377、九頭の嘔吐
九頭は川岸を這い、川の流れの上まで来ると、流れに向かって嘔吐した。
しかし、吐物は流れには届かず、岩の窪みに落ちた。
五味は言った。
「どうすればいい?おい、九頭、どうして欲しい?」
九頭は苦しみながら嘔吐の合間に言った。
「川の流れで頭を冷やしたい」
しかし、川の流れまでは距離があり、岩の間を歩かねばならなかった。当然、今の九頭にはそれができそうもない。
加須が言う。
「よし、俺のシャツを濡らして頭に巻いてやるよ」
加須は川の流れに降りていって、シャツを脱ぎ水に浸けた。それを絞らずに九頭の所まで持ってきて頭にかぶせた。
九頭はまだ嘔吐していたが、加須に礼を言った。
「ありがとう、加須、ちょっとは楽になった、うう、おえー」
ラーニャは言った。
「蛙のドラゴンの唾液を飲んで蛙になったことが原因かしら?」
五味は言った。
「ああ、そうだろうぜ。他に思いつかない」
加須は言う。
「おい、九頭、移動できるくらいになったら言ってくれ、川の流れまで肩を貸すぜ」
五味も言った。
「俺も肩を貸すよ」
「すまねえ、う、おえー。あ、はぁ、はぁ、はぁ。ああ、ちくしょう、う、おえー。はぁ、はぁ」
九頭は立ち上がろうと膝を立てた。
加須は言った。
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫、肩を貸してくれ」
「あ、ああ」
五味と加須は両側から肩を貸した。
流れまで降りると、九頭は、水を手で掬って、頭や首筋にかけた。
「ああ、こうすると、ちょっとは楽だ」
しかし、九頭はまた嘔吐した。
五味は思った。
「ああ、こんなとき、オーリがいれば、ちょっとは回復魔法ができるのに。ああ、ヨッチャンでもミッチャンでも出てきてくれたら!」
そのとき、どこかに行っていたポエニが戻ってきた。
「ポエッ、ポエエエッ、ポエー」
ラーニャは言った。
「あれ?誰か連れて来たわ?」
ポエニの後ろに白衣を着た男が岩の間を登ったり降りたりしながら近づいて来るのが見えた。
男は言った。
「どうかしたのかー?」
「ポエッ、ポエッ」
男は近くに来ると九頭を見て言った。
「この子が怪我でもしたのかね?」
五味は言った。
「いや、病気なんだ。いや、毒にやられたというか?」
「毒?」
「正確にはドラゴンの唾液を飲んだせいだと思う」
「なに?ドラゴンの唾液?ちょっと顔を見せなさい」
九頭はその男に顔を見せた。
「青い顔をしているな。よし、ニッチャンの小屋まで来なさい。歩けるかね?」
九頭は流れに俯いたまま無理に笑った。
「ヨッチャン、ミッチャンと来て、今度はニッチャンかよ?」




