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44、老婆

ポルトスは馬を走らせながら、ユリトスに言った。

「先生、しかし、ラーニャを追いかけるならば、ザザックも追いかけるべきだったのではないでしょうか?」

「ラーニャとザザックは違う。あの男は底知れん。ラーニャはまだ子供だ。考えが浅い」

「でも、山賊の娘ですよ」

アラミスが言った。しかし、ユリトスはこう言った。

「ザザックという男、底知れんというのは、このロンガの地には奴の仲間が大勢いる可能性があると私は思うからだ。ラーニャはたぶん仲間はいない。ゴメスの残した、あまり戦力的にはたいしたことのない連中を五人衆などと言っていたところが幼い。ラーニャは眠らねばならないことを考えているのだろうか?寝ずに逃げるなど不可能だ。もちろん我々も眠らねばならない。だが、ゴーミ王は馬に乗れない。したがって、ふたり乗りをするだろう。だから、我々のほうが速い」

「なるほど」

アラミスもポルトスも頷いた。


一方こちらは逃げるラーニャ。彼女の後ろにはエロい顔をした五味が乗っていて、彼女の腰に手を回し、馬の振動を楽しんでいる。

「おい、ラーニャ」

五味は言った。

「どこまで行くんだ?宿に泊ろうよ。眠いよ」

「ダメよ、気が早いのね」

そう言われると、五味はもう大興奮で眼が覚めた。

「ラーニャ、そこまで俺のことを?」

「そうよ、あなたは今、あたしにとって一番大事な人なの」

「じゃあ、なおさらホテルだね」

「ホテルじゃないわ。でも、たしかに疲れたわね。馬を降りましょう」

「町はまだだよ」

「もう日が暮れるわ」

ラーニャは馬を停め、ふたりは馬から降りた。街道を外れ横道に入った。

もう、五味は大興奮だった。

「やれる。ハーレム以外の女と初めてやれる!」

ラーニャは木の下の茂みの中を指さして言った。

「そこに寝ましょう」

「う、うん!」

馬を茂みに隠し、草の上にふたりは寝転んだ。

五味の右にラーニャが寝ている。

五味はどうすればいいか考えた。

「いきなりおっぱいを揉むのはまずいか?ハーレムではそれをやると、『いやん、陛下のエッチ』ってなってお楽しみが始まるけど、ラーニャはハーレムの女じゃない。じゃあ、キスか?いきなりキス?それもまずいか。じゃあ、そうだ、手を握ろう」

五味は右手でラーニャの左手を握った。

ラーニャは軽く手を払って寝息を立て始めた。

五味はもうなにもできなかった。五味も急に眠気が差してきて眠りの中に落ちて行った。

 その頃、ユリトスたちはラーニャと五味が寝ている地点に迫っていた。それだけふたり乗りは遅くなるということだろう。しかし、ユリトスたちはラーニャと五味が入った横道の茂みにふたりが眠っているなどとは知らず、横道には入らずに夕闇の街道を北へ駆けて行った。


 夜中、雨が降ってきた。

ラーニャと五味は目を覚まし、馬を連れて歩き始めた。

「あそこに明かりが見えるわ。農家かしら」

「泊めてもらうの?」

「もちろん」

ラーニャはそう言って、ランプを手にして、馬と五味を連れて、農家の前に立った。

ラーニャは戸を叩いた。

「ごめんください」

返事はなかった。

「ごめんください。宿がなくて困っている。泊めてくれないか?」

するとドアは開いた。

中から出て来たのはひとりの老婆だった。

老婆は言った。

「ジャリフかの?」

「ジャリフ?なにそれ?」

ラーニャは言った。

「あたしたちは近くで野宿してたんだけど、雨が降ってきたので、ここに泊まらせてくれないか?カネならある」

老婆は耳が遠いらしかった。それとも言葉を上手く理解できなかったのか、そう五味には見えた。

「ジャリフは今日も帰らんか」

「ジャリフとは誰なんですか?」

五味は訊いた。

「わしの息子じゃ」

ラーニャは言葉を挟んだ。

「泊めてくれないか?」

老婆は大きく戸を開け、ラーニャと五味を中へ導いた。

「入りなさい」

ラーニャはにんまりとしてその田舎家に入った。五味も続けて入った。

「ああ、あたしの馬を繋ぐ馬小屋はあるかな?」

ラーニャが言うと、老婆は言った。

「出て左じゃ」

どうやら、耳が聞こえないのでも言葉が理解できないのでもないようだった。

ラーニャは外へ出て行った。

老婆は椅子に腰かけて、飲みかけの紅茶を飲んだ。五味はどうしていいかわからず、立ったままだった。

「おまえは座ってもいいよと言われないと座れないのかね?」

老婆がそう言うので、五味は困った。

「じゃあ、座らせてください」

「イヤじゃ」

「む?」

「ウソじゃ。座りなさい」

なんかめんどくさいばあさんだぞ、と思い、五味は椅子に腰かけた。

ラーニャも家の中に再び入って来て、椅子に腰かけた。

老婆は言った。

「わしの息子、ジャリフは、遊び人で、ここから北へ少し行った町ソンガで酒ばかり飲んでおる。だが、わしの可愛い息子じゃ。おまえらに、その子を連れて来て欲しい。それが宿賃と思え」

ラーニャは答えた。

「は?カネを払わない代わりに働けっての?」

「そうじゃ、明日朝になったら、ソンガまで行き、息子を連れて来て欲しい」

「イヤと言ったら?」

「外で寝るかの?」

「ちくしょう、ババアめ」

老婆は続けた。

「その代わり今夜はフカフカの布団で寝られるし、食事も出そう」

五味は礼を言った。

「ありがとうございます」

五味は早く夕飯を食べて、ラーニャとフカフカの布団の上でアレをしたかった。


その頃、ソンガという町の居酒屋のテーブル席で、ユリトスとポルトスとアラミスは食事をしていた。ユリトスは給仕に訊いた。

「今日か昨日、馬にふたり乗りをした、若い男女がこの町に来なかったかね?」

若い給仕は言った。

「さあ、知らないなぁ。マスターに訊いてみますね。マスター!」

カウンターの中に立つ、蝶ネクタイをした男が答えた。

「なんだね?」

「このお客さんたちが、ふたり乗りをした若い男女がこの町に来たかって訊いてるんだけど、マスターは知りませんか?」

「さあ、知らないなぁ。お客さん、どちらから来ました?」

「ロンガの王都からだ」

ポルトスがそう答えると、カウンターにひとりで座ってウイスキーを飲んでいた男が振り返った。

「王都から?何しに来た?」

「む?絡む奴だな」

ポルトスがそう呟くと、男は言った。

「なに?なんか言ったか?」

男は剣を抜いた。ポルトスも席を立った。

「やめろ、ポルトス、大人げないぞ」

アラミスがたしなめた。しかし、男は近づいて来た。

「俺の名を教えてやろうか?」

ポルトスは笑った。

「そんなもの聞きたいとは思わんよ」

「聞いて驚くなよ、俺は剣豪ジャリフだ」

ユリトスの目が突然丸くなった。

「ジャリフ・・・まさか」

ポルトスは笑った。

「知らないな。そんな名前は」

ジャリフと名乗る男は剣を構えた。

「抜け!」

ポルトスは剣の柄に手をかけた。

するとユリトスが言った。

「まて、ポルトス、おまえのかなう相手ではないかもしれないぞ」


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