343、恋の物語
ポルトスは火をおこし、汲んだ清水を沸かした。
「簡単なスープを作るよ」
アラミスは言う。
「ああ、ポルトスがいてよかったなぁ。美味いものが食える」
ポルトスは笑う。
「アラミスよ、おまえのために料理してくれそうな女はいないのか?」
アラミスは言い返す。
「おまえはどうなんだよ。ガンダリアに彼女を残してきたわけじゃないよな?」
ポルトスはジャガイモの皮を剥きながら言う。
「ああ、残してきた」
「え?マジか?」
「俺はゴーミ陛下が逃亡するから護衛につけと言われたとき、長旅になるかもしれない。でも必ず帰ると彼女に言ってきた」
加須が食いついた。
「ポルトスはその彼女と何回やったのか?」
ポルトスは加須に微笑みながら言った。
「何回寝たか、ということですか?」
「うん、言い方は違うけど同じ意味」
「ゼロ回です」
「え?じゃあ、もしかしてポルトスは童貞?」
「まあそうです。彼女とは結婚するまでそういうことは我慢しようと、誓いました」
「すげえ」
五味たちは感心していた。
ハーレムで遊んでしまった彼らには童貞に戻ることはできない。
九頭は訊いた。
「それで、馴れ初めは?相手の職業とか家柄とかは?」
「貴族の娘です」
ポルトスがそう言うと、九頭たちは、「あ~、やっぱり」と肩を落とした。
なぜ肩を落としたか?
九頭たちは、前世を思い出していたのだ。
ただの中小企業の工場労働者を父親に持つ彼らが、美好麗子のような、裕福な娘と結婚できるかと、常に考えて生きていた前世。それが王に転生して、ハーレムで遊びまくった彼らだが、王の重責は耐えきれず逃亡してしまった。家柄で人間の器が決まるのか、彼らはそれに大いに関心があった。ポルトスは貴族、その恋人も貴族。身分社会。
しかし、五味たちの前世の日本は身分社会でない建前を取っていた。しかし、社会には見えない階層があると五味たちは感じていた。美好麗子には明らかに育ちの良い出来杉が相応しかった。五味たちは内心それを認めていたからこそ、あんな嫌がらせをしたのだ。五味たちは前世では主人公になれなかった。では、こちらの世界では主人公なのか?この冒険旅行の主人公は誰か?ユリトスか?
チョロは五味たちに言った。
「なに辛気くさい顔してんだよ」
五味は言った。
「俺たちは恋愛を知らない」
チョロは言った。
「ハーレムで散々遊んだんだろ?何言ってやがる」
九頭も言った。
「俺たちは恋を成就したことがない」
チョロは言った。
「だから、ハーレムで・・・」
加須が言った。
「ハーレム以外で女を抱いたことはない」
チョロは言った。
「贅沢な悩みだな。俺だって、商売の女しか知らねえぞ」
五味は言う。
「ポルトスは帰る場所があるんだろ?その女性が待っているんだろ?」
「ええ、まあ」
ポルトスはスープを作りながら答えた。
五味は言った。
「俺たちには帰る場所がない。待っている女はいない」
ジイは言った。
「何を言うのです?陛下。あなたにはガンダリア王国という帰る場所があるじゃないですか」
五味は言った。
「でも、そこに恋人はいない」
「マリンちゃんがいるではないですか?」
「あれは愛人だ。恋人じゃない」
「陛下は国王なのですぞ。恋人は選び放題じゃありませんか?」
「それではレヨンさんを無理矢理妻にしたダルガンと同じだ。デラン王ヒュンダスもそうだ。俺はそんな権力で女をものにするような真似はしたくない」
「じゃあ、どうしたいのです?」
「物語が欲しい」
「は?」
「恋の物語だ」




