340、マリヨンを出発し旅の目的を語る
夜が明けると、五味たちはレヨンとカルガン王子、ドンブラ将軍と別れた。
別れの場にアトリフたちはいなかった。
アトスはアトリフたちと共に西へ出発していた。
レヨンたちが東へ向けて去って行くのを見送った五味たちの所にローギャンがやって来た。
「描けました。ボッホ先生の肖像画です」
それは画用紙に鉛筆で描かれたものだった。まるで、レオナルドダヴィンチのような顔だったが、五味と九頭と加須も含めたそこにいる者はレオナルドダヴィンチを知る者はいなかったので、そのような指摘はなかった。
ユリトスはローギャンに礼を言った。
「ありがとう。しかし、ローギャンよ。おまえの師匠はなぜドラゴンの絵を描くために旅に出たのだ?」
「それが先生の芸術的テーマなんでしょう。それが芸術家というものです」
「なるほど、そうか」
ユリトスは笑った。
「よし、出発しよう」
一同は馬に乗り、西へ向けて芸術の町マリヨンを出発した。
五味の馬には、彼の前に火の鳥の子ポエニが乗っていた。
先頭を行くユリトスは隣で馬に乗っているオーリに言った。
「そういえば、ラクルスの師匠に会いに行くつもりだったな。召喚師。その人がもしかしたらゴーミ王らの両親を召喚したのかもしれない」
「でも、なぜ、そんなことをしたのかしら?」
「そこが、以前から私が疑問に思っていることだ。私にとって最大の謎だ。そして、ゴーミ王ら三人とも、人格が変わられてしまったところも謎だ。以前は優秀すぎるくらい優秀な王子だったはず。文武の誉れも高かったのに」
オーリは言った。
「私は王らの昔の人格を知らないから何とも言えないけど、中身が誰かと入れ替わってしまったということはないかしら?」
ユリトスは厳しい表情をした。
「彼らが王になりすまして旅をしていると?では、本当の王らはどこに?」
「わからないわ。でも、すくなくとも、以前の王はあんな下品なことは言わなかったのでしょう?」
「うむ。そうだな」
じつはユリトスは国王らの中身が入れ替わった説を前から持っていた。しかし、共に旅をするゴーミ王らの言動、行動を見て、以前の王にはない、別の良さを感じていた。ユリトスが殺さずを意識するようになったのも彼らの思想に感化されたからだった。
ユリトスは言った。
「たしか、ラクルスの師匠はハイン国の外にいると言ったな」
オーリは言った。
「でも、ここはまだ、ハイン国の中です」
「あとどのくらいで、ハイン国領を抜ける?」
オーリは言った。
「ハイン国は西の国境が曖昧のようです。ただ、ルリコン川という川を越えればほぼ国外のようです。そして、それより西には都市国家の世界が広がっています」
「都市国家?」
「大きな領土を支配する王がいるのではなく、それぞれの都市が独立国家になっているようです」
先頭のふたりはこんな話をしていたが、最後尾の三人は例によって、エロトークをしていた。もうこのエロトークには飽き飽きしたという読者もいるかもしれないので、割愛しようと思うが、このとき、五味たちが話題にしていたのは、レヨン王妃に変身したナナシスの後ろ姿だ。四十代の成熟した女性の魅力について三人は大いに話が盛り上がった。五味の前に乗っているポエニも話を理解しているか不明ながら、嬉しそうに、「ポエエエ」と笑い声とも取れる声を出していた。
次の町までは森の中のドラゴン街道を歩き、途中で食事を取って、のんびりと歩いた。
次の町は小さな町で、アズラップといった。その町に着くまで、五味たち三人はずっと四十代の成熟した女性について妄想を働かせて盛り上がっていた。
アズラップは小さな町で、宿も数軒しかなかった。アラミスは探りを入れたが、アトリフたちはすでに次の町に向かったようだった。
ユリトスは夕食の席で言った。
「そうだな、バンバンがアトリフに復讐に来るだろうと言っていたな」
ポルトスは言った。
「先生を狙う可能性はありませんか?」
「あるな。しかし、私は奴と戦う気はない。負けるからな」
「何を弱気なことを言ってるんです」
「私は世界一の剣豪などではない。ロガバでは世界一などと言われていたが井の中の蛙だよ。奴には戦わずに負けを認めるつもりだ」
「しかし!」
「なんだ、ポルトス、私に世界一の剣豪にでもなって欲しいのか?」
「俺は世界一の剣豪ユリトスの弟子というのに誇りを持って生きてきました」
「世界一?くだらんよ。それに人間は必ず老いる。老いたら剣技も弱くなる。ゆえに最強というものがあったとしても一時期のものに過ぎない。必ず次世代の強い者が現われる。あのバンバンの父、ブンブンはそれをわかっていたはずだ。彼らのくだらん継承の掟はバカげているがな」
アラミスは言う。
「じゃあ、バンバンの相手はアトスとザザックに任せると言うことですか?」
「そうだ。私たちは自分たちの旅の目的を遂げることだけを考えよう。まずは、ロガバの先代国王夫妻を召喚した召喚師を探す。それから、ロガバの国を創ったという伝説のドラゴンを探す、そのドラゴンこそゴーミ王らの血で願いを叶えてくれるドラゴンだろうと私は考えている」
オーリは訊いた。
「ユリトス様は何を願うつもりですか?」
「それはゴーミ王らが考えることだ」
チョロが言った。
「ドラゴンの秘宝は?」
ユリトスは言った。
「それは旅の目的にはない。私の旅の目的は、先代国王夫妻をロガバに連れ帰ることだ。召喚師がロガバまで送致してくれるのならば、それがベストだと思っている。それと・・・」
ユリトスは席の端でナナシスのカラダを鼻の下を伸ばして見ている五味、九頭、加須を見た。
そして思った。
「彼らの人格が戻ることはないのか・・・?」
すると、その五味が言った。
「ポエニのお母さんを探さないと。そのためにはあの祭壇画の作者ボッホを見つけるのがまずは最初に達成する目的じゃないか?」
「ポエエエッ!」
ユリトスは答えた。
「うむ、そうだな」
ユリトスは考えた。
「彼らのままでも悪いわけではないのだが・・・」
一同は食事を終えると部屋に戻った。
その食堂に残った他の客がいる。彼らはカウンターに座って食べていて、五味たちの席からは顔が見えなかった。ひとりは太った女であり、もうひとりは禿げた中年の男である。
「マック、絶対に、あたしはあの火の鳥の子供を手に入れてやるよ」
「ハギー、あんなに大物の獲物は今までにないぜ。しかし、どうする?策はあるか?」
「あるよ」
「なんだ?」
「あいつら三人の少年はスケベだ。で、あたしは女だ。しかも、自分で言うのもなんだけど、いい女だ。色気を使って、奴らを手玉にとってその隙にあんたがフェニックスの絵を描いて、そいつを絵に封じ込めて逃げるんだ。馬車に特製の鳥かごを載せてきたからね」
「うむ、わかった」




