38、仲間が増える
ユリトスがカードックの町の広場に戻ると、人々が鉱山の再開が国王に認められたことを喜び合う市民で賑わっていた。あの山賊カードックを名乗っていた少年ラルフも親に怒られながら謝りつつ泣いて喜んでいた。五味と九頭はエビリアが夫と子供と抱き合って喜ぶのを恨めし気に見ていた。
「オーリちゃんよ、エビリアさん、夫と子供がいるんじゃんか。なんだよ、攫われたっていうのは。幸せそうじゃんかよ」
オーリは首を傾げた。
「うーん。私の勘違いだったかな?急にいなくなったから攫われたのかと思ってたけど、違ったのね」
アリシアはオーリに訊いた。
「オーリちゃんはこれからどうするの?家に帰るの?それともロンガの大学に行くの?」
オーリは答えた。
「私は、その、いろいろ考えたのですけど、みなさんと共に旅をしたいと思いました」
「え?」
五味はいやーな顔をした。ブスでポッチャリは趣味に合わないからだ。おまけに真面目で知的で文学臭いところが好きではなかった。前世で同級生だった学校一のブス、部佐育子を想起させた。こんなところまで前世の記憶があるのは罪だと思うものの、五味はやっぱり部佐育子より学年一の美女、美好麗子が好きだった。ブスとは絶対結婚しねーぞ、などとひとり誓うのだった。
アリシアはオーリが仲間に加わりたいと言うので喜んだ。
「やっと仲間に女の子が加わるのね、嬉しい」
近くにいたポルトスは、「これでまた守らねばならない仲間が増えるのか?」などと言って嫌そうにしていたが、アラミスが肩を叩いて、「あんまりそういうことを言うもんじゃないぜ」と言ってたしなめた。
ユリトスもその会話を聞いていて、自分の旅に役立つかどうかだけで、道連れを決めるのはラレンのように人を利用価値だけで判断するのと同じことだと反省した。
ユリトスはみんなに言わなければならないこと、つまり、カース王がラレンに攫われ、アトリフの所へ連れて行かれたことを思い出した。しかし、周りにニセモノのカース王から鉱山再開を認められ喜んでいる人々のいる場で言うべきではないと、自分を制した。
これでオーリが仲間に加われば、一行は、五味、九頭、ユリトス、ポルトス、アラミス、アリシア、ジイ、そして、オーリの八人になる。ユリトスはナナシスのことも考えた。彼は魔法使いであり、ニセモノのカース王として生きて行くのは良くないとは思うものの、とりあえずロンガ王国のことを考えればこのまま彼に王座についていてもらう方が良いのかもしれないと思った。
オーリたちと五味たちが仲間になったなどとワイワイやっている所へ、ラーニャが来た。
「ゴーミ陛下、クーズ陛下、あたしも仲間に入れてくれない?」
「は?」
五味はラーニャの顔を見た。
「なんで、おまえがいまさら俺たちの仲間になるんだよ?」
しかし、腰の括れを見た。
「まあ、あんまり過去のことにこだわるのは良くないから、仲間にしてもいいとは思うがクーズ王はどう思う?」
九頭はラーニャの顔を見た。
「俺たちを随分裏切って、ほぼ敵じゃないか。それを・・・」
腰を見た。
「昨日の敵は今日の友だな」
ユリトスはいつかその言葉を彼らから聞いたことがあったと思い出した。
これで一行は九人になる。ラレンとナナシスが抜けたから元に戻ったが、本来はここに加須が加わる。すると十人だ。
ユリトスはもうひとり戦士が欲しいと思った。そのとき脳裏に現れたのは先ほど剣を交えた鉄仮面だった。
五味は言った。
「あ、そういえば肝心のカース王はどこだ?」
ユリトスはようやくみんなに彼がラレンに攫われアトリフの所へ連れていかれたという真相を告げた。
その夜、五味たちはカードックの町を挙げての屋外パーティに参加した。五味と九頭は加須のことは横に置き、酒池肉林とばかりに、十五歳では日本では飲酒禁止ということも忘れ酒を飲み肉を喰らった。牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉、馬肉、肉を食いまくって、ふたりは「わーい肉林だ」などと無学な喜びに浸っていた。食後は女と思っていたが、酔いが来て、屋外にいることも忘れ、眠りに就いた。夢の中で五味と九頭は女の夢を見た。この旅で本当に多くの女体と出会った。その中でもエビリアさんはとびっきりだった。しかし、彼女は結婚して子供がいる大人だった。五味と九頭は大人になることについて夢の中で考えた。しかし、答えは出ず、五味はマリンちゃんの股間のY字に顔を埋めたことを思い出し、九頭はナナシスが化けたアリシアの体を貪ったことを思い出した。夢の中までゲスなふたりだった。
朝になった。
一行はカードックの町を出発した。
とりあえず、元来た道を西に向かった。
途中、ラルフの子分だった傷ついた少年たちが歩いて来るのが見えた。ユリトスは彼らにカードックの町であったことを話した。少年たちは喜んで歩いて行った。
そして五味たちは何度も野宿を重ね、オーリの故郷の村まで来た。
「オーリちゃん!無事だったのね!」
「おばさん」
オーリは村人との再会を喜び合った。
家は焼けていた。オーリは自分の本などを探してみたがほとんどが焼けていた。しかし、貴重なロンガ北方の地図を手に入れた。
「ユリトスさん。これ、旅のお役に立てないでしょうか?」
「うむ、これは役に立つ。君が持っていてくれ。ところで村の人たち。この村をラレンと鉄の仮面を被った男が通らなかったか?ふたりとも馬に乗っていたはずだが」
ほとんどの人が首を横に振った。
しかし、ひとり、小さな男の子が言った。
「あ、僕、鉄仮面見たよ」
「なに?どっちに行った。この村には西のロンガへ通じる道と、北への道が分かれているが」
「あっちだよ」
男の子が指さしたのは北だった。




