34、殺さず
「え?」
五味たちは驚いてラレンの姿をしたナナシスを見つめた。
ユリトスは訊いた。
「どういうことだ?」
ナナシスは言った。
「あの町はもともとは鉱山の町だったんだ。色々な金属が取れる鉱山だったよ。もちろんロンガ王国内にあるから、ロンガ王国に取れた鉱物は売っていたんだ。しかし、次第に鉱物は取れなくなってきたんだ。町全体は貧しくなり、去る町人が増えていった。俺の家族もそこから去ったくちさ。俺が幼い頃だ。俺が物心ついた頃にはもう町は潰れたと親たちは言っていた。俺にはその町の名前もわからない」
「名前もわからない?なぜだ?」
ユリトスは訊いた。
ナナシスは答えた。
「みんなその話はしないんだ。理由は知らねーよ。ただ、最近では山賊のカードックがそこから来るのではないかと噂では聞いていた。でも、軍が調べてもカードックの正体はわからねえんだ」
「カードックの正体がわからない?軍が調べてもか?もしかしてさっきの鉄仮面たちのように賊を働くときには仮面を被っているのか?」
「それは俺も知らねえが、軍がその町に行っても、カードックなんていう人間は見つからないんだ」
ジイは言った。
「それは軍の調査が甘いのでは?」
「そうかもしれない。でも、軍もそのことを不思議がっているらしいんだ。もうこれ以上のことは俺にはわからねーよ」
ナナシスは首を横に振った。
一同は眠りに就いた。
ただ、焚火はまだ燃えていて、例によって、五味と九頭はアリシアの体をジロジロ見ていた。
そこへ、暗闇から森の茂みの中をガサゴソと音を立ててやって来る者があった。
五味と九頭はビビッて、もうアリシアを見ることを忘れてしまった。
ユリトス、ポルトス、アラミスは剣を取って立ち上がった。ジイは目を覚ますと五味をかばうようにして構えた。九頭とアリシアもジイの後ろに隠れるように立った。ナナシスは眠っている。
五味は以前、森の中でサーベルタイガーに襲われたことを思い出した。
「大丈夫、ユリトスさんはサーベルタイガーより強い。大丈夫、大丈夫」
などと言って五味は自分を落ち着かせていた。
茂みをガサゴソかき分けてくるその者は姿を現した。それはひとりの少女だった。十五歳ほどの娘だった。
彼女は言った。
「助けてください。私はカードックの所から逃げてきました」
ユリトスは言った。
「なに?カードック?この近くにいるのか?」
「はい、この付近の山が奴らの根城のようなものです」
「案内できるか?」
「できません。しかし、奴らはたぶん私を追いかけてきます」
「ここに来るのか?」
「たぶん、もうすぐ」
すると森の中から声が聞こえた。
「へへへへ、見つけたぜ。オーリちゃん。俺から逃げ出すなんざ、命知らずだな」
その声のほうへユリトスたちは身構えた。
茂みの中から二十人ほどの男が現れた。いや、男というのは若過ぎる。皆、十代の少年といった年頃だった。
「旅人さん。オーリちゃんを俺たちに返しな」
リーダー格の少年が言った。まだ五味たちと同じ十五歳くらいに見えた。
「おまえが、カードックか?」
ユリトスは訊いた。
「ふふふ、そうだ。俺は大山族の頭、カードックだ」
カードックたちは馬には乗っていない。歩きで、それぞれ刀を手にしている。
ユリトスは「これは乱戦になるな」と思ってちらりと五味たちのほうを見た。ジイが三人とオーリという娘を守っている。ラレンの姿をしたナナシスはまだ寝ている。戦力はユリトス、ポルトス、アラミスの三人。相手は二十人。二十割る三を計算すれば、ひとりで六人から七人を倒さねばならない。ユリトスはもう一度カードックの一味を見た。十代の少年が二十人。こちらは世界一の剣豪の自分と、その弟子で三銃士のふたりだ。そして、ユリトスを悩ませたのは、五味たちが言った「人を殺さないでくれ」という言葉だった。殺さずにこの二十人を倒せるだろうか。いや、全員を倒さなくても足りる。戦意を喪失させればよい。そこでユリトスは自分の常套手段を使った。
「私はユリトス。世界一の剣豪と言われている」
二十人の少年のうち何人かはたじろいだ。ユリトスは「効果あり」と思った。
「そして、このふたりはポルトスとアラミス。私の弟子で、ガンダリアではもうひとりの弟子アトスと組んで三銃士と言われていた。強いぞ」
これでまた、何名かがたじろいだ。ユリトスはそれを見て敵の力は半減したと見た。
ユリトスはポルトスとアラミスに小声で言った。
「殺さずに、陛下たちを守るように陣を組め。襲って来た者だけを相手にしろ」
「殺さずにですか?」
ポルトスは言った。
アラミスも言った。
「殺さずに戦う。初めての試練だな」
「おまえたちならばできる」
カードックは叫んだ。
「野郎ども、やっちまえ!」
山賊たちはユリトスたちに襲い掛かって来た。
ユリトスは一人目の剣を弾いて、肩を刺した。
「ぐおっ」
これでひとり戦力減。
同じようにポルトスもアラミスも相手の致命傷を避けるようにサーベルを敵の体に刺した。
一見乱戦に見えたが、ユリトスたちの動きは無駄がなく、確実に相手の戦力を奪っていった。そして、いつのまにか、地面には傷を負って倒れた若い山賊たちが転がっていた。唯一立っていたのは戦闘に参加していなかったリーダーのカードックだけだった。
ユリトスたちは無傷だった。
「カードックよ。降参しろ」
ユリトスはそう言うと、若者は逃げ出した。
ユリトスはナイフを投げた。それは若者のふくらはぎに刺さり、彼は倒れた。ユリトスは彼を縛り他の者は傷の手当てをしてやってから縛った。
ユリトスはリーダーに言った。
「カードック、いや、少年よ。おまえの本当の名は何と言うのだ?」
少年は言った。
「だから、カードックだよ」
ユリトスはサーベルの先を彼の首筋に当てた。
「名乗れ」
「くっ」
少年は観念して言った。
「俺の本当の名は、ラルフ」
「ではラルフ。おまえはなぜ、カードックと名乗りこの辺りで山賊を働いた?」
「へっ、それは山賊が一番自由だからよ」
「自由?」
「そうじゃねーか。法律なんか守らなくていいんだ。村などを襲って食べ物や飲み物、金品それから女を奪う、自由じゃねーか」
「おまえはその生活を一生するつもりだったのか?」
「なに?俺に説教を垂れる気か?」
「では、質問を元に戻そう。なぜ、カードックを名乗った」
「へっ、そうすればみんなビビるじゃねえか」
「それだけが理由か?」
「そうだ、それだけだ」
「ガキだな。では、おまえは本物のカードックとは全然関係ないんだな?」
「少しはある。俺たちはみんなカードックの町の出身だ」




