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37、十字架のカース王

路地を通ると、広場に面しているとラーニャが言う家の裏庭に出た。裏の戸を叩き、エビリアの名を告げると、ドアが開いた。

「あなたがたは?」

その女性がエビリアだった。

その美しさに五味と九頭はメロメロになり、今、自分たちが直面している危機的状況も忘れてしまった。エビリアは事情を聞くと、表に面した部屋にユリトスたち一行を案内した。その後ろ姿を五味と九頭は眺め、エロティックな妄想を楽しんだ。

一階の窓からは広場が見渡せた。ちょうど彼らから広場の反対側つまり東側に加須が十字架に縛り付けられてあった。

ユリトスはエビリアに訊いた。

「この家の上の階にも弓矢を持った者が待ち伏せしているのか?」

「はい」

「作戦は中止だと伝えて来てくれ」

「わかりました」

エビリアは二階に登って行った。

五味と九頭はメロメロになっていた。

「「う~ん、声も色っぽい」」

ユリトスは考えた。

「しかし、作戦は中止されたとして、この場はどうなるのだろう?鉄仮面たちの百騎の騎馬隊が広場に来る。矢は放たれない。鉄仮面たちがカース王を十字架から下ろす。鉄仮面たちが去る。ん?そうはならないだろう。鉄仮面たちが来たら、カース王の命と引き換えにこの鉱山の復活を訴えなければ意味がない。しかし、誰がその交渉をするのだ?この町にはリーダーがいない!」

そう考えていると、北側の道路を鉄仮面の百騎の騎馬隊が広場にやって来た。

「いっひっひ。こんなところにカース王が縛り付けてあるぞ。はて、人の気配がしないのはなぜだ?みんなビビっているのかな。まあいい、カース王を十字架から下ろせ」

すると、十字架とは反対の住居の前にもうひとりカース王が立っていた。

「まて!おまえたち」

鉄仮面のひとりがその姿を見て驚いて言った。

「これはこれは、カース王。え?ふたりいるのですか」

それはもちろんナナシスだ。住居の中にいるユリトスはナナシスの大胆な行動に驚いていた。

「やはり、ニセモノでも王をやっていただけある」

ナナシスは言った。

「あっちで十字架にかけられたのはニセモノだ。そんなことも見抜けないのか?このバカどもが。おまえたちは余のために働く騎士であろう」

鉄仮面たちは戸惑いつつも独りが下馬すると皆が下馬して(ひざまず)いた。

「ははあー、陛下、ご無事でしたか」

「この町の住人は鉱山を再開したくて、山賊行為を働き今回のようなニセモノを(さら)っての人質作戦を取ったのだ。しかし、彼らの要求を余は知った。そして、余はこの町の住民を許そうと思う。山賊行為、ニセモノとは言え国王誘拐、許しがたい行為ではある。しかし、それらはそもそも余ら王家政府が彼らを苦しめた結果である。つまり余の責任だ。故にこれを許すは余にとって必然のことである。そなたらも鉄仮面を脱ぎ、国のために改めて、尽くして欲しい」

「ははあー」

「よし、ではロンガに帰るぞ。余の乗る馬を用意せよ」

「はっ」

こうして、何事もなく鉄仮面たちはナナシスが化けたカース王を頂いて帰って行った。

五味と九頭はエビリアさんを見ていて、外を見ていなかった。他のポルトス、アラミス、アリシア、ジイは広場に出て、十字架にかけられたカース王を降ろそうと思った。しかし、カース王はすでに十字架にいなかった。


ここはカードックの町の出口である西の峠に近い場所。そこにユリトスは馬に乗り町のほうを見ていた。予想通り鉄仮面が二騎やって来た。ひとりは縛られた加須を馬に乗せている。

「鉄仮面よ。いや、そのしたたかさ、ラレンだろう?」

加須を乗せているほうの鉄仮面は仮面を取って言った。

「ふふふふふ。さすが、ユリトスだ。いかにも俺はラレン。ナナシスが大舞台を演じている間に、本物のカース王の身柄はいただいた」

「その身柄をロンガに売りに行くのか?」

「いや、俺たちはアトリフのもとに行く」

「なに?」

「まあ、ひさしぶりに会うアトリフへの手土産だ。じゃ、俺はこれで」

そう言って、加須を乗せたラレンはユリトスの横を通り抜けようとした。ユリトスは剣を抜いた。しかし、もうひとりの鉄仮面が、剣を抜き邪魔をした。ラレンは去って行った。

ユリトスはもうひとりの鉄仮面の相手をせざるを得なかった。

彼は猛烈にユリトスに剣を振るってきた。彼は無言で攻撃してくる。

「む?この太刀筋?おまえは?」

ラレンが充分遠くに逃げると、鉄仮面は太刀を治め、彼もラレンと同じ方へ去って行った。そこへ、町のほうから、鉄仮面の騎馬隊が、ナナシスが化けているカース王を先頭にやって来た。

「おお、これは世界一の剣豪ユリトスか。そちにも後で褒美を取らすぞ。はっはっは」

ユリトスは何も言わずカース王をやり過ごした。

ユリトスはニセモノのカース王と騎馬隊を見送ると、またカードックの町に戻った。


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