359、ライオンのドラゴン対剣士たち
ライオンのドラゴンは祭壇を破壊し、礼拝堂そのものを破壊し始めた。
そこへ裁判官が言った。
「ドラゴンよ、絵に囚われていたドラゴンよ。私たちも絵に閉じ込められる苦痛を知る者たちです。どうか我らの言葉に耳を傾けよ」
するとライオンのドラゴンは裁判官らを見下ろして言った。
「なんだ?おまえらは?人間ではないか?俺を崇拝しているのか?」
「もちろんでございます。あなたはこの国の神になる方、我々の守護神。我らと共にこのハイン国を奪いましょう」
ライオンのドラゴンは言った。
「くだらぬ。所詮は人間の考えることよ。ようするに俺の力を使って自分たちが国を統治したいと言うのだろう?野心家が!」
裁判官はドラゴンを見上げて言った。
「あなたは何がお望みですか?」
「おまえに望みは必要ない。なぜならここで死ぬからだ」
そう言ったのはドラゴンではなかった。礼拝堂のどこかにいるのだが声が響いて出所が限定できなかった。
しかし、その声の主はすぐにわかった。
側廊からサーベルを二本持った禿げ頭の長身の男が歩いてきたからだ。
ライオンのドラゴンは言った。
「貴様は誰だ?」
禿げ頭の長身の男は言った。
「俺か?俺は世界最強の剣士バンバン」
礼拝堂の入り口から見ていたアトスは言った。
「あいつ、まだこの町にいたのか?しかし、あの巨大なドラゴンに人間の剣士が勝てると思っているのか?」
ユリトスは言う。
「ここは我らも参加した方が良さそうだぞ」
「バンバンに手を貸すのですか?」
「手を貸すというか、協力するんだ」
そして、ユリトスは言った。
「カース王、チョロ。ポルトスとアラミスを呼んできてくれ。大至急だ」
「「わかった」」
加須とチョロは宿の方へ走っていった。
ユリトスは言う。
「アトスよ、ここは正面から正々堂々というのでは勝てそうもないぞ。我々は左右に分かれ隠れながらドラゴンに近づこう。そして、バンバンが隙を作ってくれたところを、飛び出して急所を刺すのだ」
「わかりました。では、俺は右から回ります」
「うむ」
ユリトスは左側の壁沿いを隠れながら進んだ。
ドラゴンはバンバンを見下ろして笑った。
「なんだ?貴様ごとき人間が、俺と戦おうというのか?」
バンバンは笑う。
「首を切り落としてやるよ」
「ふん、しゃらくさい。貴様の相手など尻尾の蛇たちで充分だ」
ドラゴンはバンバンに尻を向けた。
尻には尻尾の八本の蛇が蠢いていた。
ドラゴンは言う。
「気をつけろよ。こいつらの牙には毒があるからな」
バンバンは笑った。
「ふふん、忠告ありがとう。戦いやすくなった」
次の瞬間、八頭の太い蛇がバンバンに襲いかかってきた。
バンバンは蛇たちの心を読んだ。たしかにこの蛇たちはドラゴンの尻尾だったが独立して脳があった。バンバンは攻撃を躱しながら、蛇の頭をひとつ斬り落とした。
バンバンは笑った。
「この程度か?」
しかし、それはバンバンの油断だった。
次の攻撃がすでに来ていた。
バンバンは読心術ができる。しかし、七頭の思考を読めたとしても蛇は変幻自在に動き回り、バンバンの体の動きがついていかなかった。そのため、一頭の蛇に足を噛まれそうになった。
「しまった!」
しかし、斬られたのは蛇の方だった。
ユリトスが斬ったのだ。
バンバンは言った。
「貴様・・・」
ユリトスは笑った。
「お邪魔だったかな?」
「この程度のドラゴンならば俺ひとりで充分だ」
しかし、もう次の攻撃は来ていた。ユリトスにも、もちろんバンバンにも。
ユリトスは躱しながら、蛇を斬った。
バンバンも躱したが、ユリトスの思考を読もうとしたためか、隙ができ、蛇に左腕を噛まれた。
「ぐああああ!」
ユリトスは言った。
「おい、大丈夫か?」
バンバンは噛みついた蛇を斬った。そして、腕についた頭を右手で掴んで振り落とした。
「しまった。毒が・・・」
まだ、蛇の尻尾は四本ある。
バンバンはそれを見た。
「ユリトス、こいつを倒すことだけを考えろ。俺は死んでもこいつを倒す。治療はそのあと考える」
「うむ」
ユリトスはサーベルを構えた。
バンバンは二刀流ではなく、右手一本で戦うことになった。
そのとき、礼拝堂の入り口から声が聞こえた。
「ユリトス先生!ポルトスとアラミスが参上しました!」
ポルトスとアラミスは中を見て愕然とした。
森で出会ったサーベルタイガーなどより、ずっと恐ろしい姿のドラゴンがいたからだ。攻撃しようにも、頭の位置が高いため、足下を斬る程度しかできないとポルトスとアラミスは思った。
ライオンのドラゴンは目の前にいる裁判官たちに言った。
「貴様らは邪魔だ。死にたくなければ外へ出ろ」
裁判官たちは言われたように礼拝堂の外へ出た。
その間にすでにドラゴンの尻の方では戦いが進んでおり、ユリトスは二本の蛇を斬った。
バンバンも二本の蛇を斬った。これで蛇の尻尾は全部斬った。
と思った。
しかし、ユリトスたちは目撃した。尻尾の蛇たちが再生していくのを。
ユリトスは言った。
「バンバン、こいつらが再生する前に、後ろ足の腱を斬ってしまえ」
バンバンとユリトスはドラゴンの後ろ足の腱を斬った。
ドラゴンは「がああああ、」と言って後ろ足の膝を折った。
しかし、そのときには、八本の蛇は再生していた。
蛇たちは襲いかかってきた。
ポルトスとアラミスに対しては、ライオンのドラゴンは口から炎を吐いた。ふたりは左右に転がり躱した。
アラミスは言う。
「ダメだ。近寄ることさえできない」
ポルトスは言う。
「隙ができればいいが・・・」
ユリトスとバンバンはまた蛇たちと戦わねばならなかった。
ドラゴンに隙はなかった。
しかし、次の瞬間、ドラゴンが悲鳴を上げた。
「ぐぁあああああ」
ライオンの顔の左目にナイフが刺さっていた。
右側廊から、アトスが投げたものだった。
アトスは言った。
「チャンスだ。ポルトス、アラミス、奴の前足の腱を斬れ」
「「了解!」」
ポルトスとアラミスは突進していった。しかし、ふたりは前足に蹴り飛ばされてしまった。
ドラゴンは言う。
「不意打ちとは卑怯な」
アトスは言う。
「おまえは神だろう?人間がまともに戦って勝てる相手じゃない。当然こういう攻撃もありだろう?」
尻尾の方では、ユリトスとバンバンが蛇たちに締め上げられていた。
ふたりは蛇がギリギリと締め付けるので全身の骨が折れるかと思った。
アトスは言う。
「まずい、ポルトス、アラミス、俺を援護しろ!」
「「おう!」」
アトスはドラゴンの正面に回った。
ドラゴンは笑う。
「なんだ?正面から攻撃か?」
アトスは言った。
「炎を吐いた瞬間を狙え!」
「バカめ。おまえたちの動きで俺の体に剣が届くと思うのか?ほら、尻尾はおまえらの仲間を締め上げているぞ」
ユリトスとバンバンは悲鳴を上げていた。
「ぐああああ」
「ぎゃあああ」
ライオンのドラゴンは炎をまるで床を掃除するように右から左へと吐いた。
ポルトスは全身を火傷した。
炎はアトスとアラミスにも襲いかかってきた。
アトスは叫んだ。
「いまだっ!ザザック!」
「なに?」
ドラゴンが気づいたときには、二階回廊からザザックが飛び降りてきて、ドラゴンの首の後ろに剣を突き刺した。当然そこは、神経の集まる場所である。
ライオンのドラゴンは一瞬にして死んで、巨体は床に倒れた。
蛇に締め付けられたユリトスとバンバンもその締め付けから解放された。
しかし、バンバンは毒に犯されていた。
バンバンは床に倒れた。そして、言った。
「おまえたち、なんのために加勢に来た?」
ザザックは言った。
「俺はこの町を出ようかと思った。しかし、おまえの姿を見つけて、残ったんだ。おまえは俺とアトスが倒さねばならない奴だからな」
バンバンは笑った。
「ふん、余計なことを・・・」
ユリトスは言う。
「バンバンは毒に犯されている、治療が必要だ。誰か医者を呼べ」
アトスが言った。
「ポルトスも火傷が酷い、治療が必要だ」
アラミスは走って礼拝堂を出て行った。
バンバンは言う。
「ダメだ。俺はもう死ぬだろう。最後に教えてくれ。おまえらは世界一でなくて悔しくないのか?」
ユリトスは言う。
「そんなことで悔しがっている人間はほとんどいないぞ」
「しかし、我が家は、伝統的にハイン国一の剣士を継承してきた。それが間違っていると言うのか?」
「ああ、間違っている。親を殺して親を超えるなどと言うのはまったく愚かなことだ。仮に世界一というのがあるならば、誰かにとっての世界一を目指すべきじゃないか?」
「誰かにとっての?」
「愛する人にとって、おまえが世界一になればいいんだ」
「なるほどな、最後に、いい話を、聞けた、よかった・・・」
バンバンは眼を閉じた。
そのとき礼拝堂の出入り口からひとりの男が入ってきた。
「安心しろ!名医のミッチャンが来たぞ!」




