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353/1174

353、生の世界の仮面

五味は十字架から降ろされた虹色のナナシスを仰向けにさせた。

ナナシスは言った。

「ゴーミ王、クーズ王、カース王、俺はようやく本当の姿になれたんだな?」

五味は言った。

「ナナシス、死ぬな。オーリ!オーリ!来てくれ。回復魔法をかけてやってくれ」

ナナシスはうっすらと笑った。

「オーリの魔法じゃ、無理だ。ううっ。俺はもうすぐ死ぬよ」

九頭が言った。

「バカなことを言うなよ。本当のおまえになれたんだろ?」

ナナシスは言った。

「そうかな?俺にはよくわからない。俺はどんな姿をしている?」

加須が言った。

「虹色に輝いているよ」

「虹色?顔は?顔はどんな顔だ?」

「虹色でよくわからないよ」

「それは人ではないのか?」

五味は言った。

「いや、人だ。人だけど・・・」

そこにオーリとラーニャとアリシアが来た。

オーリはしゃがんで、ナナシスの傷を診た。

「ちょっと、傷がよくわからない。全身虹色で・・・」

すると、ボッホは言った。

「その男は虹色でいる間は長く生きられない。その傷がなくてもだ」

ラーニャは言った。

「どういうこと?」

ボッホは言う。

「その姿は、人間そのものの姿だ。ナナシスという個人の姿ではない。もし、ナナシスという個人の本当の姿があるとすればそれは別にある。ナナシスはもう、自由に自分を見つけることができるはずだ。その傷で死ななければな」

アリシアは言った。

「オーリ、早く治療を!」

オーリは言う。

「もうやってるわ。脇に回復魔法の光を当てている。でも、まるで反応がない」

五味は言う。

「医者に診せよう」

九頭は大声で辺りに叫んだ。

「誰か!医者はいないか?」

すると人垣の後ろから声が聞こえた。

「医者ならここにいるぞ」

九頭は言った。

「頼む、ナナシスを助けてやってくれ」

出てきた医者を見て五味たちは驚いた。

「「「「「「ヨッチャン?」」」」」」

「いや、私はヨッチャンではない。その兄のミッチャンだ」

「「「「「「ミッチャン?」」」」」」

オーリは言う。

「誰でもいいわ。治せますか?」

ミッチャンは言った。

「ミッチャンは名医だ。やってみよう」

ミッチャンはしゃがんでレインボーマンのナナシスを見た。

「ナナシスと言ったな?」

ナナシスは答えた。

「はい」

「生きたいか?」

「え?」

「生きたいという意志はあるか?」

「ダメだ。俺はもう死ぬ。最後に本当の姿になれた。これで俺の人生は閉じてもいい」

「それじゃ、助からんな。いくらミッチャンでも死にたい人を治せるほどの腕はない」

「俺が死体になったら、虹色のままかな?」

「さあ、ミッチャンにはわからない。しかし、ボッホ画伯が言ったように、君の本当の姿は他にあるんじゃないかな?」

「他に?これが真実の姿なんだろ?」

ナナシスがそう言うと、ボッホは言う。

「そうだ、『真実の人間』の姿だ。しかし、『本当のおまえ』の姿ではない」

「意味がわからねえぞ。これが本当の姿なんだろ?」

ボッホは言う。

「それは人間そのものの姿だ。しかし、我々人間はそんな姿で生きていけるようにはできていない。生の世界の仮面が必要なのだ。その仮面の中に一番のお気に入りを見つけるのが、自分探しというものだ。おまえは真実の人間にはなれた。しかし、自分が生きる生の世界での仮面は見つかっていないようだぞ」

「生の世界?」

「ここは生き延びて、また自分探しを始めなさい」

ボッホはそう言った。

ナナシスは言う。

「具体的にどうすればいいんだ?」

ボッホは言う。

「とりあえず、適当に、誰かの姿を借りればいいのではないか?そうすれば虹色の光も消えて、傷口が見えるだろう?」

ナナシスは視界にある姿に変身した。それはミッチャンだった。

本物のミッチャンは言った。

「なんで、ミッチャンになるんだ?」

ナナシスは弱々しく言った。

「目の前にいたのがあんただったから。どうだ?傷口は見えるか?」

「見える。うむ。大丈夫だ。これなら回復魔法で治せる」

ミッチャンはナナシスの両脇に、手を当てて、手から緑色の炎のような光を出した。

オーリは言う。

「両手両足も磔にされていたから深い傷が・・・」

ミッチャンは言う。

「生きるためには両脇の傷を治すことが先決だ。両手両足は後でいい」

ミッチャンは額に汗をかいていた。

「よし、もう命は大丈夫だ。担架で宿の部屋まで運ぼう。君たちの宿は?」

加須が指さして言った。

「あそこだ」

「よし、担架で運ぼう」

ナナシスは担架で運ばれた。


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