を見ましたか?」

「眼?」

「あれは軍人が野心に狂った時の眼だ。このロンガにバトシア国王、ガンダリア国王、そして、ラレンに攫われたカース王と三国の王がいる。その三人の運命を彼が握っていると考えたらどうです?彼はドラゴニアを攻めるなどと言っていましたが、たぶん、ロンガ、ガンダリア、バトシアの三国を統一しようと考えるでしょう。そんなとき、手元に少年の王三人がいるのは好都合でしょう?わかりますか?」

五味は静かになった。

「つまり、クーズは手元にある。カースをアトリフから取り返す。その次は・・・俺か?」

「そういうことです」

「逆に言うと、クーズ王の安全はしばらく保障されるということです。だから、我々はこのまま、エンガの町に戻り、ジイ殿たちと合流して、再び北に向かいましょう。チャンスはありますよ、必ず」


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