400、ドラゴンの変身
アトリフはサーベルでその絵を切り刻んだ。
すると中から黒いドラゴンが出てきた。
「ゾルマ!こんな所にいるとはな。クリスティーナはどこにいる?」
黒いドラゴンは言った。
「ちょ、ちょっと待て、俺はゾルマではない」
「なに?何を抜かすか?」
「俺は変身師のドラゴン・バルザ」
「変身師?では、ニセモノか?」
「そうだ、俺はゾルマではない」
「じゃあ、なぜ、ゾルマの姿をしている?」
「この姿をしていると人々が俺を恐れる。そして、貢ぎ物を自ら進んでくれるのだ」
そこに五味たちもやって来た。
「なんだ?アトリフ。絵を斬ったのか?」
アトリフは言う。
「俺はこいつがゾルマかと思って斬ったのだ。姿は完全に奴と同じだ。しかし、ニセモノだとほざく」
ナナシスが訊く。
「変身師なのか?ドラゴンの?」
ドラゴン・バルザは答える。
「そうだ、俺は変身師。ドラゴンの中には人間に変身する者は多い、しかし、同じドラゴンに変身できる者はそういない。俺にはそれができるのだ」
ナナシスは言う。
「おまえは目の前にいない者にでも変身できるのか?」
「ああ、できる。今まで会ったことのあるドラゴンならば大抵できる」
「大抵?じゃあ、例外があるのか?」
「ああ、龍神湖のマースなどには変身できない。奴は姿がないからな」
アトリフは訊いた。
「では、本物のゾルマはどこにいる?黒い城に住んでいると聞いたぞ」
「黒い城?そんなことはない。白い石でできた城に住んでいる。プロスタの町の北に広がる森の中だ」
「あそこには弟のボルマとその娘が住んでいた。ゾルマはクリスティーナと共に西に去り黒い城に住んでいると聞いたぞ」
ドラゴン・バルザは慌てた。
「え?なに?そうなのか?俺が絵の中に取り込まれたのは二十年前だ。そんなに世の中が変わってしまったのか?」
アトリフは言った。
「二十年前?そうか、ふん、話にならんな」
アトリフは剣を納めた。
「みんなホテルに帰るぞ。メザンヌ、おまえも来い」
アトリフたちは美術館を出て行こうとした。
するとドラゴン・バルザは呼び止めた。
「おい、まてよ。せっかく来たんだ。遊んでいかないか?」
バルザは炎を吐いた。
隣の絵が燃えた。
すると、絵からドラゴンが現れた。
その隣も燃えた。ドラゴンが出てきた。
その咆哮が背後からすると、アトリフは振り返ってドスのきいた声で言った。
「貴様、なにをしている?」
バルザは炎で周囲のドラゴンの絵を焼いていった。
次々とドラゴンが出てくる。
これを見たユリトスは、このバルザの凶行を止めるために、サーベルを抜いて、バルザに飛びかかった。アトスとポルトスとアラミスは剣を抜いて、五味たちの周りを囲み守りについた。
ユリトスの一撃はバルザの鼻を斬った。
「ぎゃあああ」
バルザは変身が解けゾルマの姿から、体長二メートルほどのトカゲになった。
「おのれ~」
トカゲはユリトスを睨んだ。
しかし、そのトカゲの首は一瞬にして落ちた。
斬ったのはアトリフだった。
「おい、ユリトス、まずいぞ。この美術館全部が燃えてしまう。すると、ドラゴンが大量に出てくるぞ。俺たちの手には負えなくなる」
「うむ」
ユリトスは大きな声で言った。
「三銃士以外の非戦闘員は、まだ火のついていない絵を外して外へ運び出せ。三銃士は出てきたドラゴンを殺せ」
アトリフは笑った。
「殺せ、か。ドラゴンならいいのか?」
「ドラゴンは人間ではない」
ユリトスは次のドラゴンに向かって行った。




