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41、王の誘拐

ユリトスは後悔した。

「やはり城に泊まるべきであったか」

と、そこにまだザザックに馬を与えた腰の曲がった男がいるのに気づいた。

「おまえはアトリフのなんなのだ?」

「アトリフ様というお方は知りません。私はこの町で馬問屋を営む店の馬丁(ばてい)に過ぎません。ただいまのお方の名前すら今知ったばかりでございます」

「そうか、むう・・・」

ユリトスは考え込んだ。

「アトリフとは何者なのだ?なぜ、王をふたりも攫うのだ。北の地に何があるというのだ?」


翌朝、ユリトスたちの宿には旅に必要な物が、ロンガ王カースのニセモノのナナシスから届いた。馬が四頭とユリトスは言ったが、ナナシスは気を利かして、馬を人数分とロバを二頭つけていた。ロバは荷物の運び役だ。

ロンガ北方の最新の地図もあった。

ユリトスたちは宿の部屋でテーブルに広げた地図を見て囲んだ。

「オーリよ。おまえの地図と比較して見ると、少し違うな。おまえの地図のほうが、山岳地帯が詳しく描かれてあるようだ。いっぽう、こちらの新しい地図にはロンガの都付近のことが細かく描かれてある。で、どうだろう?ふたつを合わせて見て、カース王を抱えて逃げたラレンと、クーズ王を抱えて逃げたザザックが合流する地点は・・・」

オーリが地図のある地点を指さした。

「ここしかないですね」

そこはボルメス川に臨む町で、東にはオーリの村から北へ向かう道が峠を越え谷を降りてくれば、ボルメス川北上の道と交わる地点だった。

「そこにアトリフがいるのか、それとも別の場所にいるのか、とにかくこの地点まではだいぶ歩かねばなるまい。ここまでは普通にボルメス川に沿って北上すれば行ける」

一行は宿を出て馬に乗った。五味は馬の旅は生まれて初めてだった。

「ユリトスさん、俺、馬の乗り方わからないよ」

「大丈夫、陛下の馬は俺の馬とロープで繋げていくから」

そう言ったのはポルトスだった。五味は安心した。

アリシアも馬に乗るのは初めてだったため、アラミスの馬とロープで繋がった。

オーリは馬の心得があった。ジイの馬には二頭のロバが繋げられた。

ラーニャはもともと乗っていた馬に乗った。

五味はラーニャに質問した。

「そうだ、ラーニャ、あんたには子分がいたんじゃなかったのか?」

「ああ、ラーニャ五人衆のこと?」

「ああ、そう言うのか。その五人衆はどうした?」

「あいつら、べつに強くもないし、なんていうか、自立性がないのよね。何かの組織に所属して、誰かの命令があって初めて仕事が出来る。かといって堅気の仕事には就けない過去があったのよ。だけど、カードックの町は山賊だらけじゃない?だから、あいつらも元山賊として鉱山で働いても生きていけるとわかったの。だから、あそこに住みついちゃった」

「それでラーニャはひとりになって俺たちの仲間に加わったのか?」

「そういうこと」

ユリトスは言った。

「よし、出発だ」

一行はロンガの王都を出て、北へ向けて出発した。

 全員が馬に乗っている。先頭にユリトス。次にオーリ、その次にラーニャ、次にアラミスがアリシアの馬を引いて、次にポルトスが五味の馬を引いて、最後にジイが荷物を背負ったロバ二頭を引いて歩いた。

前を行く、馬に揺られる女子三人を見て、五味はまたスケベな妄想を始めた。

「やっぱり、体はアリシアが一番いい。でも、彼女は顔がそばかすだらけでよくない。赤い髪はいいとしても、そばかすがあそこまでひどいのはちょっとなと思うのが男心だ。じゃあ、ラーニャはどうか?ラーニャは体はアリシアに劣るが、腰の括れは一番だ。それからオーリのようなポッチャリは俺の趣味じゃないが、ラーニャはさすが山賊の娘だけあって、体がスポーティだ。しなやかだ。でも、胸はそんなでもない。あ、胸と言えば一番大きいのはオーリだ。でもあれはおっぱいだろうか?それとも太っているから余分な脂肪がおっぱいに見えるだけなのだろうか?九頭は感触ではオーリが一番かも、みたいなことを言っていた。九頭・・・」

五味はスケベな妄想をしていて、隣に九頭や加須がいないことを寂しく思った。評論は独りでしても面白くない。

「九頭や加須がいればもっと楽しいだろうにな」

そう呟いたとき、五味は初めて思った。

「あいつら、俺の友達だったのか?」

五味は前世で友達というのをほとんど持ったことがなかった。前世では中学二年生のとき、学年一の美女、美好麗子を手に入れるために、邪魔な存在の完璧男子、出木杉を貶めるために九頭や加須と手を組んだのだ。ある時は、出木杉の名を騙り、ゲスな内容のラブレターを美好麗子に出したり、またある時は、美好麗子と出木杉のデートを邪魔したり、最後には出木杉の高校受験を妨害したりして、力を合わせた。そんな最低なことをやっていた三人だったが、今思えば楽しい思い出であるような気がした。


一行はロンガ王都から次の町、ホウガで昼食を取り、さらに北に向かい、エンガという町で夜を迎えた。一行は宿を取った。

食後、寝室に入る前にラーニャが五味に言った。

「ねえ、あたしとちょっと、来てくれる?」

「え?」

五味は勃起して頷いた。

ラーニャはランプを持って、外へ出た。そして、馬に乗り、その後ろに五味を乗せた。

体が密着した五味はもう大興奮だった。

ラーニャは言った。

「あなたを案内したいところがあるの。ちょっと時間がかかるけれど、ふたりっきりで行きましょう?」

馬は夜の中をランプの灯りと月明かりを頼りに走り始めた。北へ向かった。


「なに?ゴーミ陛下とラーニャがいない?」

ユリトスたちはオーリがそう言うので、ベッドから飛び起きた。

「どういうことだ?」

ユリトスが言うと、オーリは答えた。

「わからないわ。私が気づいたときにはラーニャもゴーミ陛下もいなかったわ」

ポルトスが外から入ってきた。

「ラーニャの馬がない」

ユリトスは言った。

「ポルトス、アラミス、馬に乗れ!追うぞ!ジイ殿、オーリとアリシアを頼む。必ずこの宿に戻ってくる。ここを動かないでくれ」

ジイは頷いた。

「ここは任せておきなされ!」


ラーニャは月夜の田舎道を馬を走らせながら思った。

「へへへ、アトリフって奴が何を考えているか知らないけど、カース王とクーズ王を連れ去ったってことは、このゴーミ王も欲しいはず。あのザザックという男に追いついて、届ければ相当なカネになるぞ、へへ」

五味はラーニャの括れた腰に手を回し、馬に揺られつつも極楽にいるように酔っていた。

「もう、この腰、はなしませーん!」


ユリトスたちは、北に向かい、次の町に着いた。

その町で聞き込みを行い探したが、ラーニャと五味はいなかった。

ユリトスたちは次の町に向かった。

次の町は遠かった。ユリトスたちが着いたのは日の出前だった。

そこの馬屋にはラーニャの馬が乗り捨てられてあった。

ユリトスは馬問屋に訊いた。

「その馬の主はどこへ行った?」

「ああ、夜中に突然やって来て、替え馬を要求するからあげたよ」

「どっちへ行った?」

「北だ」

「くそ、あの娘、本気で逃げる気だ。狙いはアトリフにゴーミ王を売ることか?」

「ユリトス先生。俺たちも馬を替えたほうがいい」

ポルトスがそう言うので、ユリトスは馬を替えた。

三人は東の山の向こうが白んでくるまだ暗い朝を、北に向かって馬を馳せた。


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