46、団欒
「アトス?アトスだって?」
ポルトスとアラミスは驚いた。
ジャリフは続けて言った。
「俺は剣士として、アトリフ五人衆に属していた。いや、属していたというより、アトリフに五人衆を名乗ってもよいと認められていたんだ」
ユリトスは訊いた。
「五人衆を名乗るとなにか役に立つことがあるのか?」
「俺は賞金稼ぎを生業としている。そのとき、アトリフ五人衆の名は結構役に立つんだよ。あんたが世界一の剣豪の名を利用するのと同じさ」
「なるほど」
ポルトスが訊いた。
「で、アトスとアトリフ五人衆とは何の関係があるんだ?」
「俺はアトリフに呼ばれた。そこにはアトスがいた。アトリフは言うんだ。アトスと俺とで勝負しろ、勝った方が五人衆のひとりで、負けたほうは五人衆ではない」
「それでお前はアトスに負けたんだな?」
ポルトスが言うと、ジャリフは答えた。
「そうだ、悔しいが奴は強かった。これがガンダリア三銃士かと思ったよ。そして、俺はアトリフのもとを去った」
アラミスが訊いた。
「しかし、アトリフは何で五人衆にこだわるのかな?六人衆でもよさそうなものだが」
ジャリフは嘆いた。
「もう五人衆の名は知れ渡っている。奴もそういう体裁を気にする奴なのだろうぜ」
ユリトスはジャリフに言った。
「もう一度訊くが、我々をアトリフの所へ案内してくれないか?」
「なんで、俺が。俺はもう五人衆じゃないんだ」
「それならば、我々を案内しても裏切りにはならんだろう?」
「うむ、そうだが・・・」
ジャリフの母の老婆の作った料理は美味かった。
五味とラーニャは残さず食べた。
「ぷひー、美味い。おばあさん、美味いよ」
五味は腹をさすりながら言った。
老婆は言った。
「おまえたちはどこに向かって旅をしているのだ?あんな所で野宿して、どういうつもりだ?」
ラーニャは答えた。
「あたしたちはアトリフという男を探しているんだ」
「なに?アトリフ?」
「知ってるんですか?」
「知ってるもなにも、その男はわしの可愛い息子ジャリフを奪った男だ。賞金稼ぎをしていた息子は、その世界では有名なアトリフから五人衆に入ることを勧められ、まんまと五人衆になり家を出て行った。だが、ジャリフはときどき帰って来た。そのとき、わしは嬉しくて、料理に腕を振るったわい。しかし、ジャリフは一晩泊まると出て行くことが多かった。うちを無料の宿みたいに思っていたかもしれない。ただ、わしに生活費を置いて行った。さすがわしの息子じゃ。いい加減、結婚して落ち着いて欲しいものだが」
五味は言った。
「その息子さんを連れて来て欲しいんだね?」
「おい、ゴミトス」
ラーニャは言った。
「ばあさん、あたしたちはあんたにあるのは一宿一飯の恩義だけだ。カネを払うから、そんな面倒な仕事を押し付けないでくれ。いくら払えばいい」
「百万ゴールド」
「え?」
「払えぬのか?」
「それはいくらなんでも高すぎる。三万ゴールドくらいにしてくれ」
「ダメじゃ、じゃあ、雨の中で寝るか?」
五味は言った。
「ラーニャ、息子さんを連れてくればいいだけの話じゃないか?次のソンガの町ならすぐじゃないか?」
ラーニャは考えた。
「くそ、この国王はバカなのか?自分があたしに攫われたとは考えていないのか?それに人助け?冗談じゃない。あたしはたぶんユリトスたちに追われている。一晩の宿も惜しいほどだ。なのに、このばあさんの息子を連れてくる?そんな余裕はあたしにはない。このアホな国王をアトリフに引き渡すまでは・・・いっそ、ババアを殺してやろうか?しかし、そんなことをすれば、この平和ボケの国王があたしの言うことを聞かなくなるかもしれない」
ラーニャは言った。
「わかったよ。明日、ソンガの町に行って息子さんを連れて来るよ」
「そうか、じゃあ、ベッドで眠るがいい」
五味たちに与えられたベッドは、ダブルベッドだったので、五味は興奮していた。
「ラーニャの腰、腰の括れ、顔はブスだけど、括れは一級品。それが今夜、俺のものに?悪いな、九頭、加須、俺が一番乗りだ」
しかし、ラーニャが同じベッドで眠るのは嫌がり、五味は床で寝た。
「俺、国王なんだけどな」
五味は惨めだった。
いっぽう、こちらはソンガの町の居酒屋。
ジャリフは言った。
「わかった、おまえたちをアトリフの所へ案内しよう」
ジャリフは少しだけ、ユリトスたちをアトリフの所へ案内すればアトリフは喜ぶのではないかと考えた。ジャリフにとってただの賞金稼ぎか、アトリフ五人衆であるかは、名誉の点でも大きな違いがあった。
「そのかわり、俺にはこの町から南に下ったところに独り暮らしの年老いた母親がいる。挨拶して来たい、明日半日待ってくれ」
「半日か・・・」
ユリトスは五味のことを考えた。半日でラーニャはどれだけ北に逃げるだろうか?
「よかろう、半日ならば、うむ、我々もついて行こう」
「なに?俺の母親の所にか?」
「べつにおまえの母親に会いたいわけではない。おまえが逃げないように見張るためだ」
「ふん、信用していないんだな」
「元アトリフ五人衆だからな、ラレンにはさんざん裏切られた」
「俺はラレンじゃない」
「だが、同じ五人衆だ」
翌朝、雨は上がっていた。
五味とラーニャは馬にふたり乗りして、ソンガの町に向かった。
逆に、ユリトスたちはジャリフについて老婆の家に向かった。
一行は途中で出会った。
「ゴミトス殿!」
ユリトスは喜んだ。
「ラーニャ、おまえはゴミトス殿をどうしようとしていたのだ?」
それには五味が答えた。
「俺たちは愛の逃避行をしていたんだ」
ユリトスもポルトスもアラミスも「ダメだ、こりゃ」と思った。
五味は続けて言った。
「ソンガの町にジャリフという人を探しに行くんだ」
するとジャリフは言った。
「ジャリフは俺だ」
「え?」
「おまえたちはなぜ俺を探しに行く?」
ラーニャが答えた。
「あんたのお母さんの所に泊まったんだよ。そしたら、息子を探してこいって言われた」
「そうか」
一行はジャリフの母の家に向かった。
ジャリフの母は息子が帰ったので喜んだ。
「ジャリフ、おお、ジャリフ、わしの息子。よかった、帰って来てくれた」
「母さん、ただいま。でも、俺はまた行かねばならないんだ」
「どこに?また、賞金稼ぎの仕事かね?そんなのはやめてうちで暮らせ。土地ならある。畑を耕せ。嫁をもらえ。子供を作れ。わしの孫じゃ」
「ごめん、母さん。俺はもうそういう暮らしはできない」
「なぜじゃ?そんなに賞金稼ぎは魅力があるのか?」
「うん、俺は賞金稼ぎとして名を挙げたいんだ」
「名を挙げたいならば、剣士として名を挙げればいいじゃないか?すでに国内大会で優勝しているおまえじゃ」
「剣士としてか・・・考えておくよ」
そして、ジャリフは言った。
「じゃあ行くよ」
「なに?もう行くのか?せめて、一泊して行け」
ジャリフはユリトスを見た。ユリトスは言った。
「私たちも泊めてくれますか?」
老婆は言った。
「もちろん」
その夜は、五味やユリトスたちも老婆とジャリフの食卓を囲んだ。五味はそういえば家族の団欒を感じたのは転生してから初めてだと思った。この転生後には父母はいない。ドラゴニアにいるかもしれないというユリトスの言葉から、五味はその父母に会ってみたい気もした。しかし、それ以上に転生前の家庭を思い出し、涙さえ滲んだ。
その晩、ラーニャはひとりダブルベッドに寝て、ユリトス、ポルトス、アラミス、そして、五味は床に寝た。「男女差別だ」と五味は思った。
翌朝、一行は出発することになった。
九頭はザザックに攫われて時間が経っている。加須がラレンに攫われてからも相当な時間が経っている。「急がねば」とユリトスは思った。
ユリトスは北に向かおうとした。
すると、五味は言った。
「アリシアや、オーリはどこにいるの?」
ユリトスは答えた。
「ジイと共にエンガの町にいる」
「じゃあ、戻らなくちゃ」
その言葉にユリトスはハッとした。
「そうだ、ジイたちには必ず戻るから動くなと言ってある。私は彼らが戦力にならないからと、今、捨てて行こうと思った。だが、このゴーミ国王は戦力とは関係なく彼女らを仲間だと思っているようだ。役に立たない仲間?うむ」
ユリトスは馬首を返した。
「南のエンガに一度戻ろう」
一行はエンガの町に向かって歩き出した。




