382、ニッチャンのシチュー
五味、九頭、ニッチャン、ポエニ、ラレン、ラミナはカラスの先導で、白い石の城に向かって森の中を歩いていた。
夜になった。
ニッチャンはテントを張り、火をおこした。
ニッチャンは手慣れた手つきで手早く料理を作った。
シチューだった。
ラレンはそれを食べて言った。
「うまいな!」
ラミナも言った。
「うん、美味しい」
ラレンは言う。
「ところで、ヨッチャンよ」
「ニッチャンだ」
「ああ、ニッチャン、あんたの兄弟は何人いるんだ?」
「四人だ」
「じゃあ、ヨッチャンが末っ子か?」
「そうだ」
「みんな医者なのか?」
「そうだ」
「すげーな」
五味は訊いた。
「ニッチャンのお兄さんはなんて名前なの?」
「イッチャンだ」
五味と九頭は同時に言った。
「「だろうな」」
ラレンは話を本題に向けた。
「その白い城にはドラゴンが住んでいるんだろ?」
ニッチャンは答えた。
「そうだ」
「あんたはそこに人間の家来つまりドラゴンの世話をする者たちがいるか、わかるか?」
するとラミナがそれを引き取った。
「あの城には人間がいる。たくさんいる。奴隷のように働かされている。みんなドラゴンが怖いから逃げ出せない」
九頭は言った。
「じゃあ、俺たちがドラゴンを倒したら、俺たちヒーローだな」
ラレンは九頭に言った。
「お?おまえ、戦う気か?」
九頭は言った。
「いや、王として指示を出す。戦うのは部下のラレンだ」
「なんで、俺が部下なんだよ」
五味は言う。
「でも、ラレン、おまえひとりで戦えるのか?」
「だから、アトリフを呼んだ。俺はラミナと一緒に敵情視察だ。近くまで行って城の様子を調べる。とくにその城のドラゴンがクリスティーナを攫ったドラゴンかを調べるんだ」
九頭は訊く。
「ラレンはどうしてアトリフのためにそこまでするんだ?」
ラレンは言う。
「あいつは仲間だ。あいつといると面白いんだよ。俺の能力を発揮できる」
「ふ~ん、でも、アトリフも悪党のくせに純情だよな」
九頭がそう言うと、ラミナは言った。
「あの人は悪党ではない。世間的に悪いとされてることをするけど、本当はいい人。近くにいればわかる」
五味は言った。
「ラミナはアトリフのことを好きなのか?」
ラミナは紅茶のカップを両手で持ちながら頬を赤らめて言った。
「好き」
五味は頭を抱えた。
「か~、こんなかわいい子に恋されるなんて、アトリフの野郎め、あ~、久々に出来杉と麗子さんの関係を思い出した」
ラレンは言った。
「誰だ?それ?」
五味は言う。
「知らなくていいよ。王族の話だ。で、そうだ、クリスティーナだ。問題は」
九頭が言う。
「クリスティーナは悪いドラゴンに攫われたんだよな?それが今から向かう、白い城にいるならば、アトリフの旅は大詰めじゃないか?」
ラレンは言う。
「そうだ、もし、クリスティーナを救出できたら、アトリフの次の目標は、おまえたちをドラゴンの元へ連れて行き、アトリフとクリスティーナを若返らせるという願いを叶えてもらうことらしい」
九頭は訊いた。
「若返る?」
ラレンは言う。
「ああ、クリスティーナと別れた歳に戻ってまたふたりで青春を過ごしたいのだそうだ」
五味は言う。
「極めて真面目な願いだな。全然悪党じゃない」
ラレンは言う。
「もし、それでアトリフがハッピーエンドになったら、俺はドラゴンの秘宝を求めてさらに西へ行く。もちろんアトリフも行くならば一緒に行く。ラミナ、おまえはどうする?」
ラミナは紅茶をすすって言う。
「わからない。私はアトリフについて行くだけ」
五味は言う。
「なあ、ラレン、今から向かう城にそのドラゴンがいたとしたら相当やばい奴じゃないか?それこそ、アトリフでも倒せるかってくらい強いんだろう?」
「ああ、だから、俺は敵情視察だ。攻めるのはアトリフが来てからだ」
一同は食事を終えた。
ニッチャンは言った。
「テントは四人用だ。ここには五人いる。鳥が一羽と、ニッチャンが外で寝よう」
五味は言った。
「じゃあ、ラミナが一番奥で、その横に俺、その隣に九頭で、入口側にラレンにしよう」
九頭が言った。
「何言ってんだよ。俺がラミナの隣だよ」
「じゃあ、じゃんけんだ」
「「じゃんけんぽい」」
「「あいこでしょ」」
五味は言う。
「いやまて、ふたりの間に、ラミナにすればいいじゃないか?」
ラミナは言う。
「あたしは外でカラスたちと寝る。その火の鳥の子とも」
五味は言う。
「いや、もしかしたら、ポエニが一番エロい」
九頭は言う。
「そうだよ、こんな森だから何が出るかわからないよ」
ラミナは答える。
「大丈夫。私はカラスたちに守られている。あなたたちと寝る方が危険」
ラレンは笑った。
「わっはっは、王たち、おまえらの負けだ。ははは」
こうして、結局、五味と九頭とニッチャンが同じテントに入り、ラレンは五味たちと同じテントで寝る気は進まず外で寝ることにし、ラミナも外で寝た。ポエニは鳥だから当然外だ。
五味はテントに入り際にポエニに言った。
「いいか、夜中にラミナを襲うなよ」
「ポエッ」




