353、生の世界の仮面
五味は十字架から降ろされた虹色のナナシスを仰向けにさせた。
ナナシスは言った。
「ゴーミ王、クーズ王、カース王、俺はようやく本当の姿になれたんだな?」
五味は言った。
「ナナシス、死ぬな。オーリ!オーリ!来てくれ。回復魔法をかけてやってくれ」
ナナシスはうっすらと笑った。
「オーリの魔法じゃ、無理だ。ううっ。俺はもうすぐ死ぬよ」
九頭が言った。
「バカなことを言うなよ。本当のおまえになれたんだろ?」
ナナシスは言った。
「そうかな?俺にはよくわからない。俺はどんな姿をしている?」
加須が言った。
「虹色に輝いているよ」
「虹色?顔は?顔はどんな顔だ?」
「虹色でよくわからないよ」
「それは人ではないのか?」
五味は言った。
「いや、人だ。人だけど・・・」
そこにオーリとラーニャとアリシアが来た。
オーリはしゃがんで、ナナシスの傷を診た。
「ちょっと、傷がよくわからない。全身虹色で・・・」
すると、ボッホは言った。
「その男は虹色でいる間は長く生きられない。その傷がなくてもだ」
ラーニャは言った。
「どういうこと?」
ボッホは言う。
「その姿は、人間そのものの姿だ。ナナシスという個人の姿ではない。もし、ナナシスという個人の本当の姿があるとすればそれは別にある。ナナシスはもう、自由に自分を見つけることができるはずだ。その傷で死ななければな」
アリシアは言った。
「オーリ、早く治療を!」
オーリは言う。
「もうやってるわ。脇に回復魔法の光を当てている。でも、まるで反応がない」
五味は言う。
「医者に診せよう」
九頭は大声で辺りに叫んだ。
「誰か!医者はいないか?」
すると人垣の後ろから声が聞こえた。
「医者ならここにいるぞ」
九頭は言った。
「頼む、ナナシスを助けてやってくれ」
出てきた医者を見て五味たちは驚いた。
「「「「「「ヨッチャン?」」」」」」
「いや、私はヨッチャンではない。その兄のミッチャンだ」
「「「「「「ミッチャン?」」」」」」
オーリは言う。
「誰でもいいわ。治せますか?」
ミッチャンは言った。
「ミッチャンは名医だ。やってみよう」
ミッチャンはしゃがんでレインボーマンのナナシスを見た。
「ナナシスと言ったな?」
ナナシスは答えた。
「はい」
「生きたいか?」
「え?」
「生きたいという意志はあるか?」
「ダメだ。俺はもう死ぬ。最後に本当の姿になれた。これで俺の人生は閉じてもいい」
「それじゃ、助からんな。いくらミッチャンでも死にたい人を治せるほどの腕はない」
「俺が死体になったら、虹色のままかな?」
「さあ、ミッチャンにはわからない。しかし、ボッホ画伯が言ったように、君の本当の姿は他にあるんじゃないかな?」
「他に?これが真実の姿なんだろ?」
ナナシスがそう言うと、ボッホは言う。
「そうだ、『真実の人間』の姿だ。しかし、『本当のおまえ』の姿ではない」
「意味がわからねえぞ。これが本当の姿なんだろ?」
ボッホは言う。
「それは人間そのものの姿だ。しかし、我々人間はそんな姿で生きていけるようにはできていない。生の世界の仮面が必要なのだ。その仮面の中に一番のお気に入りを見つけるのが、自分探しというものだ。おまえは真実の人間にはなれた。しかし、自分が生きる生の世界での仮面は見つかっていないようだぞ」
「生の世界?」
「ここは生き延びて、また自分探しを始めなさい」
ボッホはそう言った。
ナナシスは言う。
「具体的にどうすればいいんだ?」
ボッホは言う。
「とりあえず、適当に、誰かの姿を借りればいいのではないか?そうすれば虹色の光も消えて、傷口が見えるだろう?」
ナナシスは視界にある姿に変身した。それはミッチャンだった。
本物のミッチャンは言った。
「なんで、ミッチャンになるんだ?」
ナナシスは弱々しく言った。
「目の前にいたのがあんただったから。どうだ?傷口は見えるか?」
「見える。うむ。大丈夫だ。これなら回復魔法で治せる」
ミッチャンはナナシスの両脇に、手を当てて、手から緑色の炎のような光を出した。
オーリは言う。
「両手両足も磔にされていたから深い傷が・・・」
ミッチャンは言う。
「生きるためには両脇の傷を治すことが先決だ。両手両足は後でいい」
ミッチャンは額に汗をかいていた。
「よし、もう命は大丈夫だ。担架で宿の部屋まで運ぼう。君たちの宿は?」
加須が指さして言った。
「あそこだ」
「よし、担架で運ぼう」
ナナシスは担架で運ばれた。




